閑話 分担
放課後の社交部。
来客が引いた後の部屋には、紙の擦れる音だけが残っていた。
アルトリアは机に向かい、次々と書類に目を通していく。
相談内容の整理、返答案の下書き、次回の調整ーーどれも急ぎではないが、放置もできないものばかりだ。
「ーー」
ペンを走らせる手は止まらない。
「おい、アルト」
セリウスが帳簿から顔を上げた。
「それ、三人分くらいの仕事量だぞ」
「把握しています」
即答だった。
「把握してるなら、分けろ。効率が悪い」
「いえ、それでも十分間に合いますから」
淡々とした声。
反論でも、言い訳でもない。ただの事実の提示。
双子がソファから身を乗り出す。
「ねえねえ、それ僕らの分だったりしない?」
「そうそう、いつの間に回収したの?」
「手が空いていましたので」
言葉は丁寧だが、そこに「手伝ってほしい」は含まれていない。
レオンハルトは、少し遅れて状況を把握した。
「ーーアルト」
「分担しよう。急ぎじゃないものは、僕がーー」
一瞬。
アルトリアのペン先が止まった。
本当に一瞬だけ。
だが、確かに。
「ーーいえ」
顔を上げないまま、答える。
「出来ますし、それにーー」
「部長には、別の仕事がありますから」
拒絶ではない。
けれど、壁ははっきりしていた。
レオンハルトは言葉を失う。
強く言えば踏み込みすぎる。
引けば、そのままになる。
結局、現状維持を選んだ。
「ーー分かった」
「じゃあ、終わったら教えて」
「はい」
それで会話は終わる。
セリウスは小さく息を吐いた。
「ーー君は」
「もう少し人を頼ったらどうだ」
アルトリアは、少しだけ迷うそぶりを見せながらも、結局なにも言葉を返せなかった。
夜になり、書類がすべて片付いた頃。
アルトリアは、静かに立ち上がる。
ーー今日も、誰にも頼らなかった。
それが必要だとは、思えていない。




