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(第35話)再訪する三角/欄外からの手紙

 朝。王門の簡約図は夜露を飲み干し、薄金点が小さな灯のように呼吸していた。旧穀倉の黒板には〈凡例シール/薄い版権〉の収支が細く残り、私はその下に今日の四角を立てる。


 〈欄外・直送箱(試案)〉

 ――名称:影の投函口(柱下・足元)。

 ――開口:指二本×五(子の紙が入る)。

――運用:朝と夕の二回、監査(灰耳)立会いで開封。

――分類:①声欄へ転送 ②研究室へ ③監査へ直送(薄い禁止)

――印:裏花(欄外)/薄金点(正規)を判別。

――詩条:〈欄外は影で歩く〉を刻む。


 ――陰の言葉は影で受けよ

 ――影で受ければ形が出る


 セドリックが外縁を扇形に一巡し、戻って盾の縁で朝の光を薄く切る。「護衛対象。“薄い危険”――あり。……影の投函口に“裏花”多し。三角の匂いが少し」


 「開けましょう。影で」

 ローレンスは扇を腰で眠らせ、棒尺を肩に。旧穀倉から“封割り台”を運び、印影を写す布を広げた。舞台で言う“仕込み”だ。


 “杖欄”の朝見出しは歩く。

 〈9月某日 柱下に“影の投函口” 欄外→監査・研究・声欄〉

 植字工の古株が“影”の活字を撫で、「影は嘘を嫌う」と呟き、インクをいつもより半滴薄めた。薄い影は、紙でよく歩く。


 ◇


 初開封――小さな紙が三十ほど。ほとんどが匿名、いくつかは“裏花”の印、そして二枚に“切先の鋭い三角”。

 私は分類を声に出して進める。

 ――①声欄へ転送:〈休息所の布、柔らかい〉〈凡例シール、戸に貼った〉など。

 ――②研究室へ:〈胸線シール、背の低い人には高い〉〈砂灰が湿で固まる〉。

 ――③監査へ直送:〈三角の版木、南市はずれで再彫〉〈“凡例・三角版”の噂〉。


 最後に残ったのが“欄外からの手紙”――“三角”の印。二枚。紙は薄く硬い。


 〈一通目〉

 ――“凡例の丸に『尖り』を足して売る。名は『凡例Δ』。薄い版権の“薄”は軽いと見た”

 〈二通目〉

 ――“式は終わった。だから踊る。胸線の上で。旗は空を全部くれ。――踊る足より”


 小鈴、二打。

 「――分類:一通目=版権誤用の予告。二通目=実演予告。どちらも欄外→監査直送。ただし“研究室・鈍角化”に複写」

 セドリックが頷く。「護衛対象。三角、再訪。……だが手紙は“予告”だ。予告は鈍器で折れる」


 ◇


 研究室の黒板に新しい枠。


 〈三角の“鈍角化”プログラム(草案)〉

 ――I. 予告の図案化:三角の尖り→“切頂”で台形化(踊らせない)。

――II. 凡例Δへの対処:正規凡例の“空白領域”に“尖り禁止”の薄印。

――III. 胸線防衛:胸下矢印を“二重”に/扇紐・町結びを配布。

――IV. 高旗対策:影帯+“空の比”早見/膝石・砂灰を増し。

――V. 鈴の運用:停止(大)は布上に置き、採択(小)で“予告”を示す。

――VI. 教材:当て絵・中級“Δを丸めろ”。


 ――尖りは切って台にせよ

――台は図で重くせよ


 “声欄”にさっそく投函。

 ――“『凡例Δ』ってカッコいい?”(南区・子)

 【改め絵】〈鋭い先→切頂→安全台。台の上に丸・棒・波〉

 【改め歌】

 ――尖りは早く疲れるよ

――台なら長く働ける

――働く台で笑い一打


 古株が“切頂”の版木を彫り、「角は削ると歌になる」と笑う。角は音を出すが、削ると拍になる。




 王太子が柱の下。外套は地面の高さ。

 「――“欄外からの手紙”。……監査に直送、研究室に複写。“鈍角化”、本則に添えたい」

「【本則追補:欄外の尖りは、影で鈍らせ、図で台に】」

 法規課の若造が短く拍手。「詩条、今日も強い」


 ◇


 午前の終わり、“予告”が試される。市場の端に“凡例Δ”と手書きされた小札。丸に小さな尖り。

 順番を決める。

 ――監査:薄い禁止。〈凡例の名で“尖り”を売らない〉。

 ――金:正規の凡例シールとの違いを掲示(薄金点・裏面凡例)。

 ――青:交換窓口。旧札→裏紙→当て絵の台紙。

 ――灰:導線を挿し、列を“箸角”で整える。

 ――余白係:笑い一打、“尖り→台”の実演。

 戻し=二息。

 記録票:〈版権誤用・Δ→台/収束=二息〉。

 ――尖りを誇るより 交換を誇れ


 ルカ――黒帽の投資家――が帽子を浅くして言う。「“Δ”は商品にならない。……が、“切頂台紙”は売れる。青で刷り、金で収支、灰で配列、白で角を拭け」


 「角を拭く白。――良い」

 聖女リリアが白の布で“台紙”の角を一拭きし、低く二連。角が柔らかくなる音がした。


 ◇


 昼の鐘。一度。“杖欄・昼報”。

 〈影の投函口、初開封/欄外からの手紙=三角二〉

 ――分類:声→研究→監査

――対処:“鈍角化”プログラム/切頂台紙

――事件:市場“凡例Δ”→交換・裏紙化・笑い一打

――詩条:“欄外の尖りは影で鈍らせ、図で台に”


