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第17話 負けヒロインは追い詰める

「アンタ、何してたのよ、こんな時間に一人で。」

「そっくりそのままお返しします。こんな時間にお二人で何してるんですか」


真面目な委員長気質の性格、お兄ちゃんっ子、現在は引きこもり気味、そんな補導される時間に新宿なんかに行くわけがない要素がそろい踏みした少女がなぜ?

私は本気で意味がわからず、陽芽を問い詰める。


「アンタ、あの軽薄な男達についていく気だったでしょ」

「……私の勝手でしょう」

「どう見ても危ない目に合うタイプの男だったでしょー?おーくんと暮らしてたのに見る目無ーい」


林檎の煽りに、陽芽はあからさまに気分を害して顔をそらした。


「次の駅で降ります。それでは」


陽芽はスっと立ち上がって、私達から逃げようとする。

慌てて手を掴もうとするが、満員電車なのもあり、うまく掴めない。変わりに林檎がつぶやいた。


「これ、終電だけど」

「……っ」


陽芽は悔し気に林檎をにらむと無言で席に戻った。


「いやぁ、まさか陽芽ちんが夜遊びしてたとはなぁ、悪い子だなぁ」

「……探偵の真似事で張り込みでもしてたんです?」

「まっさかー。こんなところでぐーぜんだねぇ」


いけしゃあしゃあと言う林檎。私を夜遊びに誘った時よりよっぽど楽しそうだ。


「偶然ならもっと気まずそうにしてくださいよ。この人、堂々と割り込んできましたよ」


陽芽は私を指して、迷惑そうに吐き捨てる。


「それはちょっとネムりんが思ったより暴れ馬だっただけだよ」

「うっさいわね。不快だったのよ」

「ネムりんは、周りの人間が男に告白されてるときに割り込んでくることに定評があるリア充爆発しろ妖怪だからね」

「その思想の人間は平成で絶滅したと聞きましたが」

「今のところアンタ達にしかしてないわよバカ。いいから、さっさと教えなさい。なんでコイツが夜遊びしてるってわかったわけ?私てっきり引きこもってんのかと思ってたんだけど」

「不登校だった時期あるから、陽芽ちんの生活の違和感にすぐ気づいちゃった」


林檎は、何も言わず、じっと陽芽を見つめる。陽芽は「なんですか、言ったらどうです?」とぶっきらぼうに返した。


「まず、おかしいって思ったのは、この季節の昼間にはちょっと暑そうな服の洗濯物の山があったとこかな。自分をケアできてない状態で引きこもってる時なんて、パジャマやジャージぐらいしか着ないでしょ。だから変だなって」


先ほど陽芽の様子を窺ったのは、林檎なりに、生活の違和感をあげつらうのに気をつかったのだろう。陽芽の返事を聞いてから

林檎は静かに淡々と証拠をあげていく


「それから、ゴミがほとんどレトルトやカップ麺だったの。一回で買いだめしてるんだろうなぁって思ったけど、その割には冷凍食品が一切なかったから、ちょっと遠い場所に買いに行ってんだろうなぁって」

「……それだけで深夜に新宿へ外出してるなんてわからなくないですか?」

「うん。極めつけはなんでか家の玄関が泥だらけだったんだよね、それから雨の匂いがしたの。だから、きっと昨日も外出したんだろうなって、昨日雨が降った場所調べたら結構限られたエリアだったみたい」

「……あとは?私は何のぼろを出したって言うんですか」


もう、やけくそかのように、陽芽が吐き捨てたとこで、林檎は勝ち誇ったように笑った。


「あとは女のカン♡」


林檎はあざとく人差し指を口に当てて首を傾げた。

当然そんな魔性の仕草が一切効かない陽芽にはただただ苛立たせる仕草だったようで「はぁ?」と棘のある返事をして立ち上がった。


「そんな探偵ごっこで、私の邪魔をして何のつもりですか?」

「邪魔って何よ。アンタもしかして本気であの男達についてくつもりだったの?」

「そ、そうですよ……何ですか?私が兄さんへのあてつけに、自由に遊ぶのが許せないっていうんですか?」

「自由じゃなくてやけくそにみえたけど?ろくなことにならないわよ」

「今更、良い人ごっこしたって兄さんの気はもう引けませんよ」

「へぇ、意外~、あてつけのつもりだったんだねぇ。それにしては、男の人についていくの、さっきがはじめてみたいだから、慣れてないのかと思った。今手に持っているものだってコンビニで買ったカップ麺だけみたいだしね。危ないお薬とか変な夜遊びしてなくてよかったよ~」

「グレ慣れてないから、外出にとどまってたのね、よかったわ。かわいいところあるじゃない」


ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべているであろう私と林檎。なんて嫌な先輩だろう。


「貴方達どれだけ人の邪魔すれば気が済むんですか?迷惑ですよ…っ」


私と林檎の態度は、やはり陽芽の癇に障りまくっていたらしく、とうとう立ち上がった。


「もう兄さんは帰ってこないんですよ?それなのに妹におっせかい焼いて、探偵部の真似事して、毎日毎日、いなくなった男の影追って!惨めで、恥ずかしくて、無駄じゃないですか!!」


陽芽が感情をここまで明け透けに表面に出しているのを初めて見た。さすがに満員電車でこんな声を出せば注目を集める。


「このまま探偵ごっこを続けて、兄さんの居場所を割り出して、兄さんと泡歌先輩も別れさせる気なんですか?そうすれば兄の気を引けるとでも!?そんなわけないじゃないですか、迷惑な人たちですね!」


それでも、陽芽の感情の濁流は止まらなかった。


「好きな人にそんな迷惑かけて、何が楽しいんです!?自己満足じゃないですか!迷惑迷惑迷惑!!貴方達はずっと兄さんにとって迷惑なんですよ!!わかってるんですか!?」


ここまで大きい声を出したのは初めてだったのだろう。はー…はー…と音が聞こえる細かい呼吸をしていた。


「……そっかぁ、陽芽ちんはおーくんに迷惑かけたかったんだね」

「は?」


林檎が、ひどく優しい声で静かに言った。


「残念ながら、私達迷惑人間にはそんな悪口効かないんだよ」

「そうよ。迷惑かけられて当然なんだから。私達に理由も話さず駆け落ちしたあの男は」

「人に迷惑かけることに開きなおれる精神性がわかりません」

「アンタも十分迷惑なんだから」


一言、文句を言ったら、次々と文句が浮かんでくる。


「アンタがシケた顔してて迷惑!林檎のやつがいつまでも諦めなくて迷惑!何も言わず部活やめられて迷惑!謎を残すだけ残しまくって迷惑!迷惑迷惑!!みんな大迷惑なのよ!!」

「だ、誰に怒ってるんですか」


四方八方に向く私の怒りに、陽芽は先ほどまで自分が怒りを発露していた側にもかかわらず、引いていた。


「私達はこの恋とかいう無駄な感情のせいで、迷惑かけまくってんの、本当迷惑!!だれよこんな感情作った神様とかいうやつは…!!」


私の怒りがとうとう神に向いたあたりで、林檎が手で物理的にふさいだ。


「うんうん、そろそろ迷惑すぎて、電車から叩き下ろされるから降りようか~」



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