第24話 負けヒロインの外の面
「林檎のノロマが捻挫したから今日の部活は終わりよ」
「何やってるんですか…………」
陽芽は重そうな腰をあげて、立ち上がった。二人で荷物を持ち、保健室に向かう。
「ネム先輩。林檎先輩がいない今だから聞きますが、兄のこと、本気で好きだったんですか?」
「なっ、何よ急に!?」
声が裏返った瞬間、自分でも驚くほど心臓が跳ねた。改めて冷静な調子で言われると、否応なく胸の奥がざわつき、頬に熱が集まっていくのがわかる。
一方、陽芽はそんな私を、まるで実験動物でも観察するかのように冷めた目で見ていた。その保冷剤のような視線で、一瞬で沸騰した熱がシュー……と音を立てて冷めていった。
「……今更取り繕ってもダサいだけね。アイツには私がついていないとダメだと思ってたし、私にギリギリふさわしい男だと思ってた。何目移りしてんのよと思ってる」
「全然取り繕ってるじゃないですか。要するに好きだったんですね」
「……」
「まぁ、妹に対して率直に言いにくいのはわかりますが、付き合っても良いとは思ってたんです?」
付き合う、交際する、結婚する恋愛の行きつく先はここになるのだろう。
何もとりつくろわず、素直に言うのならきっと付き合ってあげてもよかった。別の女と付き合わないでほしかった……なんてこと考えたら腹立ってきたわね。
この完璧美少女に思いを寄せられておきながら何知らんぷりしてんのよ
「わ、なんかイライラしてます?」
「えぇ、腹立ってきたわ。私にこんなダサい本音抱かせるようなアイツが!」
「……私は、貴方が本音を叫んでる時が一番かっこいいと思いますけどね」
「え?」
「いいえ、なんでも。ほら、保健室つきましたよ。私これから委員長モードになるのでよろしくお願いします」
どさくさにまぎれて何をよろしくされたんだ私は。
「林檎先輩大丈夫ですか?」
陽芽は先ほどまでの仏頂面はどこへやら。傷を負った勇者に駆け寄る聖女のように、心配そうに林檎に駆け寄った。ここまで仮面をガチガチに固めていて疲れないのだろうか。
林檎は笑いをこらえて震えながら「全然大丈夫~」と返していた。
そんな様子を見て、付き添いの輝夜がニコニコと笑っていた。
「音木さん、探偵部に入って大丈夫か心配してたけど、先輩にかわいがってもらってるみたいでよかった」
「……はい!先輩達には大変優しくしてもらってますよ」
担任の先生相手に愉快な内面を見せるか、私と林檎の前で愉快な外面を見せるか天秤にかけたわね。愉快な外面を見せる方を選んでくれたみたいだ。遠慮なく楽しむとしよう。
「そうね。今日も私達二人でアンタの飲み物買いに行ってやったわね」
「うふふ、若輩者のためにお二人自ら飲み物を買いに行ってくれるなんて、ほんとー後輩思いの優しい先輩ですね」
私が肩に手を置くと、ピクピクと頬を震わせる陽芽にスマートに手を払われた。
「よかった。すっかり探偵部に馴染んでるんだね」
輝夜がそう言った時、シャララと音を立てて、勢いよく保健室のカーテンレールが開いた。
「貴方達探偵部ですか?!」
中にいたのは、見たこともない女子生徒だった。リボンの色からして同じ学年だろう。セミロングの少し洒落た雰囲気ながら、ベッドで寝ていたせいで髪の毛が跳ねていた。
そんな女子生徒に林檎も陽芽も驚いて返事を返さないから、仕方なく私が「そうだけど?」と返事をした。
「ねぇお願い!私の依頼を受けて!」
女子生徒は、保健室で休んでいたとは思えない勢いで、ベッドから飛び出して頭を下げた。
「乙都先生の恋人を見つけ出して!!」




