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第22話 負けヒロインは安易に手をとらず

 桜路の家で大した成果を得られなかった私達は、今日も今日とて部室でアルバムをめくっていた。

 林檎は文化祭、陽芽はまた合宿の時のアルバムを見つめている。


「……おかしい。このアルバムって、全部で12色あったわよね」


 林檎と陽芽がアルバムから顔をあげた。


「一色足りなくない?赤色のやつ」

「私、赤色のアルバム見た記憶あるよ。体育祭あたりだったかな……」

「二人ともどれだけアルバム読み込んでるんですか……」


 陽芽が呆れ気味に言う。泡歌と桜路がいた時は、碌に見ていなかったし、なんならスマホで管理すれば良いのになぜアナログな方法で……なんて冷評していたぐらいだ。まさか愛読書になるとはね。


「アルバム読みすぎてゲッシュタルト崩壊にでもなったんじゃないですか」

「そうかも。頭がごちゃついてきたわ」


 実際いろんな時系列の何の手がかりのないアルバムを見て、戻らない日々の羅列に酔いが回って来たようにも感じる。


「じゃあ、ここで頭がこんがらがってきた衆愚達のために名探偵林檎ちゃんの推理を披露しようかな」


 驚いた。失われた日常で自傷行為をしていると思いきや、きちんと推理をまとめていたのか。


「まず、おーくんとあーちゃんは私達にわざわざ付き合っているって宣言してから消えたわけだ。ぶっちゃけそこまで公表しなくても良かったと思ってる。つまり私達に言わなくちゃいけない理由があったんだね」

「貴方達のような面倒くさい女が追ってこないようにあえて恋人のフリをしたというのもあり得ませんか?」

「それなら陽芽ちーにまで偽る理由がないよ」


 それはそうだ。妹にまでそんなウソをつく理由はないだろう。陽芽は私達にみすみすその情報を渡すとは思えない。


「それから、おーくんはつい最近までネムりんが好きだったわけだから、多分どこかであーちゃんに告白されて了承したって流れが自然だよね」


 林檎が不意にチクチクと私を推理で攻撃してきた。


「そうね、アンタに告白されてもきちんと断れる桜路が、泡歌の告白には応じたって考えるのが自然ね」


 ”目には目を、歯には歯を”を座右の銘として生きてきているため、私も皮肉で返した。林檎が少しだけ、むっと唇を結ぶ。


「お二人とも、数分ごとにすぐギスギスするのやめてくれません?」


陽芽が大げさに溜息をついた。林檎がまたぷくと頬を膨らませて抗議の意思を見せた。


「別にネムりんとレスバがしたくて発言したんじゃなくて、現時点の推理をまとめようと思っただけなんだけど」

「へぇ、じゃあ聞かせなさいよ」 

「うーん、気分を害したから嫌ぁ、疲れたぁジュース飲みたぁい~買ってきて、陽芽ちん」

「嘘でしょ、後輩をパシる気ですか? 赤ん坊じゃないんだから自分で買ってきてくださいよ」

 

 先ほどまでひときわ神妙な顔でアルバムに向き合っていたかと思えば、急に幼児化してしまった。

 

「じゃあネムりん」

「ふざけないで、この私を使おうだなんて」

「じゃあジャン負けね~はい。最初はぐー」

 

 ジュースなんてちっとも飲みたくなかったのに、どういうわけだろうか。気づけば林檎によって勝負のリングに乗せられ、私も陽芽も最初の拳を突き出していた。

 

 ◆◆◆

 

「腑に落ちないなぁ」

 

 隣を歩く林檎はのんびりとそんなことを言った。

 

「私、ちゃんとチョキ出してたのに~~」

「口だけなら何とでも言えるでしょ。そんなに文句言うなら、その人間の文明に適してないクッソ長い袖まくったらどう?」

「だめ、これは私のアイデンティティー。おーくんが昔、宇宙人みたいでかわいいって褒めてくれた」

「褒めてんの? それ?」

 

 勝負の行く末は、あっけなかった。

 まず、林檎がそのクッソ長い袖のせいで何をだしたかわからない。それで審議が始まり、二回戦。私と林檎が新参の後輩にあっけなく敗北。こうして、二人で吹奏楽部が奏でる演奏をBGMに購買に向かって歩いているという状況に陥ってたわけだ。

 

