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(第38話)白布の配当/胃にやさしい祝祭

 朝。旧穀倉の戸は軽く鳴り、白布の束が夜露を吸ってぬるい牛乳みたいな手触りになっていた。黒板の上段には〈当て絵・上級〉の成績表が眠り、私はその下に今日の四角を立てる。


 〈白布の配当(本日)〉

 ――目的:角を拭き、胃を休ませ、拍を厚くする。

 ――配分:休息所×3/王門の看視台×1/広場南“市”×1/研究室×1。

――仕様:柔らか・短繊維・水を含んでも匂わず。

――儀礼:白は数字を一つ書いて渡す(枚数または息)。

――禁止:旗飾り・肩上ひらひら・“白の自慢”。


 ――柔らかい布は喧嘩の硬さを半分にする

 ――半分になれば胃は黙る


 “杖欄”の朝見出しは歩幅を揃える。

 〈9月某日 白布の配当開始/“胃にやさしい祝祭” 準備〉

 植字工の古株は“胃”の一字を指腹で撫で、「この字は働きづめだ。今日は休ませよう」とインクを薄めた。薄い胃は街にやさしい。


 セドリックが外縁を扇形に一巡し、盾の縁で朝の光をひとかけ切る。「護衛対象。“薄い危険”――低。『祝祭で跳ねたい』の小声あり。……刃ではなく膝の弾み」


 「膝は砂灰で止まります」

 ローレンスは扇を腰で眠らせ、棒尺を肩に。「舞台の祭でも“拍が軽くなる”のが一番の怪我の元。今日は白を先に置く」


 ◇


 “声欄”の朝一番。

 ――“白布、家でも借りられる?”(北区・母)

 【改め】〈可。小袋一。数字=一〉

 ――“祝祭で歌ってもいい?”(南区・子)

 【改め歌】

 ――白は長く歌わない

 ――低い二で息を合わせ

――笑い一打で次へ渡す

 ――“胃にやさしいってどういう祝祭?”(市場・若手)

 【改め】〈自慢を薄く・数字を小さく・列を太く。油は控えめ、塩は凡例〉


 私は柱下に小さな詩。

 ――祝祭は皿でなく拍

――拍は布でやわらぐ

――やわらいだ拍で数字は小さく

――小さい数字が胃を治す


 ◇


 配当開始。白は休息所へ、折り目を町結びで寄せ、布には小さく〈息=三〉など数字を入れて渡す。王門の看視台には“角拭き布・補給箱”、広場南“市”では台紙の角に触れる前に一拭きの儀。研究室には“濡れ試験”用の洗面桶。


 配分板(朝)

 ――白布出:休所24/王門12/市16/研究8/貸出12

 ――返:昨日分=良(匂い無)

 ――薄片振:白+小(布)/研+小(洗い替え)/灰=砂灰袋補充


 ルカ――黒帽の投資家――が帽子を浅くし、紙片を一枚台に置く。

 〈“胃にやさしい祝祭”、青で屋台整備費。数字=銀二十。条件=『塩は凡例・油は薄く』〉

 「胃が荒れると市場は短命。布は寿命の延長装置だ」

 「装置は鈍いほど利回りがいい」

 猫の助言は今日も短い。短い助言は、布目みたいに均一だ。


 ◇


 午前、研究室で“布の耐性”。

 ――雨:吸っても匂わず。

――風:角が踊らないよう、端を丸く縫う。

――影:帯の中で色が沈む(よい)。

――雑音:鍋×3でも手ざわりの合図が伝わる(よい)。

 〈補遺〉白布の“戻し道具”としての地位――「白は最後。静けさの蓋」。

 ――蓋は香りで閉めず 手触りで閉める


 “声欄”に質問。

 ――“白を先に出すと楽になる?”(灰・娘)

 【改め】〈先に出すのは扇と膝。白は最後で効く〉

 ――“胃にやさしい屋台の目安?”(市場・女)

 【改め絵】〈凡例:塩=棒一本/油=波一/水=丸一〉


 ◇


 祝祭へ向けて王門の掲示を整える。

 〈胃にやさしい祝祭・凡例〉

 ――丸=水所/棒=塩加減/波=笑い一打

 ――胸線=ここ/膝石=ここ

 ――“自慢=薄皮袋へ転送”

 ――“丸比較=禁止”

 ――“踊る足→舞台へ”


 王太子が柱の下。外套は地面の高さ。

 「――『胃にやさしい祝祭』、王門は“数字一つ”で並べよう。……列は太く、声は耳の高さだ」

 「白の歌は短く低く。――最後に置きます」


 セドリックが耳で城側のざわめきを拾う。「護衛対象。“踊る足”の小声、今日は『香辛料』に向いている。刃ではない」

 「香りは白で落とせます」


 ◇


 正午前、試しの“屋台行列”。

 ――塩の棒、一本見せ。

 ――油の波、ひとつだけ。

――水の丸、ひとつ置き。

――胸線の空気描画、三息。

 列は太いが速くない。速くない列は胃にやさしい。

 小乱が二つ。

 ①油を二波にして香りを誇る者。

 ②丸(空)を二つ並べて“うちの水は多い”と自慢する者。

 順番を決める(①→②)。

 ――①へ:金=凡例掲示/青=波一へ修正/笑い一打(戻し=一息半)。

 ――②へ:金=丸は報告、序列に使わない/数字窓一つ(戻し=一息)。

 合計=2.5息。記録票に“胃の安静”の丸が一つ。


 “杖欄・昼報”。

 〈白布の配当・午前/屋台行列の試し〉

 ――配当=白72(返良)

