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(10)覚醒

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 夜になってから、カインはタウンハウスにやってきた。両親となにやら話をした後、イザベラの部屋へとやってきて、黙って腕組みをしたまま椅子に座っている。侍女が出してくれたお茶も手つかずのままだ。目の前に座っているイザベラとは目を合わせようともしない。

(やっぱり、怒っているよね。)

『春のまどろみ』の病にかかってしまったのは不可抗力とはいえ、そもそもイザベラが王都に来なければ起こらなかったことだ。しかも王宮からお呼び出しもされてしまった。火を消すはずが、なぜか大火事にしてしまっている気がイザベラにはしていた。イザベラは素直にカインに謝ることにした。


「お兄様、ごめんなさい。私が事態をややこしくしていますわよね。王宮の呼び出しまで来てしまって……。それだけ終わったら、領地に帰りますから。」


 気落ちしたイザベラの声が気になったのか、カインがチラリとイザベラを見るが、すぐに視線を逸らす。


「怒っている、というよりは、僕はイザベラのことを心配している。君は自分が今、どれほど危険な立場にいるか分かっているのかい?」


「危険……なのですか?」


 イザベラは首を傾げた。危険なのは破滅フラグが立っているカインの方だと思っていたが、違うのだろうか。カインはため息をついた。


「『春のまどろみ』の解毒薬のきっかけを作り、時魔法の素質まで見せた男爵令嬢だ。王宮からの呼び出しは、解毒薬のことと、時魔法のことを聞くためだ、もしこれで王太子の病気が治ったら、聖女以上の存在として国に利用されるだろう。」


「私、時魔法なんて使えませんわ。」


 イザベラの言葉に、カインは不思議そうな顔をする。


「時魔法を使ったから、僕のことを助けようとしてくれていたんじゃないのか?解毒薬のこともそうだ。夢を見たのは時魔法の一つだと考えれば辻褄が合う。」



 そういえば、そういう話にしていたのだった、とイザベラは思い出した。かといって「前世のゲームの記憶で先が分かるんですよ」と言っても信じてはもらえない。


「王宮に行ったついでに、王太子の婚約者にされても、家では断れない。だから、家族で考えた末、この方法を取ることになったんだ。」


 それがカインが朝までいることとどう繋がるのだろうか。分からないと言った顔のイザベラに、カインは再びため息をついた。


「僕たちは婚約者だ。」


「そうですね。」


 そういう名目で王都に来たのだ。それは忘れていない。


「婚約者が朝まで同じ部屋にいた。このことが指す意味が分かるかい?」


 婚約者と朝まで同じ部屋……そこまで考えてイザベラは顔が火照るのを自覚した。道理で父親が「話すだけだよ?」と念を押していたはずだ。「既成事実」を作って、他からの縁談を物理的にシャットアウトするつもりなのだ。


「え?でも、私たち兄妹ですわよね?」


 慌てたように言うイザベラを見て、カインの目が優しく細められる。


「だから、対外的には『婚約者』だから。そのために僕はタウンハウスに泊まると学園に届けてきた。……誰にも、君を渡したくないからね。」


 カインの行動は妹を守るためにしては行き過ぎてはいないだろうか。むしろカインの将来が、心配になってくる。


「結婚前にそんな風になるのはあまり良くないんじゃ……。」


「最終的に結婚するんだから、問題はない。それとも、僕と結婚は嫌なのかい?」


 ここに来て、何がが食い違っている。嫌な予感がイザベラの胸に広がった。


「嫌じゃないですけと、そもそも兄妹ですよね?流石にそれは認められないのでは。」


 イザベラの言葉にカインは頭を抱えた。

 しばらく沈黙が流れた後、カインは椅子から立ち上がり、ゆっくりイザベラの前まで歩み寄ると、その場に膝を着いた。ちらりと部屋の端にいる侍女を確認する。父の配置した監視役だ。動かない様子を見て、カインはイザベラの手を自分の手でそっと包み込んだ。



「昔の話をしよう。君がまだ幼かった頃の話だ。」


「はい。」


 突然なんなのだろう。イザベラは、黙って話を聞くことにした。


「僕は一人で近くの森に遊びに行っていた。そこで小さな泣き声を聞いたんだ。なんだろうと思って、草むらを掻き分けていったら、小さな女の子を見つけた。」


「迷子ですか?」


「僕もそう思った。だから、とりあえず家に連れて帰ったんだ。でもその子の親は、いくら探しても見つからなかった。」


 捨てられた。そう思った瞬間、イザベラは古い記憶が朧げに浮かび上がってきた。一人ぼっちで森にいて、心細かった時に、誰かが手を引いて森から出してくれたのだ。


「だからね、僕は父様にお願いしたんだ。『この子と僕は結婚するからこの家に置いてくれないかって。僕が一生面倒見るから』って」


 カインがじっとイザベラを見つめた。


「イザベラ。僕は君を妹とは思っていないよ。そして、君を誰にも渡す気はない。たとえそれが王族だとしてもね。」


「……私は家族じゃなかったのね?」


 気づくと、イザベラの目からは涙が次から次へと溢れてくる。

 カインは慌ててイザベラを抱きしめようとした。


「カイン様。それ以上は。」


 侍女に制止され、カインの手はさまよった挙句、イザベラの手をまた握り直した。


「それは違うよ。僕の妹じゃないだけ。家族も皆そう思っているから、今まで誰も話さなかったんだ。」


(本当だろうか。誰か教えて欲しい。本当の、ことを。)

 そう思った途端、イザベラの体は、光の粒子に覆われた。


「イザベラ様?」

「イザベラ!」


 驚く侍女とカインを置いて、イザベラの意識は過去へと飛んだ。


「父様、お願いです。あの子を僕のお嫁さんにしてください。」


 真剣な顔で父親に頼む、小さなカインの姿が見える。


「私の妹?嬉しい!毎日一緒に遊びましょう?」

 イザベラをぎゅっと抱きしめて喜ぶ、エミリアの姿も見えた。


「急に娘が増えて、大変だこと。エミリアの服が無事でよかったわ。」


 エミリアの小さくなった服を、イザベラに合うように仕立て直す母親の姿も見えた。


「小さいんだから、ちゃんと食わないとな!」


 裏山で魔物を倒しながら、食料を探してくる兄の姿も。


(ああ、私は、ちゃんと受け入れられてきたのね。)


 ぎゅっと引っ張られる感覚に自分の手を見ると、イザベラを離さないように強く握っているカインの手が見えた。その手を辿るように視線を上げると、泣きそうになっているカインの顔が現れる。


「イザベラ!」

「兄様、よかった………」

 ひどい疲労感に襲われて、イザベラはそのまま目を瞑った。

「医者を!」

「はい、ただいま!」

 ふわっと体が持ち上がる感覚がする。まぶたすらも重くて持ち上がらないイザベラは、そのまま意識を手放した。


イザベラ、倒れてばかりです。

ゴールがだいぶ見えてきました。


読んでくださり、ありがとうございます。

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