閑話 後日談 男子生徒
午後の社交部は、比較的静かだった。
令嬢たちの相談が一段落し、
双子はソファに並んで座り、フィオレは菓子を頬張っている。
そんな時だった。
「ーー失礼します」
控えめな声に、アルトリアはすぐに顔を上げた。
見覚えのある男子生徒。
数日前、失敗が怖いと相談に来た、あの生徒だ。
「どうぞ」
アルトリアが席を勧めると、生徒は一礼して座った。
背筋は伸びているが、視線が少し泳いでいる。
「今日はーー報告、というか」
「聞いてほしくて」
「はい」
急かさない。
それが社交部のやり方だった。
「立候補した模擬戦でーー負けました」
「しかも、結構、派手に」
言葉を選びながらも、逃げなかった。
「周りは?」
アルトリアの問いに、生徒は一瞬、口を閉ざす。
「ーー笑われました」
「ほら見たことか、って」
双子が眉をひそめ、フィオレは菓子を置く。
レオンハルトは何も言わず、ただ聞いている。
「でも」
生徒は、続けた。
「全員じゃ、なかったです」
「負けた理由を、教えてくれた人がいました」
「剣の癖を指摘してくれた人も」
声は、少しだけ明るかった。
「前なら」
「笑われた時点で、逃げていたと思います」
アルトリアは、静かに頷いた。
「では」
「ーー思ったより、平気でした」
その言葉に、空気が柔らぐ。
「へえ」
「強くなったじゃん」
双子が、軽く言う。
「失敗を受け止めるのも、勇気だよ」
レオンハルトの言葉に、生徒は照れたように頭を下げた。
「社交部の皆さんみたいに、できたかは分かりません」
「でもーー」
「逃げずに続けてみようと思います」
扉が閉まる。
しばらく、誰も言葉を発さなかった。
アルトリアは、胸の奥に小さな安堵を感じていた。
(ーーちゃんと、届いた)
それだけで、十分だった。