 配布列の端で、子どもが当て絵・中級“Δを丸めろ”に群がる。

 〈この尖り、どこを切る?〉

 ――A:先端(正解)/B:根(不正解)/C:辺(半分正解)

 正解すると、切頂台紙の小片が一枚。小片五で薄皮袋一つ。誇りは薄皮で配る。


 ◇


 午後、二通目の“踊る足”が来る。王門前、胸線の上で扇を肩上に、旗は空の半分を舐めようとする。

 私は大鈴に触れかけて――やめ、段取りを流す。

 ――余白係:手を高く→胸下に降ろさせる合図。

 ――ローレンス:棒尺で胸線を空気に描く。

――金:空の比“1:3”早見図を王門に重ねる。

――灰:膝石・砂灰。

――青:笑い一打→“踊るは舞台へ”の矢印。

――白:低二連で呼吸を揃える。

 戻し=三息半。大鈴は眠ったまま。

 セドリックが横で小声。「護衛対象。踊る足、視線だけが尖っている。……視線は図で鈍る」


 “声欄”に返歌。

 ――“今日の胸線、空気に見えたのに、みんな降ろした”(王門・老)

 ――【採録】〈胸線・空気描画の図〉

――“旗の膝、砂灰が光ってた”(灰・女)

 ――【採録】〈膝の縁取り、湿旗との連動〉


 ◇


 研究室は“鈍角化”の臨時号を準備。


 〈鈍器白書・補遺「三角の鈍角化」〉

 ――切頂台紙の作り方/交換手順/裏紙活用。

――凡例Δの見分け方(薄金点の有無)。

――胸線・空気描画/扇紐・二重。

――旗の比・影帯早見/膝石・砂灰の増し。

――“誤用の速さ”――午前2息/午後3.5息。

――巻末:“剣の欠伸・日次(中+小)”。


 古株が「“三角”は小さく扱え」と言い、見出しをあえて短くした。

 〈三角、切頂して台〉――以上。冗長は尖りを養う。


 ◇


 午後半ば、“欄外からの手紙”もう一通。印は三角だが、字は幼い。

 ――“三角って、だめ?”(南区・子)

 私は柱下に小さな板。


 〈三角の正しい使い道〉

 ――山の地図の目印(斜面)。

――手置き台の“向き”。

――舞台の“間”の合図(人差し指・中指・薬指)。

 ――ただし“人の上に向けない”。

 【改め歌】

 ――三角は道と台の友

――人の胸には指を三

――指の三で拍を合わす


 ローレンスが扇の骨を鳴らし、「“三”は舞台の最小の約束」と笑う。三角は敵ではない。向きと場所が敵と味方を分ける。


 ◇


 夕刻。“杖欄・夕報(欄外号)”。

 〈影の投函口・初日/三角=予告→鈍角化〉

 ――裏花多/三角二

――市場“凡例Δ”→交換・裏紙・笑い一

――王門“踊る足”→胸線・空気描画/旗比・影帯/膝石

――誤用の速さ=午前2息/午後3.5息

――補遺:「三角、切頂して台」

――詩条:“欄外の尖りは影で鈍らせ、図で台に”


 巻末、“剣の欠伸・日次”。

 〈時:昼・夕 回:中+小〉

 ――理由:予告→段取り収束

――備考:大鈴、未使用


 王太子が柱の下で短く言う。「――“欄外郵便”、効いた。……尖りは通知で鈍る」

 「尖りの“予告”は、装置の礼儀です」

 彼は頷き、短い紙片を置く。〈“切頂台紙、王門にも”〉。王門の高い場所に、台の図。高いところほど台が要る。


 ルカは帽子を浅くし、「“凡例Δ”を食い止めたので、配分の“白”を少し増やしてくれ。角を拭く布は、利回りが良い」と猫の家計簿を見せて去った。


 セドリックが肩で息を一つ。「護衛対象。今日は“薄い危険”が“薄い誇り”に変わった」

 「欄外の薄い誇りは、欄内の厚い図へ」


 ◇


 片付け前、黒板の隅に四行を置く。

 ――退屈は、尖りを台に変える木工

――退屈は、予告を段取りに変える翻訳

――退屈は、欄外を影で受ける郵便

――退屈は、欠伸を巻末で量る理科


 影の投函口は小さく息をし、裏花の紙は裏紙として当て絵の台紙に生まれ変わる。切頂台紙は王門へ、胸線の空気描画は楽屋へ、膝石の砂灰は袋に余り、白の布は角を拭いて柔らかい。

 大鈴は今日も眠ったまま、布の上で横向きに。


 ――ざまぁは、尖りを探して叩く芸ではない。尖りに予告させ、影で受け、切頂して台にし、図と配分で鈍く通す制度だ。制度が鈍く通れば、旗は低く、扇は胸下、笑いは一打で足り、剣は眠気を数える。


 遠見塔の小鈴が夜に一度だけ、乾いて低く。紙は棚で冷え、影の投函口は小さな番を続ける。

 ――第36話「切頂台紙の市/胸線の空気描画」へ続く。

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