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(第39話)王門の静けさ/剣の欠伸・総括

 朝。王門の高みは、昨夜の祝祭の匂いをどこかに預けてきたらしい。風は薄い紙の端を一度だけ持ち上げ、薄金点が眠そうに瞬いて、すぐ落ち着いた。旧穀倉の黒板には〈白布の配当〉の返却印が規則正しく並び、私はその下に今日の四角を立てる。


 〈王門・静けさ測定(本日)〉

 ――指標:歩幅の均し/声量(耳の高さ)/旗影の帯/胸線・空気描画の効き/“丸比較”の有無。

 ――時間枠:朝~夕(鐘三回)/各一刻に採録。

――道具:凡例シール(薄金点)/切頂台紙/白布・やわらか/砂灰袋/当て絵・上級表。

――詩条:〈静けさは目に見えぬ旗〉


 ――騒がない日は旗がいらない

 ――いらない旗が静けさを証明する


 セドリックが外縁を扇形に一巡し、盾の縁で朝の光をひとかけ切る。「護衛対象。“薄い危険”――無。……『跳ねたい』は『昨日跳ねなかった自慢』に変わりつつある。自慢は青が薄皮にするだろう」


 「薄皮の箸先、今日も鋭くなく、頼もしい」

 ローレンスは扇を腰で眠らせ、棒尺を肩に。「楽屋は“空気描画”の稽古を子に任せ始めた。――線が見えぬほど、線が強い」


 “杖欄”の朝見出しは歩幅を揃える。

 〈9月某日 王門・静けさ測定/“剣の欠伸”総括の予告〉

 植字工の古株は“静けさ”の三字を指腹で撫で、「この字は紙を冷やす」と言ってインクを半滴薄めた。冷えた字は、胃にやさしい。


 ◇


 朝の“声欄”には、小さな紙が静かに落ちる。

 ――“昨日、よく眠れた”(北区・老)

 ――“白布、返して次も借りたい”(母)

 ――“丸の競争、気が抜けて良い”(屋台)

 【採録】〈返却口の位置図/“数字窓一つ”の良例〉


 私は柱下に、総括の骨組みを先に置いた。


 〈剣の欠伸・総括(草案)〉

 ――観測期間:再契の前夜~本日。

 ――記録形式:日次・時刻・回数(小/中/大)・理由・戻し道具・“息”。

――派生指標:欠伸率(人の波あたり)/鈍化率(乱れ→戻しの息短縮)/大鈴休眠率。

――総合詩条:〈退屈は剣の子守歌〉。


 ――眠りの統計は街の子守歌譜

 ――譜は鈍く よく効く


 セドリックが頷く。「護衛対象。『総括』は“誇らず、眠らせる”文体で」

 古株がすかさず言う。「見出しは短く、数字は胃にやさしく」


 ◇


 午前の王門。

 〈一刻目〉

 ――歩幅=揃い(胸線・空気描画二回)

 ――声量=耳の高さ/“丸比較”なし

――旗影=帯の中(比1:3維持)

――小乱=0.5息(子の指滑り→波印太く・即修)

 〈二刻目〉

 ――歩幅=揃い/列は太い

――声量=少し低め(良)

――旗影=帯の端で粘る旗→膝砂灰→一息で収束

 〈三刻目〉

――歩幅=揃い/“自慢兆候”→薄皮袋へ転送・笑い一(1息)


