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第23話 負けヒロインの関係の名は

「調行!俺と一緒に後夜さ」

「却下」


 この、林檎とかいう一見御しやすそうに見える女は、部室にたどりつくまでに、また知らない男から求愛されていた。思ってた以上にモテるらしい。確かにこれは煩わしいわね。

 林檎は一切男に目をくれずスタスタと歩く。しかし、この男は先ほどの男とちがって諦めが悪かったらしい。


「待ってくれよ!最後まで話を」


 男が林檎の肩を掴んだ。

 林檎のか細すぎる体はそれだけで簡単にバランスを崩した。


「え」


 気づけば、林檎の足首は、あらぬ方向に曲がってた。


「あぅ……痛……」

「ちょ、大丈夫!?」

「ごめん。お、俺はそんなつもりじゃ……」

「大丈夫、ネムりん。そんな顔しないで」

「は?どんな顔してるって言ってんのよ。アンタのどんくささにあきれてる顔よこれは」

「人殺しそーな顔してるよ。大丈夫。ひねっただけー、慣れてるから」

「慣れてんじゃないわよ貧弱女!」


 林檎は「いたた……」と自分の足を撫でる。私がキッと男をにらむと、男も林檎に気があるというのは嘘じゃなかったようで、心底心配そうに林檎に駆け寄った。


「俺、おぶって保健室まで連れてくよ」

「……大丈夫だから。さっさと退いて」

「でも、俺が責任とらないと」


 たとえそれが純粋な親切心から来ている言葉だとしても、自分に下心のある興味のない男に触れられるのは抵抗があるのだろう。林檎はキョロキョロと辺りを見回す。

 不運なことに、放課後で人通りは少なく、男手と呼べるのは目の前の男しかいないようだった。

 私は大げさに溜息をつく


「どきなさい、私が連れてくわ」

「「え?」」

「アンタみたいな貧弱ゴボウ女ぐらい余裕なんだから!早く来なさい!」


 林檎はパチパチと瞬きをする。


「私がおぶってやるって言ってんの!その男におぶってもらいたいなら好きにすれば?」


 私の言葉に林檎はぷっと小さく噴き出した。


「ネムりんが良い~連れてってぇ」

「で、でも女の子同士じゃ危ないんじゃ……」

「男!アンタは黙ってなさい。この私がこんな骨と皮だけみたいな女一人おぶれないわけないでしょ!……オラっ!」


 私は林檎から伸ばされた両手を掴んで、背負う。

 うっ、意外とちゃんと重い。胸にある無駄な脂肪が後頭部を圧迫して暑い。


「ほら、フラフラじゃん……」

「うっさいわね!アンタにおぶられるよりマシって言ってんのよ!」

「ってことだから。じゃあね~」


 林檎はさらに私に体を押し付けてきた。熱苦しいわよバカ。


 呆然とする男を振り切って、のそのそと歩を進める。


「ありがとぉ」

「気が早いわよ。私全然その辺にアンタを放り投げておくことだってできるんだから。言葉には気を付けることね」

「ふふ、ネムりんはお人よしだなぁ」


 クソっ、保健室まで意外とあるわね。なんでこの私が汗水垂らしながら性悪女を背負わなくちゃいけないのよ。


「ネムりん大丈夫?」


 耳元でしゃべんなっての。やっぱりその辺に捨て置こうかしら。

 でも、この後、あの男が通りがかりでもして、林檎を明け渡す結果になったら腹立つ。


「あれ、探偵部」


 そんな時ひょっこりと、2年の教室から、輝夜が出てきた。


 ◆◆◆


「わ~らくちんらくちん、ありがと輝夜先生~荷物になった気分」


 たまたま、輝夜が台車を持っていたため、林檎は体育座りで荷物のように運ばれていた。


「木偶の坊にはお似合いの運び方ね」

「そんなこと言って~、さっきは必死に運んでくれてありがと~」

「ふん、お礼なら輝夜先生に言えば」


 輝夜は私達のやり取りを見てケラケラ笑っていた。


「いやぁ、二人は音木さんひっぱりだしてくれた恩人だからね。これぐらいお安い御用だよ。ありがとね」


 私も林檎も素直に感謝を向けられるとどういう反応をしたら良いかわからない。どう返せばいいのか途端にわからなくなる。探偵部で依頼をこなしてお礼を言われるたび、その役目は泡歌や桜路のように反応の大きい人間に一任して来たから。


