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(第34話)凡例シール/薄い版権の取り扱い

 朝。王門の簡約図は夜露を自分で掃って、丸(空)と棒(根拠)と波(笑)がくっきり浮いた。旧穀倉の黒板には、昨夜の四行がまだ温い。私はその下に、新しい四角を立てる。


 〈凡例シール・正規版(案)〉

 ――名称:〈凡例シール〉(丸・棒・波・胸線・膝石)。

 ――版元:金(保存)/刷り:青(絵巻工)/監査:灰耳。

――用途:掲示・教材・配布袋の印。

――禁則:序列化・占い・値踏み広告への使用。

――価格:銀“薄”(一)。利益配分=研究室(鈍器白書)40%/青の刷代30%/灰の導線整備20%/白の布10%。

――見本貼付:王門・広場・旧穀倉。


 ――絵の辞書は厚くせず

 ――薄く刷って長く使え


 セドリックが外縁を扇形に一巡し、盾の縁で朝の金をひとかけ切る。「護衛対象。“薄い危険”なし。……『薄い版権』に寄る視線、増。視線は軽い刃」


 「刃先は、凡例で丸めます」

 ローレンスは扇を腰で眠らせ、棒尺を肩に。「舞台の小道具にもシールを貼ろう。胸線と膝石。楽屋でケンカが減る」


 “杖欄”の朝見出しは歩幅を揃える。

 〈9月某日 凡例シール・正規版へ “薄い版権”運用開始〉

 植字工の古株は“版権”の活字を指で撫で、「この字は腹がふくれやすい。……だから薄く」と呟いた。太い版権は、すぐに旗になる。


 ◇


 最初の投函は、市場の若手から。紙は薄く、字は素直だ。

 ――“自作の凡例シール、もう刷っちゃった”

 【改め】〈正規版と交換。――“薄い版権”=罰金なし/旧版は図の裏紙として回収〉

 【改め歌】

 ――急いだ刷りは裏に回せ

 ――裏が白なら恥は薄い

――薄い恥で明日は歩く


 私は黒板に“薄い版権”の枠を足す。


 〈薄い版権(定義案)〉

 ――目的:図の統一/誤用の抑止。

 ――重さ:罰より軽く、規格より重い。

――徴し方:売上の“薄片うすべ”。罰金なし。

――再配分:研究・導線・布・刷代。

――“恥の運用”:違反=短く・図で訂正・裏紙活用。

――“欄外”違反:監査へ直送(薄い禁止+正規版ルート)。


 ――法は太く 版権は薄く

 ――薄さで人を殴らない


 ルカ――黒帽の投資家――が帽子を浅くして現れ、紙片を一枚だけ台に置いた。

 〈凡例シール初刷、青で前金。――銀二十〉

 「“薄い版権”は市場の胃にやさしい。太い版権は胃潰瘍だ。……配分は白書へ濡れ布の如く効く」


 「胃薬としての版権、採択」

 ローレンスが笑いを喉で畳み、棒尺で空に小さな丸を描く。丸は空欄の絵文字、今日は版権の判子になる。


 ◇


 午前、“凡例シール・正規版”の工房点検。絵巻工たちが小さな版木を並べ、丸・棒・波・胸線・膝石の五種を試し刷り。

 〈試刷・規格〉

 ――粘り:雨で滲まない(影帯試験)。

――剥離:白布に貼っても繊維を傷めない。

――視認:子の目線+指二本の高さで見える。

――誤用対策:裏面に“小さな凡例”印字(丸=空/棒=根拠/波=笑/胸線=ここ/膝石=ここ)。

――識別:右下に薄金の点(正規)。


 ――小さく貼って大きく効け

――大きく貼れば小さくなる


 “声欄”に三枚。

 ――“凡例シール、家の戸に貼っていい?”(北区・母)

 【改め】〈可。ただし“数字一つ”の窓を隣に〉

 ――“占い師が“凡例”で運勢を売ろうとしてる”(市場・女)

