三十話 メイドだなんてもったいない!?
アダレスでもなければミゲルでもない、魔物達をただの一度『姿を現す』というのみで退散させたその者は。
膝丈のチュニックと黒のタイツ、それらを纏ったその身を更にフリルで着飾るという。つまりは使用人と、もっと言えば『ヨルダの屋敷でよく見る使用人達』と同じ格好をした。
透き通るような白髪と、そして……俺と似たような材質の仮面で顔を覆った少女であった。
あれは、あの少女は……多分だがヨルダの探していた使用人と見て間違いないだろう。というか、まずそもそもとして服装がそれを饒舌に物語っている。
しかし、それだけに分からない。彼女がそこに立つ意味が。恐らくではあるが、自らの意思で竜隠しの岩屋へと足を踏み入れた理由が。
それに何より、殺気を放つ彼女のその思考が。
そうして唐突に訪れた静寂の中、それに従うかのようにして俺が何も言えずにいた時。
沈黙を破り、声を発したのはユーデリアだった。
「……あら?もしかして貴女、先日街で私にアドバイスしてくれたあの人かしら?」
そう言う彼女の顔には嫌悪や不快感、恐怖といった色は見当たらない。
それどころか目前の人物に対し、好印象でいるようにさえ感じられる様子だ……それが、禍々しいとも言えるような雰囲気を纏っているにも関わらず。
「ユーデリア、あの娘を知っているのか?」
「ええ、仮面で顔が分からないから多分だけどね。でも、背格好も髪色も似ているからきっとそうだと思うわ……それより!
聞いて先生!今回の討伐依頼を受けると良いって私に教えてくれたのがあの人なの!それどころか集会所にも一緒について来てくれたり、私の依頼受注も手伝ってくれたりしてね、とっても良い人なのよ!」
「そ、そうか……」
ユーデリアはそう言って眩い笑みを溢す……が、そんな彼女の前には素直に喜べぬ自分がいた。
何せその話が本当であれば、コイツこそがこの面倒事の元凶という事なのだからな……まあ良い。
例え殺気を放っていなくとも。何もしていなくとも。どの道、この娘には少し〝お仕置き〟が必要だろうな。
……などと考えていた俺の余裕は直後、一瞬にして弾け飛ぶ事となる。
それは、次に始まる姉妹の話が発端であった。
「でも、まさかその人がウチの使用人だったなんて驚いたわ……最初に会った時の既視感はこれだったのね。
それで、ええと名前は確か……そうよ!
〝エスピリカ!!〟
そうよねお姉様?っていうか、お姉様の探していた使用人ってこの人?」
「ああ、その通りだ……エスピリカ!!お前エスピリカだろう!?良かった、無事だったんだな……!!」
「エ……エスピリカ!?エスピリカだと!?」
突然、姉妹から聞かされたその名に頭を殴られたような衝撃を受け。
俺は言葉を失い再び沈黙の海に一人、その身を沈める……
「えっ、せ、先生?急にどうしたの……?」
俺の反応に驚き、ユーデリアの肩が腕の中でぴくりと跳ねた。
だがしかし、謝罪など出来なかった。俺の口からその言葉がどうしても出てこなかった。もっと言えば口が動かなかった。
そこからも分かるように、今の俺はとてもそう出来る程の精神状態ではなかったのだ。
何故ならば……エスピリカというその名は。
遥か過去にこの世を去ったはずの、我が愛弟子のものであるのだから。
とはいえ、全てを鵜呑みには出来ない。例えばそう、確かエスピリカは白髪ではなかったはずだ。よって、あの娘が俺の知るエスピリカとは同一人物でない可能性もまた充分にあると言えるだろう。
だが一方で、あれが彼女だと言うに足る証拠もまた存在している。ユーデリアも言ったように体格や身長なんかがそうだ。
……なら。ならば、俺は一体。
何を信じれば良いと言うんだ……?
喋れぬ以上に、動く事など到底出来なかった。
しかし、俺がそうしているうちにも時は、事態は進んでゆき。
「だが、それにしてもエスピリカよ、お前は何をしにこんな所へとやって来たんだ?そんな仮面まで付けて……とにかく無事で良かった、心配したんだぞ?
……エスピリカ?」
「……………………ムヒヒ」
徐々に訝しむような表情と変わるヨルダの発言に応え、エスピリカと呼ばれた彼女は。
仮面越しのくぐもった声を俺達に寄越す……彼女は確かに、確かに微笑んでいた。
瞬間、場の空気が一変する……
「……エス、ピリカ?」
エスピリカの微笑みを受け、顔を曇らせるヨルダ。
「…………」
情けなくも未だ何も出来ずにいる俺。
「え?え?ど、どうしたの二人共……?」
唯一、無知であるが故に困惑するユーデリア。
そんな三人を前に、見に纏う雰囲気をピリピリとしたものに変えた少女、エスピリカは。
今度は俺達と代わるかのように。いや、立場を変えたかのようにして。漸く語り出した。
「…………ムヒヒ。
長らく使用人として屋敷に紛れ込み、好機を窺っていましたが漸くそれも終わり……遂に、遂にこの時が来ましたねぇ。
妹様には感謝のしようもありません。それと、彼女をやっと外へと連れ出してくれた教育係のアナタにもです。
ユーデリア様、教育係のアナタ、本当にありがとうございました……お陰でアタシはやっとお師匠様に御恩返しが出来ます。
さあ、それではヨルダ様……いえ、ヨルダ!!
かつてお前と同じギルドに所属していた我がお師匠様を、追い出し、嘲り、嗤い者とした阿呆の最後の一人……そんなお前には、今こそその罪を償ってもらいますよぉ!!」
そうしてエスピリカが話し終えた次の瞬間。
「きゃあ!!」
「うわっ!?何を……」
姉妹の叫びが聞こえ、俺は肩に風を感じた。
背後にて息を潜めていた何かが、俺の脇を通り抜けて行ったのだ。
「……け……く……」
そして、その何かとは……銀や褐色、緑といった様々な彩色が施された、呻く鎧武者のような何か。
「ムヒヒ……流石、防具の中に〝微妙な実力とはいえ二人の冒険者〟を組み込んだだけの事はありますねぇ!!なかなか良い動きですよぉ!!
さあ、私の可愛い特製キメラゴーレム!!にっくきヨルダをその最期に相応しい場所へと連れて行くのですよぉ!!」
もとい、彼女の言う所の『特製キメラゴーレム』なる生物は。
「ク、クソ……!!動けん……!!アルス!!ユーデリア!!」
俺の側を通り過ぎた姿勢のまま。もっと言えば、その際に捕えたのだろうヨルダを抱えたまま。
更なる前進を始め、エスピリカの元へと駆け出してゆくのだった……
「し、しまった……ヨルダ!!」
「お姉様!!お姉様ー!!」
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