――小乱=2.5息(油二波/丸二)

――凡例:塩棒一・油波一・水丸一

――詩条:“蓋は手触りで閉める”


 聖女リリアが白の歌を低く二連。「――最後に置く白は、胃のふちを撫でる」と微笑む。白の歌が蓋だ。


 ◇


 午後。“祝祭・本番”。広場に小さな屋根、列は太い。余白係が手を上げ、胸線の空気描画が三息で通る。

 青は“自慢兆候→薄皮袋”をまわし、灰は砂灰で膝の縁を太らせ、金は数字窓を一つに揃え、白は角拭き布の箱を補充する。


 “踊る足”が一人、香辛料の匂いと一緒に肩上へ扇を上げかける。

 ――小鈴、二打。

 ――胸線・空気描画(扇→胸下)。

 ――笑い一打(匂いの抜け道)。

 戻し=一息。

 「護衛対象。刃は出ず、香りだけ抜けた」とセドリック。匂いは図で抜ける。


 “声欄”に返歌。

 ――“塩の棒、一本で落ち着く”(老人)

――【採録】〈棒の太さ・胃の図〉

 ――“白布、子が顔をうずめて笑った”(母)

――【採録】〈白布の折り図・息三〉

 ――“丸比較、やめたら静か”(屋台)

――【採録】〈数字窓一〉


 ◇


 祝祭の中央で、短い儀。

 私は柱下に小さな木台を出し、紙片“薄い祝辞――胃版”を集める。

 ――〈水、二桶。塩、棒一。油、波一〉

 ――〈白布、三十。返却明日。〉

 ――〈笑い、一打。以上〉

 読み上げは耳の高さ。拍は厚い。祝辞は短いほど長持ちする。


 ローレンスが扇を開かずに胸で一度だけ振り、余白係が合図。白の歌、低二連。蓋が静かに閉まる音。


 ◇


 午後半ば、連鎖小乱。

 ①“数字窓”を二つに増やす屋台。

 ②“白布”を肩に巻く客。

 ③“丸”の大きさを誇張する張り紙。

 順番(②→①→③)。

 ――②へ:白の係、布をほどき“顔→手→台”の順に。笑い一打。戻し=一息。

――①へ:金、窓を一つに。数字を小に。戻し=一息半。

――③へ:青、正規凡例に貼替。薄金点。戻し=一息。

 合計=3.5息。記録票“祝祭・胃”の欄に丸。


 ルカが浅い帽子で通り、「油は波一、塩は棒一、水は丸一――胃にやさしい配当は、翌日の財布にもやさしい」と呟き、猫の家計簿を閉じた。


 ◇


 夕刻。“杖欄・夕報(祝祭号)”。

 〈白布の配当/胃にやさしい祝祭〉

 ――配当=白128(返良)

――屋台凡例=塩棒一・油波一・水丸一

――小乱=2.5息(昼)+3.5息(午後)

――処置=胸線・空気描画/数字窓一/薄皮袋転送

――詩条:“祝祭は皿でなく拍”

――配分:白布やわらか費(+小)/砂灰袋(+小)/青刷(+小)/研洗(+小)


 巻末、“剣の欠伸・日次”。

 〈時:夕 回:一(中)〉

 ――理由:香りの乱れ→胸線で収束

――備考:大鈴、未使用/“丸比較”沈静


 王太子が柱の下で短く言う。「――“胃にやさしい祝祭”、王門の背骨を揺らさなかった。……よく眠れる夜だ」

 「白が蓋をしたからです。――匂いは図で抜け、声は耳の高さで止まった」


 聖女リリアが白の箱を撫で、「布は明朝に干して返す」と約束した。返却が約束される街は、胃が軽い。


 セドリックが肩で息を一つ。「護衛対象。『跳ねたい』の小声、今は『腹があたたかい』に変わった」

 「腹が温まると、足は地を選ぶ」


 ◇


 片付け前、黒板の隅に四行を置く。

 ――退屈は、布で蓋をし匂いを抜く料理

――退屈は、塩の棒と油の波を凡例に収める台所

――退屈は、祝辞を短くして拍を太くする作法

――退屈は、欠伸を“満腹の鐘”として鳴らす祝祭


 白布は紐で縛られ、町結びで積まれる。凡例の棒と丸と波は小さく光り、台紙の角は丸い。研究室の桶は軽く濁り、しかし匂わない。王門の掲示は等間隔で呼吸する。

 大鈴は今日も眠ったまま、布の上で横向きに。


 ――ざまぁは、派手な祭を叩いて鎮める制裁ではない。塩と油と水を凡例で整え、白で蓋をし、笑いを一打にして、胃と剣を同時に眠らせる仕組みだ。仕組みが街に根を張れば、旗は低く、扇は胸下、笑いは一打で足りる。


 遠見塔の小鈴が夜に一度だけ、乾いて低く。紙は棚で冷え、白布は明朝の風を待つ。

 ――第39話「王門の静けさ/剣の欠伸・総括」へ続く。

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