二十三話 隠れるだなんてもったいない!!
現在、我が住処としている街リゾルセン。
そこから東方へ暫く進むと、『マガル丘陵』という山地がある。
マガルとは付近の先住民族達の言葉で〝竜〟を意味する単語であり。その名の通りドラゴン種の魔物が多く生息しているがために非戦闘職がそこに足を踏み入れる事はあまり推奨出来ない。
しかもその上、マガル丘陵の中には殊更に恐ろしい場所があるというのだから。一般人、もしくはそれに近い戦闘能力の者がそこに行くなど勧められる訳が無いのだ。
そして、その場所とは。
大きな洞穴だ。御者に聞いた所、付近の人々からは『竜隠しの岩屋』と呼ばれているらしい。
(ちなみに、何故かその時ユーデリアがあたふたとしていたのを覚えている)
それはかつて、そこに踏み込んだという王都でも指折りの実力者揃いであったとあるギルド。
そのメンバーが『〝たった一人〟しか帰還しなかった』という一件が名の由来となった、人々から畏怖されしダンジョンなのだそうだ。
で……それこそが、俺達の目的地である。
もうまもなくマガル丘陵、というくらいの位置を俺とユーデリアは歩き進めていた。
またそこからも分かるように、馬車は既に帰した。勿論しっかりと報酬を支払った上でな。
本当はもう少し進んで欲しかったが、御者や馬達がドラゴンに襲われては困るので仕方がない。
俺は周囲を見回す。
すると、遠方には山々に影を落とす色鮮やかな竜の姿が何匹も。木々の奥からは獣臭や人いきれ……
いや、竜いきれと言った方が良いだろうか?とにかく、付近でさえそんなようなもので満ち満ちている。
まさに、ここは竜の楽園なのだな。ただし、我々人間にとっては地獄でしかないが。
「だが、それにしても……木を隠すなら森とはよく言ったものだな。まさか討伐対象のドラゴンがこんな所に潜んでいたとは。全く、迷惑というか、狡猾というか……」
いやむしろ、俺達のターゲットであるドラゴンは仲間の気配を感じ取ったからこそ、そこにあったダンジョンに身を潜める事としたのだろうか?
等々、考えていたのが要因なのか、俺は思わずもそう呟いていた。
「まあこの山地には本当に竜が多くて、姿を隠すにはもってこいの場所だからね。そうそう、私のアトリエにあった竜の骨もここで採取されたものだそうよ。
……っていうか先生、それを言うなら『ドラゴンを隠すならもっと沢山のドラゴンの中』とかじゃない?」
その直後、ユーデリアが俺の言葉に反応してそう言う。
「いや、それは比喩表現みたいなもので……まあ良い。ユーデリア、お前には帰ったら錬金術とはまた別の授業をしてやろう」
「え?それは別に良いけど、何で?」
「……」
「ちょ、何で無視するのよ!」
……が。以降はシカトするとして、とにかく。
何はともあれ、もう辿り着いてしまったのだ。そうとなった以上、さっさと事を済ませて屋敷に戻るとしよう。
そうして俺達はまた歩を進めて行った。最早、何も考える事なく。
ただ一つ、『帰宅後に行う慣用句の授業』それについての思考だけは除いて。
それから草木を掻き分け、魔物の影に怯える娘を励まし、そして軽い登山のような移動を続ける事数分。
「ハァ、ハァ……先生、ちょっと待って〜」
「もう少しだから頑張れユーデリア。ほら、竜隠しの岩屋がもう見えて…………ん?」
貧弱なる生徒が草臥れ始める頃と時を同じくして、俺達の前に大口を開けて佇む洞穴もとい、例のダンジョンである『竜隠しの岩屋』が姿を現した。
……の、だが。
何やら様子がおかしい。
「先生どうかしたの?」
「ユーデリア、一旦そこに隠れよう」
「えぇ!?こ、こんな所に!?……って、ちょ、ちょっと先生!!引っ張らないで!!」
そこで俺は、ユーデリアと共に一度草藪の影へと身を潜める。
何故ならば、洞穴の前に幾人かの人影が窺えるからだ。
だがしかし、ここはダンジョンへと続く道のりすらも危険であるはず……だとすれば、あの者達もまた戦闘職なんだろうが。
とは言え、一体何の目的でそうしているのか?この付近に根を張る、それも戦闘職の人間ならば件の噂を知らぬはずもないだろうに。
連中の意図が分からず、俺の中の疑問はいつまでもふわふわと浮かんでいた。
詰まる所、身動きも取れなかった。まるで宙吊りとなってしまった我が疑問と同じように。
「なあユーデリア、お前にもあれが見えるか?」
「え?あれ?それって、あそこにいる人達のことを言ってるの?」
一応ユーデリアにも尋ねてみたが、やはり彼女にもあれが視認出来るようだ。
まあ、そりゃあそうか。幽霊の類などではまずないだろうからな。
とは言えあの者達が生身であるからこそ、そこに立つ真意を理解しかねているのだが。
……などと考えていた、まさにその時だった。
「ああ、もしかして先生、あの人達がならず者か何かじゃないのかって不安なの?それなら心配ないと思うわよ?だって、あの人達はきっと……
って!!あ、あ、あ、あの人達は〜!!」
突然、何を思ったのだろう。
先程まで俺の側で何やらと話していたユーデリアが、洞穴前の者達へと向け駆け出して行ってしまったのは。
「お、おい待てユーデリア……」
彼女を抑えようと、一度はそう言い掛けた俺であったが。
草藪を飛び立つ彼女の横顔。そこに興奮の色が垣間見えたために、本音を言えば既に気付いていた。
あの娘を止める術を、今の俺は持ち合わせていないという事に。
「はぁ……全く、仕方のない奴だ。こうなったら俺も行くしかないじゃないか」
そうしてやむを得ず、俺もまた洞穴の前に立つ複数へと近付いてゆくのだった……
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