第66話:英雄の帰還と『ハーレム』の真相(挿絵あり)
次回完結!
生成AIで画像を作ってみました。
この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。
ゼノンとの壮絶な決戦の果てに、俺の意識は深い闇へと沈んだ。魂を束ねるという無茶なプロデュースの反動は、想像以上に大きかったらしい。次に目を開けた時、俺の目に映ったのは、見慣れた第零工房の医務室の天井と、心配そうに俺の顔を覗き込む、三人の女神たちの姿だった。
「フィン君! 目が覚めたのね!」
最初に声を上げたのは、涙目のハンナだった。彼女が安堵のあまり俺の胸に抱きついてきたせいで、その豊満で柔らかい感触が、衰弱した俺の体にダイレクトに伝わってくる。いかん、これは怪我に障る。もっとやれ。
「こ、工房長…! ご無事で、本当によかったです…!」
セレスティーナも、眼鏡の奥の瞳を潤ませている。彼女が差し出してくれた薬湯からは、蜂蜜の甘い香りがした。蜂蜜に含まれるブドウ糖と果糖は、体内で分解する必要がなく、すぐにエネルギーとして吸収されるため、疲労回復にはうってつけだ。彼女の気遣いが、弱った体にじんわりと染み渡る。
『まったく、無茶ばっかりするんだから、この変態マスターは! 心配したんだからね!』
そして、脳内にはツンとしながらも、その声色に隠しきれない安堵を滲ませたアスカロンの声が響いた。三者三様の、しかし心の底からの心配。悪くない。実に悪くない目覚めだ。
「ああ、みんな、心配かけたな。最高のステージだったろ?」
俺が、いつもの調子で微笑んでみせると、三人は顔を見合わせ、少しだけ頬を赤らめて頷いた。どうやら、俺が決戦の最中に絶叫した「ハーレムを築きたかった」という、あまりにも俗っぽい魂の叫びは、彼女たちの純真なフィルターを通して、とてつもなく高尚な理想へと変換されているらしい。
「うん! フィン君の夢、私、応援する! みんなが笑顔で暮らせる、素敵な場所なんでしょ?」
「は、はい…! 私みたいな者でも、輝ける場所…! 私も、お手伝いします!」
『まあ、マスターがそこまで言うなら、この私が正妻として、ハーレムの秩序を守ってあげなくもないわ!』
ありがとう、みんな。君たちのその清らかな心のおかげで、俺の煩悩は今日も守られた。
だが、その頃、王宮では俺の「ハーレム宣言」が、全く別の、しかし同样に壮大な解釈をされていた。
「なんと! フィン男爵は、帝国との戦後処理を見据え、圧政に苦しむ旧帝国領の民を、我らが王国の慈愛の下に庇護し、新たな共存共栄の理想郷を築くと、そう宣言されたのか!」
「まさに聖人の思想! 彼こそ、次代の王国を担うにふさわしい!」
ルミナス公爵をはじめとする重鎮たちは、俺を宰相に担ぎ上げようと、本気で議論を始めていた。俺がただ、可愛い女の子に囲まれてぐうたらしたいだけだとは、夢にも思わずに。
そんな騒動の渦中、一人だけ、真実に肉薄し、そして苦悩する人物がいた。
「…失礼する」
医務室の扉が開き、氷のような美貌の騎士団長、ベアトリス・フォン・ルミナスが入ってきた。その顔には、深い疲労と、それ以上に深い葛藤の色が浮かんでいた。
「フィン・アッシュフォージ。貴様の最後の言葉、私も聞いた。貴様の言う『ハーレム』とは、やはり、この世の全ての女性を、自らの支配下に置くという、あの邪悪な計画の最終段階のことだったのだな」
彼女は、確信に満ちた声で、しかしどこか問いかけるような目で俺を見ていた。
俺は、もう彼女にあれこれ説明するのも面倒くさくなっていた。それに、意識が朦朧としていたとはいえ、あれが俺の本心の一部であったことも事実だ。
俺は、悪戯っぽく笑って見せた。
「さて、どうでしょうね、団長。まあ、強いて言うなら、俺の理想郷はこうだ。最高の女の子たちが、俺のプロデュースで、それぞれの個性を最大限に輝かせてステージに立つ。そして、俺はその最高の光景を、特等席で眺めながら、うまい飯を食って、ハンナの膝枕で昼寝する。そんな場所ですよ、俺の『ハーレレム』は」
俺の、あまりにも正直で、欲望に忠実な答え。
その言葉を聞いた瞬間、ベアトリスのスカイブルーの瞳が、大きく見開かれた。彼女の脳内で、俺の言葉が、彼女にしか理解できない、究極の統治論へと再構築されていく。
(最高の才能を持つ者たちが…彼の指揮の下で、最大限に能力を発揮し…彼は、高みにある特等席から、その調和の取れた光景を監督する…! なんてこと! これは、独裁でも、支配でもない! 神の視点に立った、究極の『調停者』としての在り方! 彼自身は何もせず、ただそこにいるだけで、世界が最も美しい形で回っていく…! これが、彼の言う『パーフェクト』の、本当の意味だったというの!?)
人間は、自分の理解の範疇を超えた存在に直面した時、それを悪魔として恐怖するか、あるいは神として崇めるかの二択を迫られることがある。ベアトリスの中で、俺という存在は、ついに「理解不能な魔人」から、「理解不能な神」へと、その評価をシフトさせようとしていた。
「…貴様という男は、やはり、私の物差しでは測れんらしい」
彼女は、それだけ呟くと、どこか吹っ切れたような、しかし魂が半分抜けたような顔で、ふらふらと医務室を後にした。
俺は、そんな彼女の背中を、きょとんと見送ることしかできなかった。
「なんだ、今の。まあ、いいか。それよりハンナ、膝、空いてるか?」
「も、もう! フィン君は、怪我人なんだから!」
ハンナは、顔を真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうに、俺のそばに腰を下ろした。




