十話 さよならなんてもったいない!!
村を去るべく、門を抜けいざ馬車に乗り込まんとする。そんな俺の進路を塞ぐようにして立ったのはパームさんだった。
この人もまた、最後の別れを告げにとこうしてやって来てくれたのだろう。
俺は感謝の意を示そうと、深く頭を下げる。
「アルス……」
だが、俺の名を呼んだパームさんはまるで戦いに赴く騎士のような風格を漂わせており。しかもその表情までもが真に迫るが如く、本物の武人と見紛う程のそれであった。
この人のそんな顔は初めて見た。とは言え、確かにこれは今生の別れとなるだろう……もしやパームさんは、涙なら何やらを堪えた結果そのような顔つきとなったのかもしれない。
なら俺のせいで、パームさんは……だとすると何だか申し訳ない。
しかしこれで厄介者はいなくなる。アナタはサブリナと共に、どうかこの村でいつまでも幸せに過ごしていてくれ。
などと考えていた俺を、突如としてパームさんは抱き締めてくれた。
とても力強く、だがそれでいて優しく。
「娘を、頼んだぞ……!!」
ただ一つだけ、彼が妙な発言をしたのは気掛かりだったが。
「え?パームさん、それってどう言う……?」
ちょっと待ってくれパームさん。悪いが意味不明だ。全くもってその発言の意図が分からない。
娘を頼むとアナタは言ったが、当の娘さんは姿すら見せないんだぞ?そんな者を俺にどうしろと……
と、質問したかったのだが。
「俺からはもう、何も言う事は無い。さあ行ってこいアルス!!元気でいるんだぞ!!」
「いやちょっと、まだ聞きたい事が」
パームさんからはそのようにして背中を押され。
「挨拶は済んだようだな……それじゃあ行こうか、アルスよ。さあ、お前もこの馬車に乗ると良い」
「ヨ、ヨルダ。いや、悪いがもう一つだけ聞きたい事が」
いつの間にやら、こちらへとやって来ていたヨルダに手を引かれ。
そうして、偶然にも合わせ技となってしまったようなその勢いのまま、俺は馬車へと放り込まれてしまうのだった。
が。それだけに留まらず。
「いや二人共!!ちょっと待」
「アルス〜!!」
「うわっ!?な、何だ!?……って。お、お前!?サブリナ!?サブリナじゃないか!?何でお前がここにいるんだ!?」
その中で待ち続けていたのだろうサブリナに抱き付かれ、俺は未だ嘗てない程の混乱を味合う事となる。
「本当に、これはどう言う事なんだ……??」
馬車に揺られニコニコとするサブリナ。そんな彼女はまるで揺籠の中で微笑む赤子のようだ。
ただ幼子とは異なり、恐らくだがその笑みはただ単に景色が移り変わるだけ、揺られるだけという理由で生じている訳ではないのだろう。
何故ならば、彼女の視線は先程からずっと俺を捉えて、いや捕えているのだから。
……なんて言ってる場合じゃない。一体何故、彼女がここにいるんだ。
俺はヨルダへと掴み掛からんとばかりに詰め寄り、サブリナに聞こえぬよう声を潜めつつ質問を浴びせ掛けた。
「おい答えろヨルダ!何故サブリナがここにいるんだ!?返答次第では……!」
「私が声を掛けたんだよ。お前の使用人、所謂メイドだな。彼女にはそれを勤めてもらう事にしたんだ」
ヨルダはそう言い、サブリナを見遣る。
すると、その視線に気付いたサブリナの頬がぷくりと膨れるのが見えた。推測だが俺とヨルダのこの距離感が不満であるのだろう。
いや、呑気だなお前は。今がどんな状況か分かっているのか?俺は彼女のそんな様子を見なかった事にして話を続けた。
「ふざけるなよ、そんな答えで俺が納得するとでも思ってるのか?わざわざ本職でも何でもない、村娘をそのためだけに連れて行くなんて有り得ないだろう!?それに、俺は使用人を付けてくれなどと頼んだ覚えはないぞ!」
「だから、私が声を掛け、私が頼んだと言っているんだ。サブリナ、彼女に使用人兼〝人質〟の役目をな」
だが、そこでヨルダの口から驚きの発言が飛び出し。思わず俺の思考は、言葉は遮られる。
「……ひ、人質、だと?」
「お前、私が知らないとでも思っているんだろう?なら、そんなお前に私から一つ助言をしておいてやろう……隙を見て逃げ出そうなどとは、考えない事だな」
「!?お、お前、聞いていたのか……!?」
「ああ、それもしっかりとこの耳でな。どうやらお前達は動揺のあまりそれどころではなかったようだが」
「……」
「それで?どうだアルス?今こそはっきりと自身の置かれた立場が分かったんだ、教えて欲しい。私との取引を反故になどせず、きちんと受け入れてくれるのだろうな?」
そこでトドメとばかりに、ヨルダから鋭く見つめられた俺は。
「クソッ…………ああ、分かってるよ!!むしろそれ以外にどうしろって言うんだ!!」
最早何も言えず、遂に降参を宣言してしまい。
それと時を同じくして、サブリナがここにいる意味も。パームさんの言葉も。その全てを俺は理解するのだった。
そうか……まさか、聞かれていたとはな。まあ、もう何であろうと関係ないか。
これで俺はどう足掻こうと、ヨルダからは決して逃げられなくなってしまったのだからな……
観念し、死を待つ戦士が如く座り込む俺を励ましてくれたのは。頭に乗せられたサブリナの手、ただそれだけだった。
正直今だけは、何も知らずに相変わらず呑気でいる彼女が羨ましいと、心から思う。
それから数分が経ち、馬車の窓一面の緑が荒地の淡褐色と塗り変えられた頃であった。
がっくりと気も肩も落とす俺に、ヨルダから声が掛かったのは。
「ええと、その、何だ……ア、アルス!!私が言うのも何だが、あまり気を落とすな……私とてお前に逃げられるのは痛手なんだ。だからここまでしたというか、やり過ぎてしまったと言うだけで、その……」
これはまた珍しい、隊長殿があたふたとしている。
あまりにも俺が意気消沈としている様を見、流石に罪悪感を覚えたのだろうか?今更何を言おうが関係ないというのに。
それかもしくは、これからこき使おうという〝道具〟の不調を見過ごせないのだろうか?
そう、例えるならばそれは、まるで馬車馬のように。
今俺達を乗せ、そして引くこの馬車馬達のように……まあ良い。
どうであれ、彼女には従わなければならないのだ。ならばいい加減にその内容だけでも聞き出すとしようか。
「……ヨルダ」
「え、あ……ど、どうしたアルス!?」
「言い訳はもう良い。それより、そろそろ教えてはくれないか?ここまでの策を講じて脱走を阻止する程の何を、お前は俺に求めているんだ?」
「あ……ああ、それもそうだな。いやすまない、本来ならばもっと早く伝えるべきだったな。ええと、それはだな……」
「それは……?」
そうしてヨルダは一呼吸置いた後、俺にこう言った。
「アルスよ。お前には私の妹であるユーデリア・ヒルデガルンの教育係となって欲しいんだ」
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