十八話 指導だなんてもったいない!!
「お願い!!これからも私に錬金術の指導をして欲しいの!!」
「…………え?」
ま、まさか、昨日断固として拒否されたはずの教育係の任を、その張本人から再び打診されるとは流石に予想外だった。
またそのためか、俺はユーデリアからそう頼まれながらも何も言えずにいた。
「もしかして、教えを請う者の口調としてはあまり良いものではなかったから黙っているのかしら?
それなら、改めて言うわ……お願いします!!どうか私に錬金術を教えて下さい!!」
しかし、そんな俺に対し彼女は今度は頭を下げてそう言う。更には本人も述べたようにその口調をやや丁寧なものと変えてまでだ。
でもまあ、彼女に旺盛な知識欲がある事は既知であるのだ。そうなるのもよくよく考えてみれば充分納得は出来る。
加えてそうまで言われたのならば、俺も彼女のために一肌脱ぐとしようか……
と、言いたい所だが、残念ながらそうも出来ない。
確かに、ヨルダには彼女を気に掛けておくとは言ったし。実際数分前には簡単な指導さえしていた。
だがしかし、ユーデリアが錬金術をマスターすれば、彼女はすぐにでもここを出て行ってしまうだろう事は明白……この娘は強情らしいが、わざわざその手助けをするというのも何だか気が重く。
それに何より、そんな事をしてしまってはこの娘を深く想う姉に申し訳が立たない。
だからこそ、首を縦に振る事は出来ないのだ……これで俺は職を追われるかもしれないが、それでもだ。
俺は一度深く息を吸い込み、吐き出し。そして口を開いた。
彼女のその頼みを断るため。
「ユーデリア、すまないがそれは……」
「えぇ!?ダ、ダメなの!?そんな……ま、まさか、この間私が言った事を気にしてるの?
それなら謝るわ!!謝るから!!だからお願い、私に錬金術を教えて頂戴!!
今の状態では雇ってくれるギルドなんてとても見つからないだろうし……私、もうどうしたら良いか……」
ああ、先程まで晴れやかであったはずの娘の顔がどんどんと曇り始めてゆく。
まさか雨まで降らないだろうな?……とは言え、彼女が泣き出してしまったとてそれだけは到底無理な相談であるのだから仕方がない。
「なあユーデリア。それならいっその事芸術家でも目指してみるのはどうだ?そうすればわざわざ屋敷を出なくても」
「ダメよ!無名の私が急に始めたって、独り立ち出来るのがいつになるやら分からないもの!それだと困るのよ!……これ以上、お姉様に迷惑は掛けたくないもの」
そこで代案を提出してみたが、ユーデリアにはあっさりと却下されてしまった。
と言うか、この娘はやはり姉のためとそうしていたようだな。まあ、それはともかくとして。
このような場合、一体俺はどうしたら良いのだろう?どう動くのが最善なのだろうか?
正直、もう分からなくなってきたぞ……
「はぁ、参った。俺はそれを止めたいんだがなぁ……」
「え?何か言った?」
「…………いや、何でもない」
そうして呟きを誤魔化した後、アトリエには暫しの沈黙が訪れる。
何せ、これ以上何を言えば良いのか。その答えがいつまで経っても脳裏に浮かばないのだから。
むしろ今の俺には黙っている事しか出来なかった。
「……そうだわ!!」
すると、突然にもユーデリアが声を上げる。
何を考えているのだろうか、こちらへとニヤついた笑みを溢しながら。
何だか、嫌な予感がする……と、そう思っていたが。
「ねえアンタ」
「な、何だ?」
「そういえばアンタ、その仮面……それに使った素材ってまだ私に返してくれてないわよね?」
「いや、その、ほら……これは、あれだ。それについては気にするなとさっき言」
「誤魔化してもダメよ!!って言うか、何なのよさっきから訳分かんない事ばっかり言ってくれちゃって……とにかく!!
それで?どうするつもりなの?このままだとお姉様に言いつけるわよ?まあ、私の指導をしてくれるって言うなら、考えてあげない事もないけど?」
「お、お前!それはしないと約束したはずじゃ」
「それとこれとは話が別よ!!で?どうするの?もしそうなったらアンタのお友達の使用人もどうなるか、分からないわよねぇ……?」
「な!?お、お前卑怯だぞ!!彼女を人質にするなんて……ああもう!!分かったよ!!やれば良いんだろやれば!!」
「フフフ、じゃあこれからよろしくね、先生?」
「…………先生はやめろ」
見事、俺の予感は的中し。
無事(?)、俺はユーデリアの教育係へと返り咲くのであった……
「……ん?待てよ?おいユーデリア、そう言えばお前確か『素材はもういいからさ』とか何とか言ってなかったか?」
「さあ?どうだったかしら?まあ、気にしなくて良いんじゃない?もう過ぎた事よ」
「お前……!!」
「だって仕方ないじゃない?先生の教えなんだもの……『過ぎた事は気にするな』ってね、フフフ」
「…………はぁ」
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