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第23話 負けヒロインは他人の恋を終わらせる

 乙都の恋人を見つけだして欲しい?


「瓜子さん、だよね?さすがに、教師のプライベートを探るのは良くないよ?」


 輝夜が優しく諭すが、瓜子と足をもつれさせながら、私達のもとに駆け寄って来た。


「別にストーカーとかじゃないし、みんなに言いふらしたりもしません、ましてや乙都先生にそれをタネに迫ったりもしません。ただ、知りたい、知らなくちゃダメなの」

「落ち着きなさい。聞くから」


 今日は部員負傷のため、部活動終了を宣言してしまったものの、なんとなく、この子を見捨てられなかった私は、必死すぎて薄い涙を目に浮かべた少女を座らせた。


「3年2組の瓜子先輩ですよね」


 陽芽が耳打ちしてくる。私達と同じ学年か。なぜ、陽芽の方が詳しい。


「ほぉら落ち着いて。私達は逃げやしないからねぇ」

「一から説明しなさい。背景からね」


 瓜子は気まずそうに輝夜を見た。縁のない私達に聞かれるより、関わる可能性の高い異性の教師に聞かれるのは嫌なのだろう。


「はーい、先生は退散するよ。気を付けて帰るんだよ。犯罪行為はしちゃだめだからね」


 輝夜は空気を読んで、2重に余計な心配をしてから保健室から出て行った。


「単刀直入に言うと、乙都先生が好きなの、私」

「へぇ、全然わから……」


 いきなり告げられた禁断の恋。確かに教師にあこがれる年ごろとは言えているが、数いる教師の中で乙都を選ぶ女は総じてシュミが悪そうだ。絶対に予後が悪い。

 全然良さがわからないと口走ろうとしたところ、林檎のうっすい手で口を塞がれた。


「こら、依頼者が話してくれなかったらどうする」


 林檎は小声でささやいてから、その辺にあった白紙のプリントに保健室に転がっていたボールペンを勝手にかっぱらって、聴取した内容を箇条書きにしはじめた。


「私、貧血体質でよく全校集会とかで倒れちゃうタイプなんだけど、そういう時、乙都先生がよく寄り添ってくれて……」


 絶対に乙都がサボりたいだけだろう。常日頃からホームルームでは「朝会がこの世で最も嫌い。昼休みの放送とかですましてくんねぇかな」とか愚痴っていたから。


「そんな、ぶっきらぼうだけど、優しくて、面倒見が良いところが好き。3年間ずっと見てきたから、今ではその言葉がサボるための口実だったとしても、見せたやさしさは嘘ではないと思っている」


 瓜子は、嬉しそうにそんな話をした後、少しだけ表情を曇らせた。


「ただ、そのある日、このベッドで休んでた時、カーテンの向こうで乙都先生と輝夜先生が話してるの聞いちゃったんだ」


 怪談話で大オチを話すかのようなタメを作ってから、彼女は言った。


「乙都先生、同棲している彼女がいるって」


 ……まぁ、普通に初耳だったので驚きはした。しかし、乙都は確か、三十代に差し掛かるかどうかの年齢。むしろ、そんな人が隣にいることの方が自然だろう。

 驚きよりも納得のような感情が強く正直彼女と同じ温度感で反応することはできなかった。


「……もしかして知ってた?探偵部の顧問だもんね」

「ううん、全然知らなかった。乙都先生、結構、私達のイベントごとへの付き合いよかったし、休日でも見に来てくれてたことあるから、意外ではあるねぇ」


 期待通りの反応が得られなくて、少しがっかりしてそうな瓜子に林檎が淡々と答えた。

 確かに、パートナーがいるにしては女子高生ばかりの部活に休日まで顔を出すのは不思議だ。

 乙都のようなだらしなさそうな男と付き合うような女性は


「具体的に言うと、乙都先生、来年退職するらしいんだけど、一緒に住んでるあの子はどうするの?結婚するの?って輝夜先生が……」


 それを聞いて、林檎も陽芽も苦虫をつぶしたような顔をしていた。

 残念だったわね。私達と同じ失恋少女ってわけか。


「で、アンタどうして欲しいわけ?もうアイツに恋人がいることは確定してるんでしょ。これ以上何が欲しいの?」

「確信」


 私の、少し意地悪な問いに対して、瓜子の目はやたらとまっすぐに回答した。


「そう確信。確信が欲しい。今は、まだ私が輝夜先生の言葉を盗み聞いただけ。私の悪夢かもしれないし、聞き間違いかもしれない、だから!」


 熱が入るあまり、瓜子は立ち上がった。


「だから、お願い。貴方達からも、先生に恋人がいることを突き止めて欲しい。わかってる、何も悪いことしてない人のプライベートを探るなんて最低なこと、それでも私は……」


 意外にも、その続きの言葉を紡いだのは林檎だった。


「綺麗に失恋したいんだね」


 瓜子は、自分の空いた心にぴったりと当てはまるピースを手渡されたような、ハッとした表情をしてから、その言葉を大事に抱きしめるように無言でうなずいた。

 きっと、その言葉を心のピースにはめるのは痛みが伴うだろうに。


「私、先生がいなくなる前に告白しようと思うの。でも多分、先生は本当のことを言ってくれない。だから、知りたい。本当のことを知って、」

「わかった。探偵部の名にかけて、徹底的に貴方を打ちのめしてあげる」


 林檎は、悪魔のささやきのように甘い声で言ってから、私の方を向いた。


「ね?部長?」

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