 “静けさ測定”の札は風でめくれず、薄金点が小さく呼吸する。見える旗がなくても、見えない旗は立っている。


 ◇


 王太子が柱の下。外套は地面の高さ。

 「――“総括”。『大鈴、何日眠ったか』を冒頭に置いてほしい。……眠りの数は国の健康診断だ」

 「承知。――『大鈴休眠率』を見出しに」

 彼は短く笑う。「見出しが退屈だと国は長持ちする」


 ルカ――黒帽の投資家――が帽子を浅くし、紙片を台に置く。

 〈“総括”の刷り、青で前金。数字=銀二十。条件=『自慢の形容詞、禁止』〉

 「市場は“眠りの統計”が好きだ。……翌日の胃もたれが少ないから」

「形容詞を薄く、数字を小さく」


 ◇


 研究室の黒板に、集計が載る。


 〈剣の欠伸・総括(集計)〉

 ――観測:二十七日間。

 ――大鈴使用:0回(眠り=27/27)→【大鈴休眠率=100%】

 ――中:計9(理由内訳=胸線違反3/笑い乱発2/膝濡れ3/“占い名乗り”1)

――小:計31(合意・確認)。

――一日あたり平均:中0.33/小1.15。

――欠伸総数:大5(大きな欠伸=“中+小”の後の解放)/中12/小38(※“剣の欠伸”欄基準)。

――鈍化率:初期平均“戻し息”=4.8→直近=2.3(約−52%)。

――乱れ主要因の推移:〈旗高〉→〈胸線〉→〈凡例の序列〉→〈香り=油二波〉→〈列の競争〉(順次減衰)。

――有効な戻し道具:胸線・空気描画(効き一位)/砂灰・膝縁(同率二位)/中鈴(“正順”の三位)/白低二連(蓋)。

――凡例シール:薄金点の識別で“レア名乗り”沈静。

――薄い版権:罰金なし・裏紙活用・配分=研40/刷30/導20/布10。

――指標追加:『胃にやさしい比』(塩棒1・油波1・水丸1の遵守率)=94%。


 ――眠りは道具で作れる

 ――道具は鈍いほど長持ちする


 古株が「“100%”の字は小さく」と提案したので、私は“休眠率”を小さく、詩条を太くした。人は太字の自慢より、太字の手順で長生きする。


 ◇


 昼の鐘。一度。“杖欄・昼報(総括・速報)”。

 〈剣の欠伸・総括(抄)〉

 ――大鈴休眠=27/27

――戻し息=4.8→2.3

――主因の推移:旗→胸線→凡例→香り→列

――有効順:扇(空気描画)→膝(砂灰)→鈴→白

――詩条:“退屈は剣の子守歌”


 配布列の端で、聖女リリアが白の箱を撫で、「“蓋は香りで閉めず手触りで閉める”が効いた」と呟く。白の歌は今日も短い。


 セドリックが耳で拾う。「護衛対象。“踊る足”、今日は『完走前に一度だけ跳ねたい』と囁く。……跳ねる場所は舞台だと、もう知っている」

 「知っている囁きは、脅威ではなく余白です」


 ◇


 午後、王門の“静けさ測定・後半”。

 〈四刻目〉

 ――歩幅=揃い/胸線・空気描画一回

――旗影=帯の中/丸比較なし

――小乱=“数字窓×2”→一つに(1息)

 〈五刻目〉

――歩幅=揃い/列は太く遅い(良)

――油二波→波一へ(1.5息)

 〈六刻目〉

――歩幅=揃い/白布の返却列が静か

――歌=低二連(〆)


 “静けさ”は無音ではない。拍が厚い音だ。厚い音は剣に眠気を誘う。


 ◇


 総括の原稿を整える。

 〈総括・本文(抜粋)〉

 ――『本紙の観測期間において、大鈴の眠りは連続し、剣の欠伸は“中+小”の交互にて記録された。戻し道具の正順が浸透し、息は数を減じ、旗は影の帯に収まり、胸線は空気で描かれ、凡例は薄金点で統一された。白布は蓋として働き、香りは図で抜けた。……退屈は、制度の拍である』

