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第14話 負けヒロインは夜に駆ける

あれから家を追い出された私と林檎は同じ帰り道を歩いていた。

桜路と泡歌、私と林檎で家の方向が別れていたため、昔から林檎と二人きりで帰ることは多かった。しかし、特段仲が良いわけでもなかったため、桜路と泡歌と別れた途端に無言になり、数十分黙って歩いた後、林檎の家の前で「じゃあ」とだけ言葉を交わす。そんな下校風景が日常だった。


「うーん……」


林檎は何やら考えこんでいるようでスマホを見つめたまま唸っている。

興味本位で画面をのぞき込む。SNSや天気予報、ニュースと様々なタブを開いては閉じてを繰り返している。よくわからない。


「明日も桜路の家に行く?あの子、引きこもってるせいで夜寝れてないみたいだし。このまま一人で家に引きこもってたら鬱にでもなっちゃいそうだわ」

「うーん、明日こそ開けてくれなそうな気がするんだよなぁ。同じ手は使いたくないし」


確かに、もう一度のデリバリーを使った作戦なんてしたら、二度と口を聞いてくれないどころか、警察を呼ばれそうだ。


「桜路の情報は言う気無さそうね」

「うーん、言う気が無かったのかな、本当に……」

「ただでさえ、ひきこもって病んでるみたいなのに、私達が兄貴のことをほじくり返すのはよくなかったかしら」

「でもなー……このまま放っておいたらなんか結構危うい気がするんだよねぇ……」

「あの子も私達に心配されるぐらいなら兄貴に相談するんじゃないの?さすがに妹なんだから連絡先ぐらいは知ってるでしょ」

「うーん……」

「まぁ、親もそのうち帰ってくるみたいだし?そっちに任せた方が良いかしら」

「いや、それじゃ、遅い気がするんだよねぇ」


林檎がボソボソと私のぼやきを全て否定してくる。地味に腹が立つな。


「何よ!ボソボソボソボソ、SNSの悪口引用みたいなこと言って勝ち誇ってんじゃないわよ!SNSでは言ったもん勝ちかもしれないけど現実には拳が存在するんだからね!」

「すごい怒り方するじゃん。勝ち誇った記憶もないし」


林檎はそう返した後、ゆっくりと暗くなり始めている夕焼け空を見つめた。


「そっか、現実……」


呟いたその声に、いつもの軽さはなかった。

それから、何か決意したようにうなずいてから、こちらを向いて少しだけ口角をあげた。


「ねぇ、ネムりん。夜遊びしない?」


唐突な提案に「はぁ?」とだけ返す。

ついていってはいけない場所に誘惑する悪魔のように林檎は笑う。なんとなく、抗えなかった。

影が差しているせいで、コイツの周りだけもう夜みたいだ。


◆◆◆


23:00

宿題を終えた。

いつもなら美容のためにも、もう寝支度をしている時間だ。

けれど、今日はまだ“やり残した宿題”がある。


親への目を欺くために部屋の灯りを落とす。

サンダルをそっと取り出し、スマホの黒い画面を見つめた。


『駅来る前に私の家来れる?』


そんな林檎からのメッセージ通知が、半径数センチを明るく照らす。

短い溜息をついて、私は窓を開け、音を立てないように外へ出る。

キャップを深くかぶり、夜気を切るように歩き出した。


怖くなんかないが、決して怖くなんかないのだが、静かな分、静けさが濃すぎて、誰かの気配を感じるたびに肩が跳ねる。

そんな調子で10分とちょっと歩くと、私の家の3倍はある大きな白い家が建っていた。

コイツ、結構良い家の出なのよね。


『お隣の田中さん家の塀と塀の間、ネムりんなら入れるでしょ。私だと結構つっかかるけど』


私のスレンダーな体を信頼して言っているのか、自分の女性的な体を誇示したいのか……多分後者だろう。

腹が立つが、とりあえず言う通りに人の家の塀と塀の隙間に入ってみた。確かに狭いが通れなくはない。

そのまま進んでいくと、裏門のような部分があった。


「ねーむりん」


声がした方を見上げると、二階からヒラヒラと余らせた袖をヒラヒラと振る林檎がいた。制服じゃなくても袖が余る意味がわからないが、アイツなりのファッションなのだろうか。


林檎は「えい」と私に荷物を投げる。コレを受け取らせるためだけに呼び出したのか。

林檎は窓から分厚い紐のようなものを垂らすと、危なっかしい動きで伝って下りてきた。あまりにもぎこちない動きにハラハラしたが、なんとか不格好に着地していた。

それから私達は音を立てないよう静かに塀と塀の間を通って、夜の街に繰り出した。


「ふふ、夜遊びなんてはじめて~」

「なんで急にこんな提案……」

「いいからいいから」


既に先ほど何度か交わした無駄な問答を繰り返したものの、

ほんの少しだけ胸が弾んでいたのも事実だ。物音に跳ねるほど強張っていた身体が、今はどこか軽い。重たい殻を脱ぎ捨てたように、夜風が肌に心地よい。


「はーなんか楽し~」


夜空と同じ色をした長い髪が柔らかく広がった。

普段は太陽に照らされてフラフラ半分寝ているかのような目で生きているものの、今は月光に照らされて、ゆらりゆらりと泳ぐように私の先を歩いている。

まるで、夜が本来の住処かのように、林檎はこの景色に馴染んでいた。


「このまま新宿に行こうか」

「ちょ、新宿!?待ちなさいよちょっと」


このまま夜に溶け込んで、いなくなってしまいそうな林檎を見失わないように、私は必死に追いかけた。

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