二十話 事件だなんてもったいない!?
その日も普段と何の代わり映えもないような、穏やかな一日だった。
朝の授業を終えた俺とユーデリアは二人揃って朝食の席に着き、屋敷内の食堂にてヨルダと共に食事を始める。
そんな俺へと配膳してくれたのはサブリナだった。
その動きには迷いがなく、またきびきびとしている。もう彼女は仕事を覚えてしまったのだろう。確かに、コイツは以前から手際が良かったからな。
……それは良いのだが。何だか最近サブリナの機嫌が悪いように感じるのは気のせいだろうか?
「……」
「……ど、どうした?」
「…………別に」
訂正しよう、最近どころか今現在もそうだ。
何故だかむくれていたサブリナは俺の問い掛けにもあまり応じようとはせず、そのままぷいと明後日の方向を向き部屋を出て行ってしまう。
俺は何か、彼女の気に障るような言動でもしてしまっただろうか?それか仕事で苦労しているとか?
とは言え、彼女が愚痴をこぼした事はこれまで一度も無く、失言など決してした覚えもないのだが……まあ良い、自室に戻った時にでも聞いてみるとしよう。
……そうだ。それで思い出した。
この屋敷にはもう一人、様子のおかしい者がいたんだったな。
「どうだアルス?今朝の食事は美味か?」
「大丈夫か?足りるか?おかわりもあるからな、もし必要ならば使用人達に遠慮なく言うんだぞ?」
「最近調子はどうだ?何か困った事があればいつでも私に相談してくれて構わないぞ?」
「あ、ああ……ありがとうヨルダ」
それはこの屋敷の主である、ヨルダ・ヒルデガルンだ。
何やら近頃の彼女は、俺を子供扱いするというか、やたら話し掛けてくるというか……とにかく、理由は分からないが気に掛けてくれているようなのだ。それもかなり。
俺達が真に気に掛けるべきはユーデリアだと言うのに……もしかすると、傍から見れば彼女と打ち解けたように誤認してしまうのも頷ける、そんな俺へと感謝の意を示すためそうしているのかもしれない。
思えば確かに、俺達が生徒と先生の間柄であると伝えた時ヨルダはまた随分と嬉しそうにしていたからな。ああ、きっとそうだ。それが要因であろう。
それならば姉の方はまあ良いとして、問題はサブリナか……等々。
そうした思考の中俺は食べ進め。
『ユーデリアの皿発、俺の皿着』である、いつの間にやらそこにあったレインボーチャード含め全て平らげた。
どうやらコイツ、色の付いた野菜が苦手であるらしい。
「こらユーデリア!野菜もちゃんと食べろ!アルスに押し付けるな!」
その後、犯行のバレた妹君が姉に叱られたのは言うまでもない。
ヨルダの視察団としての活動はもう暫く続くらしい。
それがまた再開となるのが今日なんだそうで、俺達は王都へ行き再びキャラバンの人員を集めるのだと言う彼女を見送った。
「では行って来る。アルス、妹を頼んだぞ」
「ああ、任せてくれヨルダ。お前も気を付けてな」
その後、俺達もまた街へと向けてすぐに出発となるであろう。
という訳で、早めに支度を……あ。
「しまった、部屋に仮面を置いたままだな。ユーデリア、悪いが少し待っていてくれ……ん?」
と、そんな俺の手をユーデリアががっしりと掴んだ。
「な!?」
そして俺は新たなる異様な人物、その三人目を目撃する事となる。
いつしか青ざめていた彼女は、今では全身までもをぶるぶると小刻みに震わせていたのだ。
まるで寒空の下放置されていたかのようで、その様子に俺は思わずも声を上げてしまう程であった。
いや、正しくは放置されていたのは野菜だったか……などという今は通じないであろう冗談を言えるはずもなく、俺はユーデリアにただ問い掛ける。
「ど、どうしたユーデリア!?具合でも悪いのか!?」
すると、彼女は。
「あのさ、お姉様が……いなくなったから、ね……?」
「え?いなくなったから、どうしたんだ?」
「お姉様が、いなくなったから……お願い……先生にしか頼めない秘密の相談があるの……そうじゃないと、お姉様にものすっごく叱られちゃうから、だから……仮面なんていらないから、今すぐ私と一緒にアトリエに来てくれない……?」
気が動転しているのだろうか、滅裂気味に言葉を紡ぎ何とかそう言うと。
今度はさながらゾンビ。そう、寒中より這い出したゾンビが如く。
ゆっくりと、だが絶対に掴んだ手を離そうとはせず。そのままアトリエへと不気味に俺を誘導するのだった。
「ユーデリア、その……言う事は聞くから、引っ張るのはいい加減止めてくれないか?あと、出来ればその顔も……」
しかし、何を言おうが決して彼女が俺の手を離す事はなかった。
アトリエには何とか到着した。ただユーデリアの動きがあまりにも遅いせいで普段の倍程は掛かってしまったが。
まあ、それはともかくとして。
入室直後に中央の椅子へと座らせたユーデリアは段々と落ち着いてきたように見える。震えは治り、後は血色が戻れば完璧と言った所だろうか。
しかし、彼女をそうさせたのには一体どのような理由があるのだろう?
確か、それは俺にしか頼めない物事だとこの娘は話していたはず……悪いニュースでなければ良いが。
気になる、と言うか不安が勝ったのだろう。
少し早いような気もしたが俺は彼女から蒼白の訳を聞き出すと決め、口を開いた。
「どうだユーデリア、少しは落ち着いたか?」
「ええ、ごめんなさい。お陰様でほんの少しだけどね」
「いや、なら良いんだ。ただ、それなら聞かせてくれ。お前をそこまで動揺させるその頼みとやらは一体何なんだ?」
「……怒らない?」
「え?あ、ああ、怒りはしないさ」
「あのね、私…………昨日、とあるダンジョンに棲みついたっていう、指名手配されてるドラゴンの討伐依頼を引き受けちゃったんだけどさ」
「はぁ、なるほど……って、はぁ!?」
だがしかし、せっかくの思いで開いた口は彼女のとんでもない発言を受けたために、その後数十秒は閉じられる事がなかった。
まあ要するに、唖然としていたのである。いや、させられてしまったと言う方が正しいか……だが、それにしても。
はぁ、全く。何故こう俺の悪い予感はいつもいつも的中してしまうのだろうか?
誰か分かる者がいたらどうか教えてくれ、頼むから……
そう。これこそがユーデリアの起こした事件(?)なのである。
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