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第10話 負けヒロイン、目をつける

林檎と共にアルバムをめくる日々がはじまって2週間を経った。

アルバムをめくるたび、戻らない日々、泡歌と桜路、桜路と楽しそうに過ごす自分、あらゆる過去の残像が脳を蝕み、心臓を締め付けてきた。

おかげで部室はページをめくる音と「う゛っ」「くっ」とチープな格闘ゲームのダメージボイスのような私と林檎の声が響き渡っている地味な地獄絵図と化している。帰る頃にはフルマラソンを走り切ったような疲労感に苛まれ、ふらふらになりながら帰っているのだ。

今日もそんな過酷な戦場に向かう。正直体はこれ以上過去をオーバードーズするのは無理だと訴えているが、林檎より先に音を上げるのは癪だった。


「おーくんは、ネムりんのことが好きだったのにあーちゃんと駆け落ちをした……」


不意にアルバムを見つめたまま林檎が呟いた。疲弊していたところにカジュアルにかけられた呪いにより、めくっていたページが重くなり、指から滑り落ちた。


「……いちいち言語化しないでよ。そんなに面白いかしら。慢心してたら泡歌に目移りされた女が」

「あー、別に今のはネムりんを傷つけようと思っていったわけじゃなくて、なんでだろうなって意味で呟いたんだよ」

「だから、桜路は私のことが好きだったのに私が高嶺の花すぎて泡歌になびいたって話でしょ!」

「自賛か自虐かわからなくてウケる~」


林檎はゆるゆると笑いながら手をたたいた。


「でも、あーちゃんさ、ネムりんとおーくんのこと応援したよ」

「は?」


そんなことされた記憶はない。される義理もない。


「覚えてない?二人きりにされたり遊園地のチケット渡されたり」

「……初期の話ね」


確かにこの部活発足当初、少し疎遠だった私と桜路が再び交流を持つようになったきっかけはそういったイベントごとだった気がする。きっと私がそれを恋路の応援ととらえてなかったのは、結局二人きりになっても林檎が割り入ってきたり、遊園地も結局みんなでいくことになったりと、恋愛関係の進展としては全く機能していなかったからだ。段々と、私と桜路二人きりということはなくなって探偵部みんなで行く感じになったのだけれど。


「だから、私にわざわざ謝ってきたんだよね。「私、ネムちゃんと桜路のこと応援するから、林檎ちゃんのこと応援できない!」って」


どんな状況だよ。


「腹たつよね、……不器用でウケて、ま、いいかってなったんだけど」


平たく言うと林檎は泡歌のことを舐めていたのだろう。

しかし、あの子の愛嬌にはそうさせる力があったのは確かだ。


「あの子の応援なんて、たかがしれてるしねー」

「……まぁ、実際なんか応援された記憶全然思い当たらないわ……」

「兎にも角にも、あーちゃんみたいなバカで不器用な子がさ、ネムりんや私を裏切って消える意味もわかんない」

「でも駆け落ちにしか見えないわよね。あの手紙」

「実際、親にも駆け落ちで話が通ってるっぽいしね」


沈黙が起きる。そこで、なんとなく今まで思考から外していた選択肢がポップアップしてきた。


「……妹に聞く?」

「それが早いね、メッセージ送ろう」


スマホからメッセージを送る。

桜路の一つ下の妹、音木陽芽おとぎ ひめ。委員長気質で真面目で優しげなよくできた女の子。世話焼きで、いつも桜路の分の弁当まで作ってあげているような、妹というより小さな母親のようだった。

探偵部の部員ではなかったが兄妹仲が良く、一緒に登校することも多かったし、幼馴染の妹というだけあってそれなりに私とも交流はあった。


なんとなく。陽芽に聞くのは最終手段な気がしていたため、選択肢から除外していたが、一刻も早く真実を知らないと、失恋で体が先にガタが来てしまいそうだ。

メッセージアプリを開くと『今日兄さんスマホ忘れたみたいなので、ネム先輩に送ります。帰りに卵を買ってきてくださいと伝えてくれませんか』なんて生活感あふれるやりとりの後に『元気?聞きたいことがあるんだけど』とぶっきらぼうに伝えた。これ以上絵文字を使うタイプでもないし、そんなテンションでもなかったから。

真面目でまめなあの子なら、きっと一時間以内には何かしらの返答が返ってくるだろう。


しかし、3日ほど経っても、陽芽から既読はつかなかった。


「おかしい……」

「ってかこれ、ブロックされてない?」

「え」


林檎が背後からぬっと顔を出して、勝手に私のスマホをいじりだす。


「うん。スタンプ送れない。これブロックされてる時に出る画面だよ」


もしかして、桜路から秘密にしろと言われている?それとも私達に恨みがある?色々な理由は思い浮かぶが、できることは一つだろう。


「……クラスに直接行くわ」

「え、ハート強」

「背に腹は代えられないわよ!いくら陽芽でもこの私のメッセージを無視するなんて……!」

「傲慢だなぁ」


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