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貴族の次男として入学したら、社交部に囲われました  作者: 仮眠


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16話 監視役 エルヴィン

 新しい部室は、前よりも少しだけ静かだった。


 場所が変わったから、という理由だけではない。

 アルトの性別問題で気まずいーー?

 それもあるかもしれない。

 

 だが、それだけではない。


 机の配置も、窓の向きも、前と大きくは違わない。それでも空気が違う。

 誰も口にはしないが、全員が分かっていた。


 ーーここは、見られている。


 アルトリアは壁際の椅子に腰を下ろし、無意識に背筋を伸ばしていた。

 借り物の場所かどうかを見極める時間は、まだ終わっていない。


 扉がノックされる。


 反射的に双子が顔を上げ、フィオレの手がテーブルの縁から離れる。

 剣に触れてはいないが、いつでも動ける距離だ。


「失礼する」


 入ってきたのは、見慣れない青年だった。

 学生ではない。制服ではなく、学院職員の簡素な外套を着ている。


 穏やかな声。

 柔らかい物腰。

 だが、視線は部屋全体を正確に測っていた。


「公式相談室、元監査補佐のエルヴィン・クロイツです」


 名前を告げられた瞬間、セリウスがわずかに目を細めた。

 ーー聞いたことがある。穏健派。だが制度側の人間。


「今日から、こちらの活動を確認させていただくことになりました」


 “監視”とは言わない。

 “確認”という言葉を、意図的に選んでいる。


 レオンハルトが一歩前に出た。


「歓迎しよう。ここが新しい社交部だ。

 活動内容は、これまでと変わらない」


 エルヴィンは小さく頷いた。


「ええ、伺っています。

 報告義務はなし。 強制的な解決や、公式判断の代行はしない」


 視線が、アルトリアに向く。


「特に、あなたが中心になっていると」


 一瞬、部屋の空気が張りつめる。


 アルトリアは立ち上がらない。

 ただ、正面から視線を受け止めた。


「中心ではありません。

 話を聞いているだけです」


「そうですか」


 否定もしない。

 肯定もしない。


 エルヴィンは部屋を一巡見渡したあと、静かに続けた。


「私は、ここが“危険な場所”にならないかを見極めることです」


 双子がくすりと笑う。


「危険、だってさ」

「僕ら、そんなに物騒に見える?」


 エルヴィンは微笑んだ。


「いいえ。むしろ逆です」


 その言葉に、アルトリアの胸がわずかにざわつく。


「優しすぎる場所は、人の心を留めてしまう。

 私はそれを、何度も見てきました」


 フィオレが一歩前に出る。


「だったら、消す?」


 場違いなほど無邪気な声。

 しかし目は笑っていない。


 エルヴィンは少し驚いたように瞬きをし、首を振った。


「いいえ。

 消すべきものかどうか、確かめるだけです」


 レオンハルトが息を吐く。


「なら問題ない。

 僕たちは、誰かを縛るためにここにいるわけじゃない」


「ええ」


 エルヴィンは頷き、最後にアルトリアを見た。


「一つだけ、覚えておいてください」


 柔らかい声。

 だが、その奥に確かな重さがある。


「あなたがここにいる限り、私は見ています。

 これは脅しではありません。 責任です」


 アルトリアは一拍置いてから、短く答えた。


「分かりました」


 彼が去ったあと、しばらく誰も口を開かなかった。


「やな感じ」

「でも、嘘はついてなかったね」


 セリウスが静かに言う。


「公式側の提案の中では、かなり譲歩した条件に見えるな」


 フィオレはアルトリアの袖を引いた。


「大丈夫?」


「ええ」


 嘘ではない。

 だが、胸の奥が少しだけ重い。


 ーー見られることには慣れている。

 期待されない役を演じるのも、得意だ。


 けれど。


(今までの”それ”とは少し違う気がする)


 アルトリアは窓の外に視線をやった。


 ここはまだ、元通りとはいかないかもしれない。

 それでもーー


 社交部は、今日も静かにそこにあった。

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