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(第37話)当て絵・上級/順番という正義

 朝。旧穀倉の戸が乾いた音で開く。黒板の上段には昨夜の四行が静かに横たわり、私はその下に今日の四角を立てた。


 〈当て絵・上級(本日開講)〉

 ――題材:連鎖乱れ/逆順修復/“息”の配分。

 ――道具:切頂台紙/胸線・空気描画/膝砂灰/中鈴・小鈴/白の低二連。

 ――評価:戻しの“順番”が正しいか(時間は二の次)。

 ――注意:競争禁止。“順番図”のみ掲示。

 ――付録:〈順番という正義〉小冊子(詩+簡約)。


 ――速さは嘘をつく

 ――順番は嘘を嫌う


 “杖欄”の朝見出しは歩幅を揃える。

 〈9月某日 当て絵・上級 本日 “順番という正義”〉

 植字工の古株が“順番”の二字を指腹で撫で、「列が読める字だ」と言った。列が読める字は、旗より重い。


 セドリックが外縁を扇形に一巡し、盾の縁で朝の光を薄く切る。「護衛対象。“薄い危険”――微。『順番より速さ』を唱える小声が少し。……刃物にはならないが、紐をほつれさせる」


 「紐は“町結び”で増し締めします」

 ローレンスは扇を腰で眠らせ、棒尺を肩に。「楽屋の子たちに“逆順の怖さ”を一度だけ見せてから、正しい順に戻す。――拍の勉強は反転が効く」


 ◇


 “声欄”の朝一番は三枚。

 ――“上級でも子は参加できる?”(南区・母)

 【改め】〈できる。“指三本”で息を示せる子は上級〉

 ――“順番が違っても速ければ勝ち?”(市場・若手)

 【改め歌】

 ――速さは風で転ぶもの

 ――順番は石で立つもの

 ――石の順番で橋を渡れ

 ――“剣の欠伸、記録は退屈?”(北区・子)

 【改め】〈退屈は街の子守歌。欠伸は“満腹の鐘”〉


 私は柱下に短い詩を置く。

 ――正義は列で来る

 ――列は順番で立つ

――順番は図で見える

――図は退屈で長持ちする


 ◇


 午前、旧穀倉の床に白線を引いて“上級会場”を作る。壁には〈当て絵・上級〉の題目が並ぶ。


 〈上級・題目〉

 ①“旗比逸脱+胸線肩上+濡れ膝”――四息で戻せ。

 ②“笑い二打乱発+当て絵の誤配+列の膨張”――五息で整えよ。

 ③“凡例シールの序列化(丸数比較)+数字窓の重複”――三息で止めよ。

 ④“欄外・予告の遅延”――予告を段取りへ吸収せよ(息は自由、順番優先)。


 評価は“時の短さ”ではなく、“順番の適正”。王太子の印を借りた小札に、〈順番=地図〉と太字で書いて貼った。


 ――間違い順は派手に速い

――正しい順は鈍く早い


 ローレンスがまず“悪い手本”を演じる。

 ――“笑い二打乱発”に対して、彼は中鈴を先に打ち、胸線が後手に回る。場が一瞬、ふくらむ。

 私は板に×印――順番が逆。

 次に“良い手本”。

 ――胸線・空気描画→中鈴→白低二連。場が収まる。

 会場の空気が吸って吐いて、三息で落ち着く。

 セドリックが小さく頷く。「護衛対象。順番が剣を鈍らせる」


 ◇


 王太子が柱の下に来た。外套は地面の高さ。

 「――“順番という正義”、王門にも掲げよう。“式の決定”と同じ高さで」

 「王門は簡約。――〈順番は地図。地図は鈍器〉」

 彼は短く笑い、「詩は鈍器になる」と言った。詩は叩かない。重みで止める。


 ◇


 当て絵・上級、開講。

 最初の挑戦者は、工匠街の若手と楽屋の子の混成。題目①。

 若手が口に出す。「――順番を先に決める。扇→膝→鈴→歌」

 合図。

 ――胸線・空気描画(一息)

 ――膝砂灰(+一息)

 ――中鈴一打(+一息)

 ――白の低二連(+半息)

 合計=三息半。掲示の目標“四息以内”を下回る。だが評価は時間ではない。順番が正しいので◎。

 古株が「石が先、音が後」と指で示し、子どもたちが真似をする。真似は学習の鈍器だ。


 次の題目②。

 ――若手が焦って中鈴を先に鳴らしかける。

 余白係が指で“胸→鈴→列”の順番を描く。

 ――胸線・空気描画(一息)

 ――中鈴一打(+一息)

 ――導線矢印を一歩後ろへ/笑い一打で“競争→当て絵”へ転送(+二息)

 合計=四息。順番◎。

 “速さ信仰”が一歩引く。引いた分だけ、街が太る。


 ◇


 昼の鐘。一度。“杖欄・昼報”。

 〈当て絵・上級 午前〉

 ――題①=3.5息(扇→膝→鈴→歌)

 ――題②=4息(扇→鈴→列)

 ――評価=時間より順番/“競争”の転送成功

 ――詩条:“速さは風 順番は石”