 【改め】〈占い=青。凡例の名で売らない。――“薄い禁止”〉

 ――“胸線シール、舞台の子に大ウケ”(楽屋)

 【採録】〈“胸線ここ”の図、楽屋版へ〉


 古株が“禁止”の活字を少し薄めて刷る。「濃い禁止は跳ねる。薄いと人が読める」。薄い禁止は、人の自尊心に当て布をする。


 ◇


 王太子が柱の下。外套は地面の高さ。

 「――“薄い版権”、本則に添える。“目的=統一と抑止、罰は軽く再配分は厚く”。……『凡例シールの“序列利用”を禁ず』は強めの太字で」


 「太字は“序列”だけに」

 私は金の欄に【本則追補・薄い版権】を短く載せた。

 〈“薄い版権は『恥の運用』の親戚。大声ではなく薄い分配で直す”〉

 法規課の若造が「詩みたいな条文だ」と笑い、古株が「詩の方が長持ちする」と頷く。長持ちしない言葉は、朝刊で死ぬ。


 ◇


 配布を始めると、さっそく“小乱”。

 ①市場角――若手が“凡例シール・レア版”を名乗って金縁を足す。

 ②王門――“丸の数”を競う張り合わせ。

 ③工匠街――“胸線シール”を肩上に貼る悪ふざけ。


 順番を決める。

 ――①へ:監査。“薄い禁止”。正規の薄金点を指で示し、金縁は“裏紙へ”。小鈴二打。戻し=一息半。

 ――②へ:金。“丸は報告、序列に使わない”を太字で再掲。数字一つの窓を増設。戻し=二息。

――③へ:青と舞台。胸線を胸下へ貼り直す実演。笑い一打。戻し=一息。

 合計=4.5息。記録票に“版権関連”の欄が増える。

 ――乱れの芽は光る布

――布は裏から縫い直せ


 “声欄”に返歌。

 ――“金縁、裏紙になった。次は正規を買う”(若手)

 ――【採録】〈裏紙の活用図(当て絵の台紙)〉

 ――“丸の競争、やめました”(王門・係)

 ――【採録】〈数字窓の“よい例”〉

 ――“胸線、笑って学べた”(舞台・子)

 ――【採録】〈胸線の凡例・楽屋版〉


 ルカが帽子を浅く叩く。「“レア”という言葉は胃酸だ。……『正規の薄金点』で中和しろ」

 「薄金点、中和剤。――胃薬としての版権、二度効く」

 彼は喉で笑い、猫の尻尾みたいに短い助言を置いた。「“再配分の比率”、年に一度見直せ」


 ◇


 昼の鐘。一度。“杖欄・昼報”が戻る。

 〈凡例シール・正規版開始/薄い版権・本則追補〉

 ――価格=銀薄/正規識別=薄金点

――配分=研40・刷30・導20・布10

――禁則=序列/占い商売/値踏み広告

 ――小乱=4.5息(レア金縁/丸競争/肩上貼)→収束

 ――裏紙活用/胸線・楽屋版

 ――詩条:“薄い分配で直す”


