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(9) 家に帰れ

遅くなりました。

 イザベラが目覚めたのは、学園の医務室のベッドの上だった。

「あれ、わたし……」

 ものすごく眠ってスッキリした気分だ。布団を跳ね除けるように起き上がると、近くにいた職員がびっくりしたように振り向いた。

「イザベラさん、目が覚めたのですね。医者と家族をすぐに呼んできます。」

 医者の診察によれば、学園長室で倒れてから丸一日が経過していた

「花粉をそれほど吸い込んでいなかったのと、薬の服用が早かったのが良かったですね。起き上がってもふらふらしないようでしたら、家族の方と自宅に戻っても大丈夫です。」

「イザベラ!」

 医務室に来たのはエミリアだ。涙で目を潤ませながら、イザベラに抱きついてくる。

「良かった……!」

「心配かけて、ごめんなさい。エミリア姉様。カイン……様は?」

 兄様と言わないように気をつけながらイザベラが聞くと、エミリアは顔を顰めた。

「薬を大量生産してる。とうとう私の手を借りずに薬を作れるようになっちゃったわよ。」

 どうやらカインはイザベラが寝ている間に錬金術も習得してしまったようだ。

「家族と一緒なら、帰っていいってお医者さんが仰るのだけど。」

「確かに、タウンハウスに戻った方がいいかもね。父様と母様もこっちに向かってるし。」

「え。教えちゃったの?」

「カインがね。もうイザベラを帰すって。」

「姉様。私をカイン……様のところに連れて行って。」

 イザベラの頼みをエミリアは断れなかった。


「イザベラ!薬が効いたんだね!良かった……!」

 錬金術室を占拠していたカインは、イザベラに近づこうとして、そのまま立ち止まった。何故か口を押さえて赤くなっている。

「心配かけてごめんなさい。お兄様の薬のおかげよ。」

 イザベラがカインの顔を覗き込むと、カインは目を逸らしてうつむいた。

「イ、イザベラが元気ならそれでいいんだ。」

「お兄様の薬が効いたのですわ。眠っている私に薬を飲ませるのは大変だったでしょう?」

「無我夢中だったからね。唇も冷たくなってて……。いや、と、とにかく僕以外はダメなんだよ。」

 慌てた様子でカインは顔を上げたが、イザベラの顔を見ると急に後ろを向き、机にある空のビーカーに近くの薬草を入れるとぐるぐるかき混ぜ始めた。

「解毒薬、使っていただけるようになりましたか?」

「うん。イザベラで効果は証明されたからね。大丈夫だ。だからね、イザベラ。」

 カインは背中を向けたまま、硬い声で言う。

「君はもう帰るといい。王都に近づくな。これは婚約者としての命令だ。」

「ちょっと、カイン。言い方ってものがあるでしょうが。」

 それまでニヤニヤとカインを見ていたエミリアが思わず口を挟む。

「エミリア姉様だって承諾したことだよ。」

 どう言うことだとイザベラがエミリアの方を向くと、エミリアはため息をついた。

「イザベラが寝てる間に、あのルークスとか言う男から話を聞いたの。なんの話かは分かるよね。」

 時魔法のことだ。あの男はイザベラがいない間に騒動の種を撒き散らしていったらしい。

「そしたら学園長がイザベラを……。」

「エミリア姉様!そこまででいい。イザベラをさっさとタウンハウスに連れていって。迷惑なんだよ!」

 イザベラは心臓に冷水を浴びせられたような衝撃を受けた。カインを本気で怒らせてしまったのだ。ただ、助けたかっただけなのに。

「ご、ごめんなさい。兄様。」

 それ以上言うと、涙が出て来そうだったので、イザベラは慌てて部屋を飛び出した。



 タウンハウスに戻ったイザベラは、そのまま部屋に閉じこもった。屋敷から出ることを護衛も許可してくれなかった。

「領主様がお着きになるまで部屋でお待ちください。何か必要なものがありましたら準備いたしますので。」


 やることのなくなったイザベラは、寝台の上で、膝を抱えて座っているしかなかった。薬を作ったことで、カインがセフィリアを害する未来は変わったのだろうか。しかし、学園長室まで一緒に行ったのだ。ゲームの世界にある「強制力」が、どう影響するのかをイザベラも測りかねていた。


 部屋の扉がノックされる。領主夫妻が到着したのだ。イザベラは二人の顔を見ると、淑女の礼も忘れて抱きついた。

「父様!母様!」

「イザベラ!体調はもう大丈夫なの?おかしなところはない?」

 二人とも心配をしてくれていたのか、咎めることもなくイザベラを眺め回して、大丈夫そうだと分かると安心した顔になった。

「カ、カイン兄様が、もう帰れって。すごく怒ってて。私もう嫌われて……。」

 イザベラも両親の顔を見てホッとしたのか、涙がポロポロと溢れてくる。

「そうじゃないわ。カインは貴方が心配なだけよ。」

「そうそう。イザベラにどんな顔をしたらいいのか分からなくなったんだよねえ。」

「そうね。」

 両親がうふふと笑い合う顔を見て、イザベラは首を傾げた。自分の知らない何かがあったのだろうか。


「それよりも、問題が一つあってね。このままイザベラを連れ帰ろうと思っていたんだけど、できなくなった。」

 父親が真面目な顔になった。コートの前を開けると、その下の服の内ポケットから手紙を取り出す。

「王宮からの招待状だ。イザベラに来て欲しいそうだ。流石にこれは断れない。」

「え……。私一人、ですか?」

「貴方のマナーじゃ下手をすれば不敬罪で牢屋行きよ。」

 母親が冷静に言い放った。それはそれでグリーン家が終わってしまう。

「嫌です!そんなの。」

 イザベラは震え上がった。

「一番いいのは、カインと一緒に行くか、私と一緒に行くかなのだけれど。薬のことを聞かれても私では答えられないわ。」


「でも、兄様は……。」

 イザベラが王宮に行くと知ったらもっと怒るだろう。

「そうね。だからカインをここに呼んだわ。二人で話をして仲直りをしなさい?」

 母親がにっこりと笑う。

「そうそう。ついでに朝まで話でもしてくれるとありがたい。でも話だけだからね?それ以上はまだ早いからね?」

 父親が真面目な顔をして念を押してきた。

「朝まで? それ以上?」

 意味がわからない。

「イザベラが王宮に取られないようにするの。あとはカインに聞いてちょうだい。」

 母親の言葉にイザベラは曖昧に頷いた。



読んでくださり、ありがとうございます。

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