三十一話 メイドだなんてもったいない!? 2
しまった。俺とした事が動揺のあまり油断していた。
何て事だ、まさか目の前でヨルダを連れ去られてしまうとは……
しかも、あの三色に彩られた鎧武者、『特製キメラゴーレム』とやら。あれは。
「……け……く……」「たす……て……れ……」
その鎧は何処か見覚えのあるようなものであり。また二人分の、尚且つそのどちらもが異なる声質の呻きがその中からは聞こえてくる。
それに加え、彼女は確かアレに向け、「流石防具の中に〝微妙な実力とはいえ二人の冒険者〟を組み込んだだけの事はある」などと言ったはずだ。
そこから導き出される答えは……ああ、あの娘は何と悍ましい事をするのだろう。
アレは恐らく、いやほぼ間違いなく。
アダレスとミゲル、それに彼等の装備していた防具とを錬成して作り上げた、文字通りのキメラゴーレムであるのだ。
……これは、本当にマズいかもしれないぞ。
撃破自体は容易であろうが、それでもヨルダを盾にされれば俺に為す術は無い……にも関わらず、あのキメラゴーレムを攻撃すれば中の二人にまで危険が及び……
つまり俺は、既に今この時でさえ手も足も出せないという状況に置かれているのだ。
そんな者が、何をどうしたらヨルダを奪い返せるというのだろう……とはいえ。
何処かにあるかもしれぬ僅かな希望も、泣き言ばかりではやって来ない。動かねばならないのだ。
希望は、自身で見つけ出すものだ。
「そ、そんな……エスピリカ、良い人だって思ってたのに……どうして……」
「ユーデリア、話は後だ。とにかく追うぞ!!」
そこで漸く踏ん切りの付いた俺は一度考えるのを止め、ヨルダ救出へと向けて動き出した。
「さあさあ妹様!!教育係さん!!しっかりついて来て下さいねぇ!!
功労者であるアナタ達にも、ヨルダの最期を見届ける権利を差し上げましょう!!特別大サービスですよぉ……ムヒヒ!!」
一方で、そんな俺達を嘲笑うかのように楽しげな姿を見せるエスピリカは。
「さあ行くのです!!特製キメラゴーレム!!」
キメラゴーレムの肩へと飛び乗り、そのままダンジョン最奥の闇に消えようとそれを鞭打ち、走らせ続ける。
……そうして、追走劇が幕を開けた。
選択の余地無くして始まった追走劇。だが、しかし。
邁進しつつも目標との距離はなかなか縮まらず……だからそう、事態は文字通り平行線上で一切として交わらず、進展など何も無く。ただその上にあるのみであったのだ。
何せ、俺はユーデリアを抱えたままであるから全力疾走が行えず、どう足掻いても一定の距離を保つような形を抜け出せずにいたのだから。
とは言え、今ユーデリアを放り出してしまえば体力の無い彼女は次第に速度を落とし、遅れを取り、果てはここに棲まう魔物達の胃袋へと姿を消してしまうだろう……そんな未来だけは絶対に避けねばならない。
しかしヨルダの事も心配だ。敵に身柄を押さえられている以上、いつ何をされてもおかしくはない。ならば早急に助け出さなければと言うものであろう。
……などとは考えているものの、未だ後を追う以上の行動には移せず。だからと言って『姉を取るか、妹を取るか』という取捨選択など尚更出来ず。
差し当たり、今は走り続けるしかなかった。
だがそれにしても、あのキメラゴーレムとやらの体力も相当なものだ。先程からずっと速度を落とす事もなければ息が切れるような様子もない。
もしかすると、あの鎧が無理矢理に動いているからこそそれが可能というだけで、中の二人は今現在も疲弊し続けているのではないだろうか?
それは分からないが、とにかく。可能な限り一刻も早く事を終えなければならないのは確かだろう。
……出来るのならば、とっくにやっているのだがな。
すると、そんな時だった。
気が付けばかなりの距離を移動していたという事だろうか。いつしかダンジョンの最奥へと辿り着いたらしく、エスピリカとヨルダとを乗せたキメラゴーレムはそこで漸く動きを止めた。
その場所だけはやや広い円状のようになっており、またそれ以上先へと進めはしない突き当たりでもある。
だとすればやはりと言うべきか、ここが最奥かつエスピリカの目的地と見て間違いはなさそうだ。
数秒後、彼女と同様そこに足を踏み入れた俺は、周囲に魔物の気配がない事からユーデリアを地へと降ろし。
そして遂に、エスピリカと対峙した。
「……ムヒヒ。お二人共、ちゃんとついて来てくれたようですねぇ……さあ、それでは早速。
今から我が仇敵、ヨルダの贖罪を始めるとしましょう!!」
エスピリカはそう告げると共に、眷属であるキメラゴーレムから飛び降り。
主を運び終えた従者もまた、ヨルダを放り捨てるとすぐさま懐の剣を手にする。
……次の瞬間だった。
今の今までその隙を窺い続けていたのだろうヨルダが地を転がりつつも反撃し、エスピリカへと剣を振るったのは。
「……クソッ、浅かったか」
しかし咄嗟の行動に、身体が追いつかなかったようだ。
ヨルダの一撃はエスピリカの仮面を掠めるのみに留まり、彼女が倒れる事はなかった。
……だが、傷は無くとも成果はあった。
それによってエスピリカの仮面にぴしぴしと亀裂が走り、やがて。
彼女の素顔を守っていたそれは真っ二つに裂け、そこで漸くエスピリカの面が明らかとなったのだから。
また、それと同時に俺は。
彼女が真に、俺の知るエスピリカ本人であると確信する……
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