二十九話 殺気だなんてもったいない!!
ミアリーの願いを聞き入れ、二人で『竜隠しの岩屋』へと遂に足を踏み入れた俺とヨルダ。
…………ちなみに。
「ねえ貴女」
「は、はいミアリーさん!!どうかしましたか!?」
「これくらいの傷なら自分で何とかなるわ。だから貴女、ヨルダさん達について行って良いわよ。行きたいんでしょ?」
「え?で、でも……実は私、ダンジョンに入った事は愚か戦った事もなくて……」
「大丈夫、貴女が先生って呼んでたあの仮面の人。ヨルダさんがあそこまで信頼しているのなら相当な実力を持っているはずよ。だからきっと、貴女を守り抜いてくれるはずだわ……それに、何だか貴女はここにいるべきじゃないような、そんな気がするの」
「…………ミアリーさん!!私行って来ます!!」
「フフフ、良い返事。じゃあ頑張ってね〜」
その後すぐにユーデリアが俺達を追い駆けて来ていたなどとは、この時の俺達はまだ知る由もなかった。
「ヨルダ、一つ聞いて良いか?」
「どうしたアルス、今日はやけに質問が多いな……冗談だ。それで、私に何が聞きたいというんだ?」
「ミアリーから訳を聞いた時だ。何故お前はあの時、街に助けを呼びに行くなどと考えたんだ?自分で言うのも何だが、今ここには俺がいるだろうに……それが少し気になったものでな」
「何故も何も、ここにはミアリーと同じギルドに所属している者達がいるんだぞ?お前が『国崩し』だと気付かれてしまう恐れがあるじゃないか。だから私はお前が付いて来るのには反対だったんだ」
「あ……ああ、なるほど」
「当の本人がその様子では、気付かれてしまうのも時間の問題だぞ?これからはもう少し慎重に行動する事だな」
「…………」
とにかく、そうして竜隠しの岩屋を歩き進めている俺達。
それは視界を闇によって邪魔され、また石筍や段差などに度々足を取られながらもひとまずは順調と言えた。
まずそもそもとして、魔物との遭遇が皆無であったからな。それに比べれば前述したような障害などどうという事もない。というか、障害と呼ぶレベルですらないと言えよう。
ちなみに、それは何故かと言うと……いやすまない、正直に打ち明けると正確な所は俺にも分からない。
ただ例を挙げるとすれば、それは俺とヨルダがある程度の実力を有している事。それと、俺の装着している仮面にこの山地の竜の骨が使われている事。それらなどが要因である可能性が高いと言えるだろう。
ま、真実が定かでない以上、これは推測の域を出ない単なる仮説の話でしかないのだがな。
まあ何にせよ、こちらにとっては好都合である事には変わりがない。
これならば無駄な体力も消耗せず、迅速に物事を進められそうだ……そう、思っていた。
「ギャー!!お姉様!!先生!!助けて〜!!」
実力も乏しければ仮面も持たない、俺達とは正反対に位置する彼女、ユーデリアが。
大量の魔物を引き連れ、こちらへとやって来るまでは。
「何だか後ろが騒がしいな……ん?お、おいヨルダ!!あれを見ろ!!」
「アルス、今度は一体何だ……って、ユ、ユーデリア!?」
後方より聞こえる騒音。それと生物の気配に俺達が振り返り、目を凝らした時。
その時にはもう、手遅れであった。
「いた!!先生〜!!お姉様〜!!お願い助けて〜!!」
「お、お前、一体ここで何をしているんだ!?」
俺は呆気に取られ。
「ごめんなさい〜!!でも私、やっぱり自分の責任は自分で取りたくて……!!」
「……それで、責任を取るため私達の前に大量の魔物を差し向けたというのか?」
ヨルダは困り果てたような顔で額に手を当てる。
「ち、ちが……とにかく、助けて〜!!」
何故ならば、そこには涙目で全力疾走するユーデリアと、そして。
恐らくはサラマンダーの亜種か何かであろう、洞穴を這いずるように進み獲物を狙う黒き大蜥蜴。
金切り声のような叫びを上げ娘に迫るは蛇のような、鶏のような魔物バジリスク。
もしかすると、先程マガル丘陵を飛んでいた個体の親戚か何かなのかもしれない、数匹の色鮮やかなドラゴン……等々、まさに魑魅魍魎、百鬼夜行である。
と、それ程までに沢山の魔物達が、彼女と共に押し寄せて来ていたのだから。
だからそう。その先陣を切る彼女はさながら彼奴等の総大将と言った所だろうか。
……まあ、下らぬ話はこれまでとして。
「先生、先生〜!!……きゃ!あ、ありがとう先生〜!!」
「ちょ、止め……分かった分かった!!分かったから一旦落ち着けユーデリア!!」
俺はこちらへ走り着いたユーデリアを素早く横抱きにし、彼女が首に手を回そうとするのを幾度も振り払いながら。
「と、とにかく奥へ行くぞ!!走れヨルダ!!」
「言われずとも!!」
ヨルダと共に洞穴の中、闇を裂く光のように駆け出した。
だがそれでも魔物達は娘を執拗に狙い、その背中をいつまでも追い続けて来る。
また夜目が効くのだろう、一心不乱に前進しつつも速度を落とす、鍾石に頭をぶつける等するものの姿は皆無だった。
にも関わらず、これまたタチの悪い事に一匹残らず興奮しているときた。
これでは俺達の存在も、仮面も意味を成さないはずだ。本能のみによって動く今の奴等にとって、そんなものは最早虚仮威し……というか、見えてすらいないだろうからな。
……などと予想したが、それは間違いだったようだ。
いや、先程述べたような事柄が間違っていたというのではない。俺の予測が外れていたのだ。
「ねえ先生、前、前!あそこに誰かいるわ!」
「もしや、アダレスとミゲルか……?」
「それよりも見ろお前達!!魔物が一斉に逃げてゆくぞ!!」
何せ魔物達は俺の遥か前方。そこに突如として姿を現した者の放つ殺気を感じ取ったらしく。
すぐさま蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出して行ってしまったのだから……そこで漸く分かった。
どうやら、俺達は彼等にとって取るに足らぬ存在と思われていたようだと。いや、それ程の殺気を目の当たりにして初めて皆が逃走を始めたのだから、そうに違いないのだ。
まあ、俺達は激しい敵意など有してもいなければ、それを向ける相手もまたいないのだからむしろ当然と言えるが……とにかく。
そんな魔物達の姿を見届けた後、俺達は洞穴の奥へと再度視線を移す。
まるで、そこにいる存在に引き寄せられるかのように……そして、その全容を俺達は見た。
それは、少女の姿をしていた。
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