表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族の次男として入学したら、社交部に囲われました  作者: 仮眠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/15

2話 初仕事

「今日から君も《社交部》の一員だ!」


そう宣言すると、アルトはわずかに眉をひそめた。


「ーー怪我が治るまで、ですからね」

「それに、表に出る役ではーー」


「分かってる分かってる!」


手を振って遮る。


「今日は本当に雑用だけだ。

書類を運んで、席を整えて、横に立っててくれればいい」


その言葉に、ようやく納得したようにアルトは頷いた。


ーーよし。

まずは“場に慣れさせる”ところからだ。


「じゃあ、今日最初のお客様だ!」


そう言って扉を開く。


入ってきたのは、リュシア嬢。

控えめで、どこか自信なさげな令嬢だ。


こういうタイプほど、

自分でも整理できない悩みを胸に溜め込んでいる。


「どうぞ、こちらへ」


僕が主導して席に案内する間、

アルトは言われた通り、壁際に立ったまま。

視線も控えめで、完全に“背景”のつもりらしい。


「えっとーー」


リュシア嬢は、言葉に詰まり、俯く。

それからしばらくして、語り始めた。


「ーー婚約者の方と、うまくお話しできなくてーー」


来た。

王道だが、扱いを間違えれば深く傷つける相談。

過去に婚約者周りの相談ごとで痛い目を見た経験があるが、

今はもう対応を間違うことはない。


ここは型通りでいい。

安心させる言葉、

「君はそのままでいい」という肯定、

そして優しい微笑み。


僕が口を開こうとした、その時。


「ーーそれ、話さなきゃいけません?」


ぽつり、と。


小さく、だがはっきりとした声。


アルトだった。


「ーー?」


一瞬、理解が追いつかなかった。


本人も、

リュシア嬢も、

そして僕自身も、同時に固まる。


ーー今、何が起きた?


アルトは、しまったという顔を一瞬だけ浮かべたが、

もう引き下がれないと悟ったのか、続ける。


「無理に会話を続けようとするから、辛いんです」


壁際に立ったまま、

あくまで“独り言の延長”のような調子で。


「“貴族として”必要なのは、最低限の礼儀だけです。

沈黙が気まずいなら、作業でも共有すればいい」


「で、でもーーそれって、失礼ではーー?」


リュシア嬢が、おそるおそる聞く。


アルトは少し考えてから、首を横に振った。


「相手が嫌なら、断ります」


即答だった。


「断られたら、それは相性の問題です」


ーー甘くない。

驚くほど、現実的だ。


慌ててフォローに入ろうとした僕の判断は、

次の瞬間、完全に裏切られた。


リュシア嬢の肩から、

目に見えて力が抜けたのだ。


「ーーそんな考え方、したことありませんでした」


泣きそうな声。

けれどそこには、確かに“軽さ”があった。


「大丈夫です」


アルトは、慰めるでもなく、突き放すでもなく言う。


「貴族でも、人付き合いが苦手な人はいます」


ーーああ。


この瞬間、はっきり分かった。


この子は、

導こうとも、救おうともしていない。


ただ、

一人の人間として、正面から扱っているだけだ。


リュシア嬢が深く頭を下げ、部屋を出て行ったあと。


沈黙。


ーー数秒。


「面白い!!」


気づけば、僕は声を上げていた。


「ーー褒めてます?」


アルトが本気で困惑した顔を向ける。


「最大級に!」


「ーー私は、雑用のつもりだったんですが」


「それが一番怖いんだよ」


心からの本音だった。


アルトは、不思議そうに首を傾げる。

まるで、今のやり取りが特別だと思っていない。


ーーなんて、危うい存在だ。


甘い言葉も、

理想論も、

王子様の仮面もない。


それでも、人の心に届いてしまう。


僕は、アルトの背中を見つめながら、

胸の奥が、わずかにざわつくのを感じていた。

彼がもっと早くにいてくれればーー。

いや、今はそんなことどうでもいい。


彼は、放っておくべきじゃない。

ーー否、逃がしてはいけない。


それが仲間としてなのか、

それとも別の感情なのか。


今の僕には、まだ分からない。


ただ、一つだけ確かなことがある。


この《社交部》には、

彼が必要だということだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