「音木さん、探偵部に入ったって聞いたけどどう?」

「生意気よ、今日も先輩二人をパシらせて自分は一人部室でふんぞり返ってるわ」

「私達にジャンケン勝った時も『あらゆることに負け癖ついてますね』とか言ってきたしねぇ」

「本当に音木陽芽ちゃんのこと言ってる?そんな慇懃無礼な子いたっけ!?」


 そういえば、クラスでは委員長キャラを保っているんだったわね。これは悪いことしたわ。いい気味ね。


「今探偵部は何を探ってんの?そんな捻挫をして動けなくなるような危険な任務?」

「いや、いなくなった男を追ってる」

「あ、すごく私情」


 角を曲がると保健室が見えてきた。


「やっぱ、みんな音木さんのお兄さん……桜路くんのこと好きだったんだね」

「わ、私は別に……」


 つい、反射で否定しようとしたら、林檎がギロっとにらんできた。この女、前より棘はなくなったものの、桜路への感情にウソをつくことにだけやたら厳しいのよね。


「そうよ。私みたいな超絶美少女を置いてったんだから一発殴ってやらないと気がすまない。今どこにいるか探してんの」


 私は降参するように手をあげて開き直ってみせた。みせたものの、この輝夜とかいう軽薄そうな教師は、この感情をからかってきそうで嫌だな。

 しかし、私が思っていた以上に、この教師は軽薄だったらしい。


「わかるよ~俺も三ヶ月前に恋人から突然別れを告げられてずっとショック状態〜口も聞いてくれないんだよ〜」

「アンタの話は聞いてないのよ」


 まさかの自分語りに舵を切って来た。あんまいないわよ自分の恋愛事情を生徒にあけっぴろげにする先生は。


「先生、そうやって女子生徒に気が持たれないように大人の世界で恋愛してるアピールをわざとして、牽制してるんでしょー大変だねぇ」


 台車の上で縮こまりながら林檎が看破してくる。わざわざ口に出すあたり、やはり嫌な女だ。輝夜は林檎の言葉に苦笑いした。


「わかるー?いやぁ大変なんだよ後夜祭とかも女子生徒から迫られちゃって!一人に選べないなぁ」


 なんとなく、この男を教師らしからぬギャル男と捉えていたが、女子生徒に気を持たせないようにそれなりに苦労しているらしい。


「え、じゃあ先生私と踊らない?」


 林檎が言った。


「私おーくん以外と踊る気なかったけど、虫ケラどもが寄ってきてめんどかった。先生が相手ならみんな手出ししにくいだろうから」

「ちょ、何考えてんのよ」

「へー女子高生と踊れんだ!」

「生徒のこと女子高生って言う先生にろくなやついないって」


 さっきまで私と踊るとか言ってたじゃない。断ったけども。


「もう別におーくんのいない後夜祭とかどうでもいいし」

「いや、助かるよーみんなのこと断るのに、調行ちゃん俺に絶対その気ないから」


 なるほど、林檎が輝夜に一切興味が無さそうなところがちょうどよいのか。下手に自分に気を持たせてうっかり手でも出してしまえば、一気に淫行教師として名をはせてしまうでしょうから。


「うん。お互いwinwin」

「女子生徒に嫌われるわよ」

「いいよ、友達いないし」

「あはは、井原さんがいるじゃん」

「……ネムりんは友達じゃない」

「は?」


 条件反射でキレ気味で返してしまったが、確かに私と林檎の関係性を示す言葉は「友達」ではない気がする。

 ではなんだ、私達は、一体


「うん、言うならば、同じ毒を飲んでる仲間。毒メイトって感じ」


 いや全然意味わからないわよ。

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