十二話 拒絶なんてもったいない!!
さて、色々とあったが漸くご対面だ。
ユーデリア・ヒルデガルン。ヨルダの妹であり、尚且つやはり錬金術師だという彼女は一体どのような人物なのであろうか?
楽しみなような、不安なような……まあ良い。会えばそれもすぐにはっきりと分かる事だろう。
そう、思っていたのだが。
〝会いたくない!!教育係なんていらない!!〟
おお、まさかドア越しに姿すら見せず、開口一番拒絶されるとは流石に予想外だった。
とにかく、そうして追い返される事となった俺は今、ヨルダに貸し与えられた部屋の一室にて軽い掃除片付け、それと持ち込んだ物品をあらゆる場所へと配置している真っ最中だ。
ちなみに言っておくと、どうやら今現在この部屋以外は空いていないらしく、暫くの間サブリナもここに滞在するのだと言う。
つまり、俺達はルームメイトとなったのである。
……確かに、交際関係に無い異性が同室というのは大分問題があるような気がしてならないが。
とは言え、それは暫定的な処置であるのだし。まずそもそもとして彼女の存在それ自体がイレギュラーなのだから仕方ない部分もあるように思える。
まあ要するに、俺は何の不自由も感じていないという事だ。むしろ不満があるとすればサブリナの方であろう。
そして、そんなサブリナはと言うと。
少し前までの浮かれ様は何処へやら、俺と同室と知った途端に顔を赤くして部屋の隅で縮こまっていたかと思えば。
「わ、私!!少しこの辺りを散策して来るわ!!」などと言って、すぐに部屋を飛び出して行ってしまった。
やはり、戸惑っているのだろうか。まあでも、そりゃあそうだよな。彼女はうら若き乙女であるのだから。
しかし、それにしては帰りが遅過ぎるような気もする。何かトラブルにでも巻き込まれていなければ良いが。
……やっぱり心配だ。様子を見に行くとするか。
俺は部屋づくりを一旦止め、今からは『サブリナ捜索隊』としての一歩を踏み出した。
しかし、その後数十分が経過しても尚。
我が所属の捜索隊は未だ、サブリナどころか彼女の痕跡一つとして見つけられてはいなかったのだ。
屋敷内の通路は全て確認した。一度外に出て庭中も見て来た。だが、それでも彼女の姿は何処にも見当たらない。
やはり『この辺り』と彼女も言っていたように外出しているのだろうか?いやでも、そうでない可能性だって充分にあるよな?……うーん、どうするべきか。
全く、こんな時に限って曖昧な表現を寄越してくれたなサブリナ……まあ悩んでいても仕方がない。
ひとまずここは、三階の窓からでも周囲を見回してみるか。もしかするとそれで彼女が発見出来るかもしれないからな。多分。
とは言え今は居候同然の身。俺はなるべく音を立てぬようにして三階へと歩を進めて行った。
そして誰に見咎められる事もなく無事三階に辿り着き、俺がいざサブリナを探さんとしていたまさにその時。
バルコニーに佇み、やや肩を落とすヨルダの姿が俺の目に飛び込んで来た。
「…………」
彼女の背を眺めているといつしか身体が自然と動き、俺は意図せずしてヨルダのいるバルコニーへと足を踏み入れていた。
「ヨルダ、どうかしたのか?お前は確かユーデリアの説得を続けると言っていたはずだが?」
「……あ、ああ、アルスか。それがな……いや、もう少し近くで話そう。側に来てくれないか?」
振り向いたヨルダの顔を見て確信した。どうやら彼女は実際に気落ちしているらしい。
声には力が無く、普段キリリとしているはずの眉は逆方向へと傾斜している。そんなヨルダの悩みの種と言えば、まず間違い無くユーデリアの事であろう。
俺は彼女の問い掛けに応じ、その背中に歩み寄って行った。
「その前に聞かせてくれ、アルス。お前何故ここにいるんだ?お前の部屋は二階だ。三階になど何も用はないはずだろう?」
「実はサブリナを探している途中でな。アイツ、この辺りを散策すると言ったまま部屋に戻らないんだ。だから遠目に見れば何か手掛かりが掴めるかと思ってな、それでここに来たんだ」
「サブリナ?あの子は確か、今はある使用人の部屋にいるはずだぞ?」
「えっ?」
「彼女と歳の近い女の使用人さ。何でも屋敷内で迷っていたサブリナを彼女が助け、そこで親しくなったそうだ。その際に偶然通り掛かった私が直接この目で見、聞いたのだ。間違いないと保証しよう」
「な……そ、そうだったのか」
「何だ?あの子に妙な男の影がないかと心配でもしていたのか?」
「揶揄わないでくれヨルダ……そういう訳じゃあない。俺はただ、サブリナがトラブルに巻き込まれてはいないかと彼女の身を案じていただけだ」
「フフフ、すまない。冗談だ」
はぁ、ここの城主様は存外お茶目というか、何というか……まあ別に構わないが。
とにかく、そうしてサブリナの無事を知り。つい先程発足されたばかりの『サブリナ捜索隊』はものの数十分にして活動を停止するに至ったという訳だ。
俺は溜め息を一つ吐き出し、ヨルダの横で遥か彼方の空を見上げるのだった……決して、安堵からそうしているのではないぞ。
「あら、もうこんな時間!!ごめんなさい、私そろそろ部屋に戻らないと。アル……ル、ルームメイトも心配しているかもしれないし!!」
「それならアタシもご一緒致しますよぉ。でないとサブリナ様、また迷子になってしまうかもしれませんからねぇ」
「迷子って貴女ねえ……私、もうそんな歳じゃないのよ?フフフ、でもありがとうエスピリカ。それじゃあまた、お願いしても良いかしら?」
「勿論ですよぉサブリナ様。さあ、それでは参りましょう…………ムヒヒ」
日が傾き、段々と紅く染められていた空が、大地が瑠璃色と塗り替えられてゆく。
そして、それに追い立てられるかのようにして歩く人々や馬車の群れがやや遠方に流れていた。
彼等はああして家路を急いでいるのだろう……サブリナはもう、部屋に戻っているだろうか?
などと考え、佇む俺の横でヨルダが言った。
「……すまないアルス。質問への答えがまだだったな」
俺を茶化すような態度はいつしか影を潜め、その顔には再び苦心の表情が浮かび上がってきている。
裏を返せば、それ程までに彼女はユーデリアの事を慮っているのだろう。
その中にほんの少し、スカウトして来たにも関わず宙ぶらりんな状態とさせてしまっている俺に申し訳なく思う気持ちもあるのかもしれないが。
別に何も、彼女のせいではないというのに。
まあ良い。どうであれヨルダは話してくれるつもりでいるのだ。
むしろ彼女には好きなだけ愚痴を吐いてもらい、俺はその鬱憤晴らしに貢献するとしようか。
「別に謝る必要なんて無いさ。俺が今言いたいのはただそれだけだ……さあ、聞かせてもらおう」
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