十五話 自◯だなんてもったいない!!
ユーデリアらしき人物の後をつける俺の真意は、結局の所暇潰しにあるのかと言うとそうでもない。
先にも言ったように、彼女に留意する事それはヨルダにも表明しているのだし。
それに何より、俺の予想が正しくユーデリアの向かった先が彼女のアトリエであるのならば。そこで俺の仮面を錬成するための素材を入手出来るかもしれないからだ。
そうすれば材料を探す手間も、俺の保有するものを消費する必要もないから一石二鳥で……おっと、これではまだ退屈しのぎを理由にしていた方が幾分かマシだと言われそうだな。
いかんいかん、危うくケチな野郎だと思われてしまう所だった。
では改めて……俺は暇潰しのためユーデリアの入ったその小屋を覗き込んだ。
屋敷の裏手にあった、少々草臥れた小屋のような何か。
その中には魔物のものと思われる骨や皮。様々な植物の蔓、それと葉。他には鉱石や、彼女が錬成したのであろう武具等々が所狭しと並んでいた。
……どうやら俺の推測は当たっていたらしい。
ここは彼女のアトリエで、かつユーデリアはここで錬成を行っていたようだ。
だがしかし、何故彼女は武具なぞを作っているのだろうか?
例え戦闘するにしても前線にはいかぬ我ら錬金術師は、その素材を魔具、もしくは治療や生活のための品へと変えた方が遥かに有用なはず。だとすると単純に練習としてだろうか?
だがしかし、あの武具では恐らく。
いや、きっと……俺は目を皿のようにして今一度アトリエ内部へと視線を巡らせる。
「なっ!?」
すると、眼中に驚くべきものが飛び込んで来た。
それは、中央の椅子に腰を下ろしたユーデリア……彼女がスライムから採取したのだろうブヨブヨとした液体と、火の属性を持つと思われる赤い鉱石、それを掛け合わせ錬成を試みようとしていたのだ。
俺はすぐさまアトリエの扉を開け放った。
「ダメだ!!その錬成はすぐに中止しろ!!」
「えっ!?だ、誰よアンタ!?何勝手に……って、ちょっと!!何するのよ!?」
そうしてずんずんとユーデリア前にまで進んで行き、彼女の手からそれらの素材を半ば奪うようにして回収する。
……良かった。何とか間に合った。
「ちょっと無視しないでよ!!それ返しなさいってば!!っていうか、今すぐにここを出て行かないと屋敷の者を呼ぶわよ!!」
一方でユーデリアは安堵する俺の様子、態度。いや、唐突に現れた何もかもが気に入らぬのだろう。何やらごちゃごちゃと叫んでいる。
つまり彼女はまだ、事の重大さを理解していないのだ。
「それは武具強化の為に必要な素材なんだからさっさと返してよ!!早く!!そしたらすぐにここを出て行って!!さあ早く!!返しなさい!!返せ!!」
「武具の強化……属性付与か。それは好きにすれば良いが、せめて換気だけは先にしておくべきだったな」
「は?アンタ急に何を」
「スライムは雑食どころか悪食、吸収に適した大きさの物なら鉱物だろうが何だろうがその身に取り込む……つまり毒物をも溜め込んでいる危険があるんだ。
そんな物と火属性を持つ素材とを掛け合わせ、沸騰したらどうなる?液体は気体となり、それはお前の身体へと流れ込むだろう……そう、毒物もな。
分かったらさっさと換気しろ。錬成ではなく自殺したいと言うのならば構わないがな」
「え!?……あ、え……そ、そうなのね……」
俺の返答により、漸く彼女は落ち着きを取り戻した。
彼女も冷静さを取り戻し、何事も無く事態は収束した。
なので俺は、さっさとここを立ち去るとしよう……と、いう訳にもいかず。
自身の素性、ここにいた理由、その他色々な事情をユーデリアへと説明した。(勿論不審人物でないという事も含め)
ただし、俺が『国崩し』だという事のみは除いて……どうやら彼女は世情に疎いらしく、その辺りについてはあまり知らないようだったからな。それだけで済んだのである。
「…………とまあ、こんな具合だ。とにかく、俺はアルスという者で侵入者などでは決してない。それだけは覚えておいてくれ」
「ふ〜ん、それじゃあお姉様が連れて来た錬金術師ってのはアンタの事だったのね……
まあ、気に食わないけど結果として助けて貰ったんだし、こっちも自己紹介くらいはしておくわ。私はユーデリア・ヒルデガルンよ、よろしく」
鋭い眼光も、額に寄せられた皺も何一つ変わらないが。それでも警戒だけは緩めてくれたようで、彼女は遂に面と向かって俺に自己開示してくれた。
またこの時、俺は漸く目の前の娘がユーデリア本人であると知るのだった……何となくは分かっていたがな。まあでも、彼女こそが本人だという確たる証拠が無かったのだから仕方がないだろう?
だが、それにしても……俺はユーデリアの爪先から頭部へと視線を移し、まじまじと彼女を見つめる。
改めてその姿形を観察してみると、なるほど確かに、彼女が間違いなくヨルダの妹だという事が大変よく分かった。
先も言った通り、険しいその表情だけは如何なものかと思うが容姿は端麗。纏められたその長髪は赤色であり、ヨルダと瓜二つだ。解けば彼女と同様の真紅が姿を現すのだろう。
しかし一方で、白のブラウスと紺のオーバーオールという、無骨とも言えるような服装に身を包んだ今の彼女はまるで職人のようだ。もしかすると衣装にはあまり気を払わないタイプなのだろうか?
……まあ良い。あまりジロジロと見ていてはまた睨め付けられてしまうだろうからな。
そうして俺は他方へと視線を移し、アトリエの中を歩き始めた。
それから数分の時が過ぎるまで、この場は俺の移動直後より訪れた沈黙に支配されていた。
まあ、お互いにこれが初対面だからな。自己紹介が済んだ以上、それに続く言葉が見つからないのも充分に頷ける。
ちなみに、その時にはもう俺は歩くのを止め、既に〝ある事〟を開始していた。
……が。そこで漸く静寂を破り彼女が言う。
「ね、ねえちょっと……さっきから何してるのよ?」
「ん?別に気にしなくて良いぞ。お前はお前のやりたいように錬成していれば良い、そうは思わないか?」
そう答えつつも俺は、自身の手を休む事なく動かし、そして。
「いやだってそれ、私が集めた錬金術の材料……」
「まあ気にするな。さて、後はこの砕いた『竜の骨』に
さっきお前が持っていた『スライムリキッド』を合わせて接合剤とすれば……!」
「ちょ、ちょっと止めなさいよ!!それ今から使」
「良し、出来たぞ!これで『竜骨の仮面』の完成だ!」
「あぁ〜!!」
遂に、俺は錬成によって変装に欠かせない物品の一つである仮面を完成させ、再びそれを手にするのだった!!
……そう。俺がしていた〝ある事〟とは、全てこれを錬成するための行為であったのだ。分かってもらえたかな?
フフフ、こうも上手く事が運ぶと気分が良いな。何せ質は俺が錬成したのだから文句無し。おまけに素材を消費せずして仮面が手に入ってしまったのだ。これで心地良くならずにどうしろと言うのだろうか?
「……ねえアンタ、結局その仮面の材料ってちゃんと返してくれるのよね?ねえ?」
「さっきから気にするなと言っているだろう?それに、もう過ぎた事さ」
「ちょ、冗談じゃないわふざけないでよ!!どうしてくれるのよ!?…………はぁ、これならいっそ侵入者の方がマシだったわ!!最悪!!」
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