第60話:決戦前夜と『P』の意味(挿絵あり)
67話の完結まであと少し!
生成AIで画像を作ってみました。
この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。
決戦を明日に控えた夜。グラーヴェ平原に設営された王国軍の巨大な野営地は、静かな、しかし熱を帯びた緊張感に包まれていた。俺が適当に語った『物販理論』と『アイドルフォーメーション』は、なぜか将軍たちの間で完璧な軍事戦略として解釈され、兵士たちの士気はこれ以上ないほどに高まっていた。
「…なんで、こうなったかなあ」
俺、フィン・アッシュフォージは、指揮官用の豪華な天幕を抜け出し、一人で小高い丘の上から星空を見上げていた。眼下に広がる無数の篝火が、まるで地上に降りた星々のようだ。こんな美しい光景が、明日には血と炎に染まるのかもしれない。そう思うと、プロデューサーとしての高揚感とは別に、一人の人間としての重圧が、ずしりと肩にのしかかってきた。
『マスター。何を思い詰めているの?』
腰のアスカロンが、心配そうに脳内に語りかけてくる。その声は、まるで澄んだ鈴の音のようだ。
「…アスカロンか。いや、ちょっとな。俺、元は鍛冶見習い、その後もただのプロデューサーのつもりだったんだが、いつの間にか、何万もの人間の命を預かることになっちまってさ。正直、ビビってるんだ」
初めて、俺は誰かに弱音を吐いた。
『マスターはマスターよ』
アスカロンは、静かに、しかし力強く言った。
『あなたが、力を失っていた私を見つけ、その魂に再び輝きを与えてくれた。それだけで十分。あなたの瞳が信じた道を、私も信じる。マスターがステージに立つというのなら、私はあなたの最高の剣になるだけよ』
その、あまりにも真っ直ぐで、純粋な信頼に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
「…ありがとな、アスカロン。お前がいるなら、百人力だ」
俺たちが、二人だけの静かな時間を過ごしていた、その時だった。
「…ここにいたか、フィン・アッシュフォージ」
背後から、凛とした声がした。振り返ると、月光を浴びて白銀の鎧を輝かせる、ベアトリス団長の姿があった。
「団長こそ、こんな夜更けにどうしたんです? 明日に備えて、お肌の手入れでもしてないと、化粧ノリが悪くなりますよ」
俺の軽口に、彼女は眉一つ動かさない。そのスカイブルーの瞳は、吸い込まれそうなほど真剣だった。
「単刀直入に聞く。貴様の掲げる『P』の紋章。その真の意味は、一体何なのだ」
彼女は、俺の胸元――そこに縫い付けられた男爵家の紋章を、まっすぐに見据えていた。
「パンデモニウム(地獄)か、パニッシュメント(懲罰)か、あるいは、父が言うようなプロテクター(守護)か。今宵、この決戦前夜に、貴様の真意を、私は知っておかねばならん」
ああ、またその話か。
俺は、面倒くさくなって、正直に答えた。
「だから、プロデューサー(Producer)のPだって、いつも言ってるじゃないですか」
「とぼけるな!」
ベアトリスは、声を荒らげた。
「貴様ほどの男が、そのような単純で、自己顕示欲に満ちた意味で、自らの旗印を選ぶはずがない! それは隠語だ! 私を欺くための! さあ、本当の意味を言え!」
彼女の剣幕は、本気だった。どうやら、この誤解を解かない限り、彼女は納得してくれないらしい。
俺は、やれやれと肩をすくめると、少しだけ意地悪な笑みを浮かべて言った。
「…しょうがないなあ。団長にだけ、特別に教えてあげますよ。俺の『P』は…そうだな、『パーフェクト(Perfect)』のPですよ。俺のプロデュースは、いつだって完璧ですからね」
その言葉を聞いた瞬間、ベアトリスの顔から、サッと血の気が引いた。
「パ…パーフェクト…ですって…?」
彼女は、わなわなと震え始めた。
(完璧…! やはり、彼の目的は、完全なる世界の構築! ゼノンの『統合』という歪んだ理想とは似て非なる、彼独自の、完璧なる『支配』! 全ての魂を、彼の理想通りに『プロデュース』し直すという、神をも恐れぬ傲慢な計画! なんてこと…私は、とんでもない男に、この国の未来を委ねてしまった…!)
彼女が壮大な解釈に打ち震えていると、そこへ、夜食の差し入れを持ったセバスチャンが、音もなく現れた。
「ベアトリス様、あまり工房長を困らせてはなりません。工房長の仰る『P』が、一つの意味しか持たないとお考えですかな?」
セバスチャンは、片眼鏡をキラリと光らせた。
「私に言わせれば、工房長の『P』は、常に前進し、進化し続けるという彼の哲学の現れ…『プログレス(Progress)』のPでもある。あるいは、この戦いを勝利に導く『Possibility(可能性)』のPかもしれませんな」
セバスチャンの完璧なフォローが、ベアトリスの混乱に、さらに油を注いでいく。
その頃、兵士たちのテントでは、ハンナがアルドにこう教えていた。
「フィン君のPはね、きっとポテトのPだよ! だってフィン君、ポテト料理を作る時、いつもすごく楽しそうだもん!」
「なるほどな! だから俺たちの戦闘糧食には、いつもポテトサラダが必ず入ってるのか! あれを食うと、力が湧いてくると思ったぜ!」
アルドは、深く納得していた。
様々な解釈が、夜の闇に交錯する。
そんなこととは露知らず、俺はただ、アスカロンの言葉で固まった覚悟を、胸に抱き直していた。
「よし、最高の夜明けを迎えに行こうぜ、相棒」
地平線の向こうが、わずかに白み始めた。
その闇のさらに向こうに、無数の魂なき兵団と、仮面の将軍ゼノンの、巨大な気配があった。