 ――『推奨:正順の地図を王門に常設し、薄い版権の配分比を年一で見直す。凡例の“丸比較”を禁ず。数字窓は必ず一つ。……“剣の欠伸・日次”は巻末に残す』

 ――『注意:自慢の形容詞は胃を荒らす。詩で短く、図で太く。』


 ローレンスが棒尺を顎に当て、「“制度の拍”という言い方、舞台でも通じる」と満足げだ。舞台と言葉が通う日は、街がよく眠る。


 ◇


 “声欄”に一通、欄外からの紙。裏花、しかし角は切頂済み。

 ――“踊る足、舞台で踊った。王門は歩いた。……眠かった”(欄外・匿名)

 私は笑いを一打だけ紙の上に落とし、〈欄外→声欄・採録〉と記す。踊る場所が合えば、争いは仕事になる。


 ◇


 夕刻前、“杖欄・夕報(総括号)”が刷り上がって戻る。

 〈王門の静けさ/剣の欠伸・総括〉

 ――大鈴休眠=27/27(小字)

――戻し息=4.8→2.3(正順浸透)

――主因推移:旗→胸線→凡例→香り→列

――有効道具:空気描画/砂灰/中鈴/白低二連

――凡例:薄金点・裏面凡例・角丸

――版権:薄い配分(研40・刷30・導20・布10)

――“胃にやさしい比”遵守=94%

――詩条:“静けさは目に見えぬ旗/退屈は剣の子守歌”


 巻末、“剣の欠伸・日次(総括付)”。

 〈時:朝・昼・夕 回:小+中(平均)〉

――理由:小乱の先回り→正順地図

――備考:大鈴、今月無欠番


 王太子が柱の下で紙を受け取り、短く言う。「――これで『薄い王冠』に入れる。……王冠は重くなく、薄い方が長持ちする」

 「明日、憲法を薄く――“退屈の条”として。〈扇→膝→鈴→白→金〉を詩条で編みます」

 「条文は短く。数字は隅に。……そして『大鈴の置き場は布の上』を、一行だけ入れてくれ」


 セドリックが肩で息をひとつ。「護衛対象。今日の“欠伸”、上等。……明日は“薄い王冠”。背中と鐘の間、変えない」

 「変えないのが礼法。――最後まで」


 聖女リリアが白の箱を撫で、「憲法の最後にも“白の歌”を」と言った。最後の白は、長い静けさの蓋だ。


 ルカは帽子を浅くし、猫の家計簿を閉じる。「王冠は薄い方が資本効率がいい。……数字は胃薬に、詩は睡眠薬に」

 古株が活字を指で撫で、「明日の見出しは短く」と繰り返す。短い見出しは、国の背骨を疲れさせない。


 ◇


 片付け前、黒板の隅に四行を置く。

 ――退屈は、見えぬ旗で街を包む織物

 ――退屈は、息の数で争いを鈍らせる算術

――退屈は、白で蓋をし香りを抜く台所

――退屈は、欠伸を記録して王冠を薄くする製図


 王門の高みはまっすぐに呼吸し、凡例の丸と棒と波は等間隔で並ぶ。砂灰は膝を守り、胸線の空気描画は見えない線で肩を下ろす。白布は紐で束ねられ、町結びはほどけにくく、ほどきやすい。大鈴は今日も眠ったまま、布の上で横向きに。

 “剣の欠伸・総括”は棚で冷え、明日の“薄い王冠/退屈の憲法(完)”のために、紙の余白を残している。


 ――ざまぁは、大団円で敵を高く吊るして喝采する見世物ではない。敵という“尖り”を台に切り替え、正順の地図を王門に貼り、白で蓋をし、数字を隅に置き、剣の欠伸を巻末に静かに積む作法だ。作法が憲法に薄く刻まれれば、旗は低く、扇は胸下、笑いは一打で足り、国は長く眠れる。


 遠見塔の小鈴が夜に一度だけ、乾いて低く。紙は棚で冷え、明日の王冠はまだ薄紙の中で静かに呼吸している。

 ――第40話「薄い王冠/退屈の憲法(完)」へ続く。

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