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第11話 負けヒロインは、依頼を受ける

私達はそもそも現在の陽芽のクラスを知らなかった。

水泳部に入ってた記憶もあるが、プールを覗いてもその姿は見当たらない。

思えばあの日から、一度も陽芽の姿を見かけていないのだ。

これでも幼い頃からの仲ではある。学校で見かけたらそれなりに印象に残るはずなのだが、ここまで出会わないのはおかしい。


「おーとうとうアルバム燃やしに来たか?」


手っ取り早く、陽芽の居場所を知るために職員室に行くと、顧問の乙都がニヤニヤと笑いながらそんなことを言ってきた。

まるで私達がやけになって極端な行動をとることを楽しんでいるかのような態度は腹が立つ。


「手がかりを燃やすのは悪手でしょ」


”林檎と共に泥沼につかりながら逆走することを選んだ”遠回しにそう伝えた。

乙都はいつもの鋭い目つきを丸くして、意外そうな反応を返す。


「これでも探偵部だからねぇ、私たち」


林檎がやたら嬉しそうにそう返すのもそれはそれで腹が立つな。


「そうかよ、あんな暗い部室でネチネチ過去を振り返ってる暇があったら勉強しろよー」

「嫌味を交えないと会話できないなんて大人は大変ね」

「そっくりそのまま返すぞ。で、要件はなんだよ」


乙都は気だるげに眼鏡のブリッジを押し上げてこちらに体を向けた。


「陽芽ちんのクラス知りたいんだけどー」


私達には桜路や泡歌のような、聞き込みのスキルがない。あまりにもなさすぎて単刀直入に聞くしか手段を知らないのだ。

乙都はこれ見よがしに溜息をついた。


「あのなぁ……お前ら家族にまで迷惑かけるのはやめとけって……」

「迷惑?兄貴がいなくなって大丈夫か様子を聞きに行くだけよ。兄のことなんてどうでもいいんだから」

「私達と陽芽ちんはマブダチだからね」


私達は平然と建前とウソをあげつらねるが、大人にはお見通しのようで乙都は答えを渋る。


「あのなぁ、失恋もたいがいにしとかねぇと…・・」

「音木さんなら、今俺受け持ってるよー」


乙都の嫌な皮肉を遮ったのは、また別の教師だった。


「輝屋、お前さぁ……」

「なんで?ダメなん?」


輝屋先生、たしか、乙都と並ぶウチの高校の数少ない若い男性教師。女子生徒からの人気を乙都と二分していたはずだ。

桜路と真逆で軽薄な雰囲気だから、私の好みの範疇外であるため、その良さはいまいち理解できない。気に入らないことに好みが似通っているであろう林檎もきっと同じ感想を持っているだろう。


「音木さん、今不登校なんだよね。今まで皆勤賞だったみたいなのに、俺のクラスになってからは全くなんだよ」

「生徒の事情をペラペラ話すなって。コイツらが気になってるのは兄貴の方……痛っ!!!」

「最っっ低!!」


あまりにもあっさりと、私が自分にも周りにも桜路にも隠していた感情を口に出そうとしたので思わずグーで殴ってしまった。輝屋は爆笑し、林檎は「わぁ野蛮」と小さく拍手をしていた。


「痛ぇ……普通ノータイムでグー行くか…?」

「はは、生徒の事情をペラペラ話そうとしたのはどっちだって話だよね」


輝屋は、あまり私達の活動にいい顔をしていなさそうな乙都を押しのけて、軽い調子で近づいてきた。


「原因に心当たりありそうじゃん。もしよかったら会いに行ってみてくれね?俺じゃ、全く出てきてくれないんだよ。ほら、探偵部への依頼だと思ってさ」

「探偵部は便利屋じゃないわよ」

「追ってくれよぉ、音木さんが不登校になった謎を」


謎を追うとすれば、探偵部の領分になってしまうのか。ものは言いようね。

そういえば、お人よしな誰かさんのせいで、探偵部って便利屋だったわ。


「最近生徒の夜遊びの目撃情報があってさぁ、渋谷とか新宿とかそっちへの対応が忙しくて、音木さんの方をみてあげられてないんだよね」

「お前らも失恋拗らせて夜の街に走るんじゃねぇぞ。碌なことにならないからな。俺の仕事も増えるし」

「俺が夜遊びしてるときに生徒に会ったら気まずいからマジでやめろって思ってる」

「こんな大人でも教員免許がとれる時代に感謝した方がいいわよアンタ達」


こういう教師から外れたアウトローなところが、女子生徒からの人気を得ているのだろうか。わからない。


「まあ、いいわ、別に陽芽が心配なわけじゃないんだから、依頼だからやるだけなんだからね」

「誰の何に取り繕ってるんだよそれは……」


乙都がからかうように言ってきて、腹が立ったのでフンっと背を向けた。


「うっさい、さっさと桜路の家行くわよ、林檎」


林檎は、私の言葉に納得したのか、「はぁい、部長」とゆるく答えた。


あぁ、そうだ。そういえば私が部長なのだった。

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