二十一話 事件だなんてもったいない!? 2
はぁ……全く、ユーデリアはまたとんでもない問題を招き入れてくれたものだ。
それも『苦手な野菜を俺の皿に密輸する』などの悪行(?)とは比較にならぬ程の愚行。いやいや、もはや犯行と呼んでも過言ではないような大問題をな。
そんな当の本人ユーデリアから聞いた所によると、やはりと言うべきかその問題とは。
『近頃とあるダンジョンに棲みついたらしき、指名手配されたドラゴンの討伐依頼を引き受けてしまった』
という、彼女の発言と一言一句違わぬものであった。
(ちなみに、そのドラゴンが指名手配されたのは国内を暴れ回っていた事が原因のようだ)
何でも、俺が去った後にも彼女は街を彷徨い自身を雇用してくれるギルドを探し続けていたらしいのだが。
それでも採用どころか面接にもなかなか漕ぎ着けられぬ事に業を煮やした彼女は、ある一つの考えに辿り着いたんだそうだ。
そして、そんな彼女の編み出した妙案とは。
『実績を上げればきっとギルドは私の所属を認めてくれるはず』という……
正直に言わせてもらえば悪手も悪手、早計ここに極まれり、それはまさしく愚案そのものなのであった。
だが、ここで疑問が残る。一体何故、ギルドに所属すらしていないはずのユーデリアがそんな大役を引き受ける事が出来たのかと。
そう思っていたが。どうやら、それはヨルダの妹君である彼女の名を出せばすんなりと罷り通ったのだという、ごく単純な話であったようだ。
だから恐らく、ギルド集会所の受付はこう考えたのだろう、『かの有名なお屋敷の当主様、その妹君ならばきっとこの依頼も成功させてくれるだろう』とな。多分ではあるが。
……で、そこまでは良かったのだが。
興奮の治った後、単身では到底不可能であるとそこで漸く悟った彼女は。
今更キャンセルも出来ず、姉に知られれば雷が落ちるのは確実。だからこそ、全てを秘密裏のうちに処理するため俺を頼ってきたと。
つまりはそういう事であるのだ。
「お願い先生!!お願いだから一緒に来て欲しいの!!お願いお願いお願い!!もう先生にしか頼めないのよ〜!!」
ほれ、本人もこう言っているようにな。
だがしかし、どうしたものか。
この依頼を成功させてしまえば彼女はたちまちのうちに英雄同然の身となり、幾つものギルドから勧誘を受けるであろう事はほぼ間違い無いと言っても良いだろう。
ただしその英雄とは、偽りの存在であるにも関わらずだ。それではギルド加入後にトラブルが起きる事など目に見えている。
だと言うのに、最早断る事も出来ないと。はぁ、全くもって困ったものだな。
と、本来ならば頭を抱えるような話だが。
「まあ、ヨルダにお前の事を頼まれてしまったからな……仕方ない、分かったよ」
俺は彼女の頼みを聞き入れた。
「え!?良いの!?本当に!?やった〜!!ありがとう先生!!これでお姉様にも叱られないし、やっとギルドにも」
「待て!ただし一つ条件がある。それはお前が最後に言おうとした内容についてだ」
「え?」
「もし俺達がこの依頼を成功させたならば、お前にギルドからの勧誘が来るのはほぼ確実だろう。だが、その時は素直に真実を打ち明けるんだ。そうでなければ俺はついて行かん」
「え、え〜……でも、それだと……」
「なら、所属したギルドで嘘を吐き続けるつもりか?そう出来る程の実力が今の自分にあるとでも?錬金術すら勉強中の身であるお前がか?
そんな事をしたらお前、最悪の場合すぐ追い出されるぞ?そこまでいかずとも、まあ間違い無くいじめられはするだろうな」
「うっ……わ、分かったわよ!!その条件で良いから!!」
「よし、なら決まりだ」
ただし、そのような条件付きで。
でなければ俺の脳内にある工房にて、隅で啜り泣くユーデリアのその姿が近い未来現実となるだろうからな……まあ良い。
それでもユーデリアは俺の要求を呑んでくれたのだ。なら、そんな悲しい未来は回避出来たも同然であろう。
さて、兎にも角にも同行すると決めたのだ。そうとなれば面倒事はさっさと終わらせるとしようか。
「で?ユーデリア、依頼の期限は一体いつまでなんだ?準備しなければならないからな、まずはそれを教えてくれ」
「え、ええと、その……期限がある訳じゃないんだけど、『明日にでも終わらせてやるわ!!』とは言っちゃったわね……」
「そうか、それならまだ一日……いや、そう言ったのは昨日か……じゃあ今日じゃないか!!
おま……全く、本当に仕方のない奴だな!!ならさっさと準備してすぐ目的地に向かうぞ!!ほらユーデリア、お前も急げ!!」
「ご、ごめんって先生〜!!」
とにかく、こうして俺達は動き始めたのだ。
とは言え、ユーデリアが緊張のあまりトイレに籠城したり。
外出の理由を尋ねられた際「ちょ、ちょっと先生と『秘密の授業』に行ってくるのよ!!」とか訳の分からない発言をしたせいで使用人に俺達の関係を疑われたり。
また、運悪くその場に居合わせたサブリナがそれを聞いて激怒し始めたので、その誤解を何とかするべく俺が嘘の釈明をしなければならなかったりと。
まあ色々とあったせいで結局、出発したのはそれから二時間程後であるのだがな。
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