 配布列の端で、聖女リリアが白の歌を低く二連し、「“短い白”は順番の最後に置くと効く」と呟く。最後の白は、場の呼吸の蓋だ。


 ルカ――黒帽の投資家――が帽子を浅くし、紙片を台に置く。

 〈“順番図”の小冊子、青で前金。数字=銀十五。返済=薄片〉

 「市場は“順番”の本に金を出す。速さの自慢より回収が早い」

 「自慢は青。――数字は隅に」

 猫の助言は相変わらず短い。短さは順番の一要件だ。


 ◇


 午後、題目③と④。

 ③“凡例シールの序列化+数字窓の重複”。

 ――金:太字で〈丸は報告、序列に使わない〉再掲(先手)。

――青:数字窓を一つに統合。

――余白係:笑い一打で“並べ替え”を解く。

――小鈴、二打で合意。

 戻し=二息半。順番◎。

 “序列の芽”は、笑いで土を崩し、金で杭を抜く。


 ④“欄外・予告の遅延”。

 ――監査:影の投函口を先に開ける。

――研究室:切頂台紙の束、即時搬入。

――青:交換窓口を“影側”へ臨時移設。

――灰:導線を影に沿わせて細く引く。

――白:角拭き布を配る。

 戻し=五息。ただし順番◎。“欄外から欄内へ”の道が一本、見えるように太った。

 ローレンスが扇の骨を鳴らし、「影の道は、先に引くと争いが来なくなる」と評す。先回りの順番は、予告の翻訳だ。




 その時、王門で小乱が重なる。

 A:“胸線”を腰に貼って笑いを取ろうとする者。

 B:“丸の数”を比較する紙を掲げる者。

 C:“切頂台紙”の角に金縁を足そうとする者。

 余白係が指三本で順番を示す(A→B→C)。

 ――Aへ:空気描画→胸下へ誘導→笑い一打(戻し=一息)。

 ――Bへ:金の太字掲示→数字窓一つへ誘導(戻し=一息半)。

――Cへ:角丸の実演→裏紙化→正規交換(戻し=二息)。

 合計=4.5息。記録票に“順番指示・成功”の丸が一つ付く。丸は報告であって、勲章ではない。


 “声欄”に返歌。

 ――“順番の手、分かりやすかった”(王門・係)

 ――【採録】〈手信号・上級版(扇→金→青→灰→白)〉

 ――“数字窓、ひとつで腹が静か”(市場・女)

 ――【採録】〈胃にやさしい数字〉


 ◇


 研究室では“逆順の危険”を図にする。

 〈逆順図〉

 ――鈴→扇→膝(×):拍が跳ね、列が膨らむ。

――金→青→灰(×):掲示が先走り、現場が追い付かない。

――白→鈴→扇(×):息が合わず、笑いが乱れる。

 【補遺】“正順”の地図を配る。

 ――扇→膝→鈴→白→金(王門)

――扇→鈴→列→金→白(市場)

――監査→研→青→灰→白(欄外)

 ――順番は場所で変わる

 ――場所は凡例で示せ


 古株が「“逆順図”の見出しは小さく」と言い、悪い見本を太字にしないよう戒める。悪い見本は小さく、良い順番は図で大きく。


 ◇


 夕刻前、“杖欄・夕報(上級号)”。

 〈当て絵・上級――順番という正義〉

 ――題①=3.5息/題②=4息/題③=2.5息/題④=5息

 ――王門小乱=4.5息(A→B→Cの順)

 ――手信号・上級版/逆順図(小)/正順地図(大)

 ――詩条:“速さは風 順番は石”

 ――配分:青小冊子前金→刷/研への薄片増額(+小)/白布やわらか費(+小)


 巻末、“剣の欠伸・日次”。

 〈時:午後 回:一(中)〉

――理由:逆順の芽→正順へ即時矯正

――備考:大鈴、未使用/王門“丸比較”沈静


 王太子が柱の下で頷く。「――順番の教育は“王門の背骨”になる。……『薄い王冠』の章立てに、順番の条を入れよう」

 「完結の前に“退屈の憲法”を薄く――〈扇→膝→鈴→白→金〉。……詩条で入れます」

 彼は短く笑い、胸の高さで指を三本──当て絵の“合格”の合図を出した。


 セドリックが肩で息を吐く。「護衛対象。“速さ信仰”の小声、減。……今日は“薄い誇り”の音が多い」

 ローレンスが扇の骨を一度だけ鳴らし、「舞台でも“順番は地図”を貼る。役者は地図が好きだ」と言った。役者の“好き”は街に伝染する。


 ルカは帽子を浅くし、「順番の本は売れるが、版権は薄く。数字は胃薬だ」と猫の家計簿を閉じる。

 聖女リリアは白の歌を短く低く、「最後の白が効いた」と微笑む。最後に置くべきものは、いつも静けさだ。


 ◇


 片付け前、黒板の隅に四行を置く。

 ――退屈は、速さを疑い順番を愛する学科

 ――退屈は、悪い見本を小さく良い順番を大きく

――退屈は、場所ごとの正順を凡例に写す製図

――退屈は、欠伸を“満腹の鐘”として鳴らす礼法


 当て絵・上級の紙束は棚で冷え、正順地図は王門で薄金点の呼吸を受ける。切頂台紙の市は屋根の下で鈍く続き、角拭き布は手ざわりを増す。大鈴は今日も眠ったまま、布の上で横向きに。


 ――ざまぁは、速さで他人を追い越し勝ち誇る競争ではない。順番で場を支え、悪い見本を小さく扱い、良い順番を図にして共有し、剣の欠伸を巻末で一回だけ記録する仕事だ。順番という正義が街に根を張れば、旗は低く、扇は胸下、笑いは一打で足りる。


 遠見塔の小鈴が夜に一度だけ、乾いて低く。紙は棚で冷え、正順の図は明日の余白を待つ。

 ――第38話「白布の配当/胃にやさしい祝祭」へ続く。

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