7話 模様替え
社交部の利用者が増えてきている。
それは、喜ばしいことではあった。
午後の陽射しが差し込む部屋には、いつもより多くの椅子とテーブルが並び、令嬢たちの声が柔らかく混ざり合っている。
しかしその一方で、視線は落ち着かず、どこか窮屈そうでもあった。
「ーーそろそろ限界だな」
帳簿を閉じたセリウスが、淡々と告げる。
「席数が増えた分、導線が詰まっている。出入口付近が特に酷い。今の配置は容認しがたい」
「むーー」
レオンハルトは部屋を見回し、少しだけ眉を下げた。
「確かに狭くはなったけれど、皆が集えるなら多少の不便はーー」
「多少、ではない」
即座に切り返される。
「利用者が増えれば、気後れする者も増える。落ち着けない場所は、長くは使われない。
そういった些細な妥協からーー」
そこへ、面白がった声が割り込んだ。
「じゃあ模様替えしちゃう?」
「いいね! 気分転換!」
ルカとノアが、勝手にソファの端を持ち上げ始める。
「おい、許可はーー」
「うわ、重っ」
「ルカ、ちゃんと持ってよ」
次の瞬間、別の意味で空気が変わった。
「ーーそれ、そんなに重くないよ?」
ひょい、とフィオレが双子がもちあげるのもやっとだったソファを軽々と抱えて、
そのまま部屋の端に運んでいく。
一瞬の沈黙。
「フィオレ、それは一人で動かせるものじゃーー」
「え? 邪魔だったから」
何気ない物言いに、誰もそれ以上言えなくなる。
その後、ワイワイと各々が好きに家具を配置しようとする中、セリウスは必死に取りまとめようと悪戦苦闘していた。
混沌としかけた空気の中で、アルトリアは壁際から静かに全体を見渡していた。家具の位置、窓からの光、入口からの距離。令嬢たちが無意識に避けている場所と、集まりやすい場所。
数分後、アルトリアは控えめに口を開く。
「ーーこの配置だと、初めて来る方が落ち着けません」
視線が集まる。
「入口から全体が見えすぎます。視線を浴びる形になる。奥に、少し視界を遮るものがあればーー」
ソファと観葉植物を指し示した。
「それらをこちらに寄せれば、入室した瞬間に居場所を選べます」
セリウスが即座に頷く。
「合理的だ。導線も改善される」
「なるほどーー」
レオンハルトは感心したように微笑んだ。
「君は、いつも“自分たち”じゃなく、“来る人”を見ているんだね。
良いことだが、たまには自分の好きなようにしてもかまわないんだよ?」
「ーーお客様のほうが優先ですよ」
アルトリアはそれだけ答え、再び作業に戻る。
家具の位置が変わり、空間が整うにつれ、部屋の空気は目に見えて和らいだ。令嬢たちの肩の力が抜け、自然と会話が弾み始める。
「なんか、落ち着くわ」
「前より話しやすいですわね」
その様子を見て、レオンハルトは小さく息を吐いた。
「正しい配置、かーー」
「違うな」
珍しく、セリウスが否定した。
「“正しく”はないが“らしい”配置だ」
双子は顔を見合わせ、にやりと笑う。
「部長に嚙みつくなんて珍しいね」
「なんか変わったね」
セリウスは聞こえないふりをした。
(好きなように――か)
楽しそうな面々の中アルトリアだけは一人物憂げな様子だった




