十三話 拒絶なんてもったいない!! 2
数秒の後、ヨルダはぽつぽつと語り出した。
「私だって、今の今までずっとこうしていた訳ではないぞ?お前の言う通り、ユーデリアの説得を試みはしたんだ。しかし、あの子は一向に首を縦に振ろうとはしなくてな、それでどうにも上手くいかず……」
「ここに来てしまったと?」
「……正解だ」
「一つ良いか?……ヨルダ、お前は何故そこまで事を急ぐ?お前達姉妹の生活は満ち足りているはずだろう?
例えユーデリアが錬金術師として未熟なのだとしても、それは今の生活に影響を与えるような事などでは決してないはずだ。
となれば、ゆっくりと彼女の成長を待てば良いと俺は思うんだが、違うか?」
すると、俺の問いに対して彼女は顔を曇らせ言った。
「いいや、その通りだよアルス。本来ならばな……近々、ユーデリアはここを出て一人で生計を立てると言っているんだ。恐らく何処かのギルドにでも所属し、錬金術師として工房勤めでもしようというつもりなのだろう」
「それはまた、どうして?」
「あれでもユーデリアは家族想いの子なんだ。大方、一代でこの屋敷を築き上げ衣食住を与えている私に対して、何も返せぬあの子は引け目を感じているのだろうな。そんな事はないと言うのに……とにかく、これで分かっただろう?私達には時間がないんだよ」
確かに、ヨルダの言い分は理解出来た……が。
それで思い出したが、そう言えば『コイツが何故、一代でここまで成功出来たのか』という点についてはまだ知らなかったな。
とは言え、彼女の話を遮ってまでその質問をするというのはちと憚られる。なら、聞くにしてもまた次の機会にしておくとしようか。
俺は会話を続けた。
「ああ、お前達姉妹の事情は分かった。だが、それならばもう少しユーデリアと話し合ってみれば良いだけじゃないのか?
彼女は家族想いなんだろう?だったらお前がここにいてくれとさえ言えば、彼女はきっとそれを受け入れてくれるはずさ」
「……そうだな、ユーデリアは家族想いだ。だが同時に強情だ。それが私のためになると信じていれば尚更にな、だからあの子が意見を変える事はしないだろう。
だからこそ旅立つ前に色々としてやりたいと思っているのだが、難しいものだな……」
「…………ああ、それは難儀な話だ」
ふむ。姉は姉で、妹は妹で、互いを想うあまりに意見が食い違うと。姉妹というのもなかなか面倒なものだな。
それからも暫くの間俺とヨルダとの会話は続き、俺は彼女に、彼女は俺に色々な事を話してくれた。
俺の方は何を話したのかと言うと、自身の過去、これまでの事。
最も重要なのは『この屋敷の皆にも俺が国崩しだと言うのは伏せておいて欲しい』という事等々だ。別段愉快な内容という訳でもないので詳細は省略させてもらうが。
それと彼女の話……そこで判明したのだが、どうやらヨルダは俺以外にも数多くの錬金術師をこの屋敷へと招き入れていたらしい。
例のサブリナと親しくなったという使用人もそのうちの一人なんだそうだ。しかしユーデリアはそれを拒み、今は単なるメイドとして働き続けているとか。
ちなみにヨルダ曰く、それもまた姉に負担を掛けまいとした妹の思惑だと彼女は推測しているようだ。
自分のために大枚を叩いて教育係など呼ばなくても良い。その金は自身のために使って欲しい。だから拒絶する……と、そのような具合にな。
とは言え、それはあくまでもヨルダの予測に過ぎないが。
そして、俺もそんな姉妹間の争い(?)という名の渦に巻き込まれた一人であると……全く、これは何の因果であるのだろうか。
ま、妹君の教育係は既に引き受けてしまったのだ。文句は言うが投げ出すつもりはない。
「とにかくだ。そうとなれば俺もユーデリアの事は気に掛けておくとしよう。それじゃあヨルダ、俺はそろそろ行くよ。今度はサブリナが俺を探し始めてまた迷子になってしまうかもしれないからな」
「ああ、そうしてくれると助かるよアルス。引き留めてしまってすまなかったな」
「いや何、気にするな」
という事で俺は装いを新たに、気持ちを引き締め……るのは明日からとして。
今は部屋に戻るため、ヨルダに背を向け歩き出す。
「待ってくれアルス」
つもりだったのだが。背中越しに彼女の声を聞き俺は足を止めた。
「どうした?まだ何かあるのか?」
「最後に一つ聞きそびれた事があってな。とは言っても差し支え無ければで構わないんだが、教えて欲しい。お前は何故弟子を取ろうとしないんだ?何か理由があるのか?」
ああ、その質問か。ただ正直、これだけは話したくないのだが……まあ良い。ヨルダには生殺与奪の権を握られているのだ。
と言うか、まずそもそもとして彼女は我が契約の相手方。つまりは甲であり俺が乙。いやそれ以前にここの家主なのだ。話しておかねばなるまい。
「……二年前の事だ。俺の一番弟子は、錬金術のための材料を探しに行くと言ったまま戻らなかった」
「あ……」
「そこは竜の住むダンジョンだった。恐らくはもう死んでいるだろう……勘違いしないでくれ。彼女は愚か者などではない、むしろ優秀だった。生きてさえいれば国に名を馳せる程の人物となれただろう」
語る程に舌は重く、声は喉奥でつかえるようになり始めた。最早、息苦しささえ感じる。
だが、この話だけは途中で止めてはならない。
俺は話を続けた。まるで自分へと言い聞かせるかのようにして……いや、実際そうだった。
これは俺自身への戒めなのだ。
「だが、彼女の中には驕りがあった。師にこの俺を持つという唯一の驕りがな。
そしてそれが、彼女を殺した……国内でも指折りの錬金術師だという俺の弟子となったあの子は、自身もそうであると。
自身も、その弟子たるに相応しい実力を備えていると。そう勘違いしてしまっていたんだ」
「アルス……」
「彼女の思慮が浅かったと言えばそれだけで終わる話なのかもしれない。事実として、そんな部分もあったのかもしれない。
だが、それを正すのは俺の役目なはずだ。俺が彼女を導いてやらねばならなかったんだ。
なのに、俺はそうしなかった。いやそれどころか、俺もあの子ならば問題ないだろうと楽観視していたというのが正直な所だ。
だから、彼女をそのまま送り出した……つまり、彼女を殺したのは俺も同然なんだ。
下らぬ肩書きに囚われ、自惚れ。自分の弟子一人すら満足に育てられなかったこの俺が……俺が、彼女を殺してしまったんだよ」
「ア、アルス!もう良い!もう話さなくても良い、だから、それ以上自分を責めては……」
「…………すまないヨルダ。少し熱くなってしまったな。だが、これでお前も気付いたはずだ。
俺は弟子を取らないのではない。正確に言えば『取る資格が無い』という事にな。
だからこそ、ユーデリアにはあくまでも教育係として接するつもりだ。悪く思わないでくれ」
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