二話 殺生なんてもったいない!!
そうして、周囲には静寂が訪れた。あるのはただ、俺が『火精霊の鱗』を掻き集めるガサゴソという物音だけだ。
女性は落ち着きを取り戻したようで、立ち上がり俺の方へと歩み寄って来るのがその足音で分かる。
「た、助けてくれてありがとう……でも、一つ聞いて良いかしら?どうしてサラマンダーにトドメを刺さなかったの?アナタならきっと出来たはずでしょう?」
彼女は俺の背後にまでやって来ると、そんな事を言う。
そこで俺は素材に目を向けたまま、その理由を彼女へと話してやった。
「ん?ああ、それはな……もったいないからだ。
確かにあそこでアイツを殺していれば、これよりも沢山の素材が手に入っただろう。だが、それだけだ。アイツから素材を採取出来る事はもう二度とない。
それでは実に、もったいないだろう?
だから見逃してやったんだ。そうすればいずれ、もっともっと沢山の『火精霊の鱗』や『火精霊の牙』が…………ん?牙?」
だが、そこで自ずと話すうちにある事を思い出し。
「あぁ、牙!!忘れてた……!!しまった!!最悪だぁ……採取し忘れたぁ!!」
俺は頭を抱え、叫ぶ事となった。
それはまるで、先程のサラマンダーのように……俺は勝負に勝って試合に負けたと言う事か。
いや、それは違うか……とは言え。
『火精霊の牙』は採り忘れるわ、女性はまた俺にドン引きしているわで。どちらにせよ今は、敗北したかのように最悪な気分である事だけは確かだった。
「あぁ最悪だ!最悪だ!!頼む!!頼むサラマンダー!!戻って来てくれぇ……!!」
「えぇ……何なのコイツ……急に叫び出したかと思えば、今度は突然変な事言い始めるし…………あら?」
まるで敗北したかのように悲しみに暮れ、悲痛に叫ぶ俺。と、それを見てまたドン引きする女性。
「ね、ねえちょっと!!ねえしっかりしてよ!!」
すると、そんな彼女が何故だか俺の肩を何度も何度も揺すり始めたのだが。
残念ながら絶賛苦悶中であった俺は、それに答える事が出来なかった……
だがしかし、思いの外早く俺は絶望の淵より脱出を果たした。
何故かと言うと、『絶望よりも驚きの方が勝るような出来事があった』からだ。
そして、その出来事とは……そう。
「ねえ、ちょっと……聞いてるのアルス!?アルスってば!!貴方アルスなんでしょ!?」
本当に驚くべき事に、彼女が俺の名を知っていて、事実アルスとそう呼んだのである。
「え!?な、何で……俺の名前を……!?」
俺は弾かれたように彼女へと視線を向けた。
恐らく、その動作によって放り捨てられてしまったからなのだろう、苦悶も絶望も全て忘れ。
だが、それはむしろ当たり前の反応だと言えるはずだ。俺は彼女に名前を告げた覚えなど、これっぽっちもないのだから。
それにしても、本当に何処でその名を知ったんだろう?俺言ってないよな?いや絶対言ってない。彼女とまともに話したのなんて数秒前からだし。
すると、答えは自ずとやって来た……彼女の口を通して。
「やっぱりアルスなのね!!良かった〜!!
実を言うと、本当は『多分そうなんじゃないかな?』ってくらいの、ただの当てずっぽうだったんだけどね……でも、歳も私と同じくらいに見えるし、何処か面影もあってさ、そうだったら良いな〜って思ってたの!!
でも、まさか本当にアルスだったなんて!!嬉しいわ!!久し振りねアルス!!アルス〜!!」
「あ、ちょ!!急に抱き付くなって!!大体アンタ何者だ!?俺の事知ってるみたいだが、俺はアンタの事なんて何も……」
「……え、えぇ!?はぁ!?アンタ、もしかして忘れたの!?昔はいつも一緒に遊んでたってのに、それはちょっと冷た過ぎるんじゃない!?
私よ!!サブリナよ!!本当に覚えてないの!?」
「サブリナ?…………あ!」
片方は困惑し、片方は怒りつつも抱擁を止めないという、そんなよく分からない状況の中でありつつも。俺は何とか記憶を呼び覚ます事が出来た。
そう……彼女こそはサブリナ。
幼少期、俺とよく行動を共にしていた女で、もっと言えば幼馴染だ。
「良かった!!思い出してくれたのねアルス!!本当に良かった〜!!……けど。
それにしてもアンタ、随分と見違えたわね。顔は相変わらず悪くないままだけれど、目は片方昔と色が違うし、髪の色も黒かったはずよね?それが今は、青色みたい……一体どうしたの?」
「ああ、それは俺が錬金術師を生業にしているせいだ。錬金に使う素材の中には危険な物質なんかもあったりする。そういったものが影響して、いつの間にかこうなっていたんだ」
「へえ〜……でもそれ、私は悪くないと思うわよ!」
「それは良かった、でもサブリナ。分かったからそろそろ離れてはくれないか?お前は悪くないと言ってくれたが、少なくとも俺の居心地は悪いままなんだ」
「え?……あ!?ご、ごめんごめん!!私嬉しくてつい……」
そこで漸くサブリナは抱擁を止め、俺はやっと彼女の顔をまじまじと観察する事が出来た。
くりくりとした黒色の瞳。同じく黒の長髪。今は遊びではなく畑仕事でそうなっているのかもしれない、小麦色に焼けた肌は何処か活発そうに彼女を彩る。
これで服装が使い古したブリオーとマントルなどでなければ、殊更に彼女の魅力は引き出された事だろう。
だがそれでも、とても美しくなったように思える。あの頃はちんちくりんくらいの印象しか無かったが、今はもう背丈も俺よりやや低いくらいだ。
加えて、確か歳も俺と同じ……だから二十三、四くらいであろう。これならば村の男達が放っておくはずもない。
先程見違えたとサブリナは言ったが、それはこちらの台詞でもあったんだな。
だがしかし、そんな彼女が何故ここにいるのだろう?
それもわざわざ一人で……もうあの頃のように『冒険』と称して遊び歩く年齢でもなければ、ここはそう簡単に足を踏み入れて良い場所でもないはずだ。
そう考えた俺は、彼女にその理由を尋ねてみた。
「なあサブリナ。ところで何だが、何故お前はセルパ大森林の中なんかにいるんだ?
確かに、ここはお前のいる村からそう遠くはないだろうが……だとしても危険過ぎる。何か理由があるんだろう?教えてくれないか?」
すると、その途端にサブリナの顔が曇るのを俺は見逃さなかった。
とは言え何か問題があるのならば、それを解決しなければまた彼女はこの場所へとやって来るだろう。
だからそう、聞き出さなければならないのだ。幼馴染が魔物に食い殺される姿など見たくはない……俺は待った。
『話したくなければそれで良い』などとは決して言わず。ただひたすら、彼女が語り出すその瞬間まで。
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