10話 助けてくれる人
その日の社交部は、いつもと少し違っていた。
「ーーあの、失礼します」
控えめな声とともに現れたのは、男子生徒だった。
制服の襟元はきちんと整っているが、指先のわずかな震えまでは隠しきれていない。
「男の子。珍しいね」
双子のどちらかが、面白そうに囁いた。
アルトリアは席を立ち、静かに促す。
「どうぞ。お掛けください」
生徒は深く息を吸い、言葉を選ぶように口を開いた。
「貴族はーー面子が大事で」
「周りの目が、どうしても気になります」
「失敗したら、笑われるんじゃないかとーー」
視線は床に落ちたまま。
誰も遮らない。
アルトリアは、少し考えてから言った。
「気にする必要はありません」
「周りの方々はーー」
アルトリアは一拍置き、何かごそごそと取り出す。
「ジャガイモだと思えばいいのです」
「ーーはい?」
俯きがちだった男子生徒が顔を上げる。
次の瞬間。
「ーー魔物!?」
生徒は悲鳴を上げ、椅子ごと後ろに倒れた。
部屋に、緊張が走る。
フィオレが瞬時に剣へ手をかけ、周囲を警戒する。
レオンハルトはすぐさま生徒のもとへ駆け寄っていた。
「大丈夫かい?」
膝をつき、落ち着いた声で問いかける。
その視線の先で。
「っ、はははは!」
「ちょっと、アルトーー!」
双子が、腹を抱えて笑い出した。
「魔物じゃないよ」
「アルトだよ、アルト」
その言葉で、ようやく皆が気づく。
魔物の正体はーー
アルトリアは、ジャガイモの被り物を頭につけていた。
緊張は、一気に崩れた。
部屋は笑いに包まれる。
だが、男子生徒だけは青ざめていた。
「ーー今、笑われてるのって」
「もしかしてーー僕ですか?」
アルトリアは、ゆっくりと首を振った。
「安心してください」
そう言って、被り物を外す。
「笑われているのは、私です」
「あなたではありません」
生徒は、呆然とその顔を見る。
「失敗しても、それを笑う人ばかりではありません」
「それどころか」
視線が、自然とレオンハルトに向く。
「部長のように、真っ先に助けに来てくれる方もいます」
「それに、今笑っている方々も」
「私を馬鹿にしているわけではありません」
「ーーでも」
生徒の声は、まだ震えていた。
「まだ、失敗が怖いですか?」
アルトリアは、問いかける。
「でしたら、“失敗してもいい”と思ってください」
「失敗は、怖いものではありません」
「損なことでもない」
一拍。
「もちろん、失敗を笑う人もいます」
「ですが、その中で助けてくれる人も、必ずいます」
穏やかな声だった。
「そういう人を見つける機会だと、思ってください」
「そういう方々と関わっていけば」
「いずれ、周りの目は気にならなくなります」
生徒は、しばらく考えてから、ぽつりと聞いた。
「ーー社交部の、部長さんみたいな?」
アルトリアは、一瞬だけ言葉に詰まり。
そして、小さく笑った。
「ーーそうです」
生徒が頭を下げ、部屋を後にする。
その背中を見送りながら、アルトリアは、ふと考えた。
(私はーー)
社交部の面々を、
助けてくれる人たちだと、思っているのだろうか。
いつから自分は助けてもらってもいいのだとーー。
そして、部長。
彼は、誰にでも手を差し伸べる人だ。
自分だからではない。
以前、守ると言われた際は拒絶してしまったが、
あれは彼の中での普通で、特別な行動ではないのだろう。
そう思うと、肩の荷が下りる。
同時に、なぜかーー少しだけ、胸の奥が寂しかった。
きっと、気のせいだ。