 配布列の端で、聖女リリアが白の章を撫でる。「休息所の戸にも“凡例”を貼って良い?」

 「白の歌の横に、胸線と膝石。――“水の置き方”の丸も」

 白の歌が凡例と並ぶ日、謝罪はさらに短くなる。凡例は謝罪の通訳だ。


 ◇


 午後は“薄い版権・会計”の準備。

〈鈍器白書・積立箱〉……凡例シールの薄片40%。

〈導線・砂灰袋〉……20%。

〈白布・やわらか費〉……10%。

〈青・刷代〉……30%(前金あり)。

〈監査・薄い禁止の紙〉……別枠(寄付)。

 会計の若い修道女が珠を弾き、数字を短く置く。数字が短い日は、街の心拍が整う。


 研究室では、凡例の“耐久”を追加試験。

 ――雨:滲みなし。

――風:角剥がれ→端を丸く改良。

――影:帯上で視認良。

――雑音:声の代わりに指差し効く。

――“踊る足”:悪用→肩上貼が再発→“胸下矢印”追加で抑止。

 〈補遺〉凡例シール“町結び”で紐と共用可。

 ――丸は角で痛まない

――角は丸にして返せ


 ◇


 午後半ば、また連鎖小乱。

 ①市のはずれで“占い凡例・今日の丸”と称してシールを配る者。

 ②王門に“棒”を二本貼って“根拠×2”を誇示する者。

 ③広場南で“胸線”を腰に貼って笑いを取りに行く者。


 順番。

 ――①へ:青。“凡例の名で占わない”。占いは青の別紙へ転送。小鈴二打。戻し=一息半。

 ――②へ:金。“棒は一本”。棒二→一本へ剥がし方の図を添付。戻し=二息。

――③へ:余白係。笑い一打。胸線を胸下へ。“笑い→学び”の矢印。戻し=一息。

 合計=4.5息。午前と同じ数字に、古株が「安定してる」と笑う。安定は退屈の勲章だ。


 “声欄”に短い紙。

 ――“棒、二本が誇らしかった。一本で足りるの?”(西門・男)

 【改め歌】

 ――棒が二本で風は増す

――一本残して旗を巻け

――巻いた旗こそ長持ちだ


 セドリックが耳で城側のざわめきを拾う。「護衛対象。王門、“凡例の序列使い”を試みた者、退散。薄い禁止が効いた。……剣は欠伸の準備」


 ◇


 夕刻前、“杖欄・夕報”。

 〈凡例シール・正規版/薄い版権・運用初日〉

 ――正規=薄金点/裏面凡例

――配分=研40・刷30・導20・布10

――連鎖小乱=4.5息×2(午前・午後)

――処置=薄い禁止→裏紙→正規交換/棒一本/胸下矢印

――研究室:角丸・胸下矢印・紐共用

 ――詩条:“薄い分配で直す”


 巻末、“剣の欠伸・日次”。

 〈時:夕刻 回:一(大)〉

 ――理由:版権・小乱、均一収束

――備考:王門の丸、競争なし


 王太子が柱の下で短く頷く。「――“薄い版権”、胃にやさしかったな」

 「重い罰より薄い配分。――人は薄い方がよく噛めます」

 ローレンスが扇の骨を一度だけ鳴らし、「楽屋の“胸線”、今日で肩上ゼロ」と報告する。舞台が街に謝意を返す日は、街がよく眠る。


 ルカは帽子を浅くし、「配分比率、来月に見直し。白の布が足りなければ、金から回す」と言い残して去った。猫は家計簿が上手い。


 ◇


 片付け前、黒板の隅に四行を置く。

 ――退屈は、図に薄い印をつける知恵

――退屈は、罰を配分へ置き換える秤

――退屈は、旗を巻き 棒を一本にする所作

――退屈は、欠伸を胃薬にする料理


 工房の灯が落ち、凡例シールの薄金点が薄明かりで呼吸する。正規の裏紙は当て絵の台紙へ、金縁の旧版は恥を薄くして裏に回る。白の布は柔らかく、導線の砂灰は袋に余り、研究室の白紙は一枚減って一枚増える。


 ――ざまぁは、誰かの自由を太い鎖で縛る芸ではない。図を薄く統一し、誤用を短く裏返し、罰を配分へ薄め、凡例の小さな丸で勢いを丸め、剣の欠伸を巻末で静かに育てる技だ。技が街へ定着すれば、旗は低く、扇は胸下、笑いは一打、競争は報告へ変わり、胃は痛まない。


 遠見塔の小鈴が夜に一度だけ、乾いて低く。紙は棚で冷え、凡例シールは束で眠る。

 ――第35話「再訪する三角/欄外からの手紙」へ続く。

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