「吹奏楽ってこんな最近の曲も演奏するのね」

「来月文化祭だからねぇ。興味ない人でも盛り上がれる曲だから後夜祭用なんじゃないかな~?」

「文化祭、もう来月なのね」

「そろそろクラスでも文化祭の準備がはじまるんじゃない?」

「めんどうね」

「私たちもなんか出す~?」

 

 大会のない文化部が最も成果を出せる場と言ったら文化祭しかないだろう。去年は「地域からの感謝の言葉」なんて地元のスーパーみたいな展示をしていたわけだけど、今年は一日中アルバムをめくるぐらいのことしか行っていないし、それすらもなんの成果もあげられていない。そろそろ廃部にさせられるかもしれないな。

 

「桜路の居場所がわかったら、私に殴られた時の顔でも展示してやりましょ」

「原型留めてるかなぁそれ」

 

 購買で、林檎はいちごミルクのパック、私はカフェオレのパックをそれぞれ購入する。

 

「あーあ、後夜祭でおーくんとダンス踊りたかったなぁ」

 

 林檎が、文化祭用の大看板に色を塗る美術部を横目にぼやいた。

 

 ウチの学校の文化祭は6月に開催される。

 そして、文化祭そのものよりも、内部の生徒のみで行われる後夜祭の方が盛り上がる。吹奏楽部の演奏、軽音部のライブ、そしてフィナーレには、男女で踊るダンスパーティーがあるのだ。そこで生まれるカップルも多いし、美男美女のダンスは目を引くため、もてはやされる。

 そこで交際をはじめて結婚まで行ってしまったOBの話なんてのもよく聞くものだから、一番目を引いたペアは将来結ばれるなんて都市伝説がある。

 そのため、欧米のプロムにかぶれたそんな催しが、文化祭の中でも最も盛り上がるのだ。

 

 去年の文化祭の探偵部はというと、先ほどの地域の声の展示をしたら、もうあとは文化祭を楽しむだけだった。……というわけにもいかず。文化祭の裏で「ラブレターを匿名で送って来た他校の男子を見つけてほしい」 なんて依頼を受けて奔走していたのだ。

 他人の恋愛ごとにかまけて自分たちの恋愛はおろそかとなってしまったため、今年こそはと思っていたのだろう。

 そんな話をしながら部室に戻っていると、私達の歩みを阻むものが出てきた。

 

「調行さん!」

 

 知らない男だった。突如呼ばれた隣の女も怪訝そうな顔を隠さずにしている。無視して良いだろう。

 

「邪魔」

 

 私が一言で一蹴して前に進もうとするが、なんと、この私が目に入っていないらしい、男はまっすぐ林檎を見つめて叫んだ。

 

「調行さん、一緒に後夜祭踊ってくれませんかっ!」

「却下」

 

 早。

 

「そ、そんな……」

「行こネムりん」

 

 林檎のやつ、明らかに断り慣れている。

 実は私はまだこのタイプの誘いを受けていない。恐らく高嶺の花だし常に高飛車でいるからだろう。

 比べてコイツは一見、おとなしくて穏やかで弱くみられがちだからワンチャンありそうに見えるのね。ちょっと同情するわ。

 

「大変ね」

「ここんとこ毎日来てる。あぁいうの」

 

 思ったより深刻そうだ。毎日か。それはさすがに気が滅入るだろうな。

 

「実は断んの苦手なんだよねぇ」

「アンタ、人を慈しむ心とか無いんだから断るなんて余裕でしょ」

「普通に他人と会話すんのが苦痛。あれ以上食い下がられたらなんて返せばいいかわかんないし。今はネムりんが隣にいたから最悪殴り飛ばしてもらえてたけど」

「私のことボディーガードだとでも思ってんの?」

「まぁかねがね」

 

 ここまで悪びれなく言われると怒るタイミングが見つからないな。

 そんなくだらない会話をしていると、林檎が何かを思いついたようにニヤーっと口角をあげた。

 

「ネムりん私と一緒に踊ってよ。これで断るのが楽になる」

 

 耳を疑った。コイツ、ほんの数か月前まで私のこと恋敵だなんだと言っていたのに、というか、今も思ってるだろうに、よくこんなにも平然と言えたものだ。

 

「誰がアンタなんかと」

「えー、ネムりんだって断るの楽になるよー」

「私はアンタみたいに安売りしてないの」

「おーくんが帰ってきた時に、おーくんと踊るために、今はネムりんにキープされておきたいの」

「私になんの得もないじゃないバカ」

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