第59話:全権代理指揮官の憂鬱と軍事会議(挿絵あり)
67話の完結まであと少し!
生成AIで画像を作ってみました。
この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。
「王国全軍の、全権代理指揮官、ねえ…」
王宮の作戦司令室。豪華絢爛な絨毯の上で、俺、フィン・アッシュフォージ男爵は、人生最大の胃痛に襲われそうになっていた。目の前には、ルミナス公爵を筆頭に、いかにも歴戦の猛者といった感じの将軍たちがずらりと並び、俺の一挙手一投足に注目している。彼らの期待に満ちた眼差しが、重い。重すぎる。
「工房長。これも、あなたの『プロデュース』の舞台が、工房という小さな箱から、王国という巨大な劇場へと広がっただけのことにございます。存分に、腕を振るわれませ」
背後に控えるセバスチャンが、悪魔の囁きのように甘い言葉で俺を丸め込む。くそっ、この完璧執事め。俺が「プロデュース」という言葉に弱いことを完全に理解していやがる。
「…まあ、確かに、これだけの巨大プロジェクト、プロデューサー冥利に尽きると言えなくもないが…」
俺がブツブツと呟くと、将軍の一人が「ほう!」と目を輝かせた。
「フィン工房長は、この大戦を『プロジェクト』と捉えておられるのか! なんという大局観! 我々が戦術レベルでしか物事を考えられぬ中、すでに戦略、いや、政略のレベルで勝利を見据えておられるとは!」
違う、そうじゃない。俺はただ、胃痛から逃れるために、いつもの思考回路に現実逃避しただけだ。
「えー、コホン。では、これより、対ゼノン最終決戦に向けた軍事会議を始める!」
ルミナス公爵の宣言で、地獄の会議が幕を開けた。
将軍たちが次々と、帝国の兵力配置や地形の分析を報告する。俺は、そのほとんどを右から左に聞き流しながら、どうやってこの場を切り抜けるかだけを考えていた。
「――以上を踏まえ、フィン工房長には、我々王国軍をどのように『プロデュース』されるおつもりか、お聞かせ願いたい!」
ついに、俺に話が振られてしまった。全員の視線が突き刺さる。もうだめだ。こうなったら、ヤケクソだ。
「…なるほど、状況は理解した。要するに、帝国の奴らっていうライバル事務所が、うちのシマでデカいフェスを開催しようとしてるって話だな」
俺の口から飛び出した、あまりにも場違いな第一声に、司令室は水を打ったように静まり返った。ベアトリスが「始まった…」とばかりに額に手を当てている。
「まず、基本中の基本からだ。兵站。これは、ライブにおける物販と同じだ!」
俺は、作戦盤に大きく『物販』と書きなぐった。
「ファン(兵士)が、欲しいグッズ(食料や矢)を欲しい時に手に入れられない。そんな運営じゃ、ファンの満足度(士気)はガタ落ちだ! 在庫管理と補給ルートの確保は何よりも優先しろ! 特に、最前線で戦うコアなファン(精鋭部隊)には、限定グッズ(特殊装備)を優先的に回すんだ! これで彼らの忠誠心はさらに高まる!」
将軍たちが、ゴクリと喉を鳴らす。
「な、なるほど…! 兵站を『物販』、兵士の士気を『ファンの満足度』と…。なんと分かりやすく、的確な比喩だ! 我々は、補給をただの作業としか見ていなかったが、兵士の心理にまで影響する重要な要素だと、今、気づかされた!」
いや、だから、ただの物販の話なんだって。
「次に、部隊の配置! これは、ステージ上のアイドルのフォーメーションそのものだ!」
俺は、作戦盤にめちゃくちゃな陣形図を描き始めた。
「騎馬隊は、ステージを縦横無尽に駆け回り、観客を煽る切り込み役のダンサーだ! 弓兵部隊は、後方から美しいハーモニー(援護射撃)を奏でるコーラス隊! そして、どっしりと構える重装歩兵部隊は、ライブの主軸となるメインボーカルだ! それぞれの役割を明確にし、最高のハーモニーを奏でるんだ!」
「おお…! 我が騎馬隊が…ダンサー…!」
「我ら弓兵が、コーラス隊…! 良い響きだ!」
将軍たちは、なぜか自分たちの部隊の新しい呼び名に、感銘を受けているようだった。その横で、ベアトリスが「彼は、王国軍の全ての兵士を、自らが演出する舞台の上の『駒』としか見ていないのね…! なんという傲慢、そして絶対的な自信…!」と戦慄している。
俺は、さらに熱弁を続けた。
「偵察部隊の仕事も重要だ。ライブ会場の周りで、違法グッズを売ったり、チケットを買い占めたりするダフ屋(敵の伏兵)がいないか、常に目を光らせておけ! セキュリティの甘いライブは、必ず失敗する!」
「ダフ屋…伏兵! セキュリティ…斥候! 了解いたしました!」
将軍たちの理解力が、あらぬ方向で高すぎる。
「だがな」
俺は、一呼吸置いて、皆の顔を見回した。
「どんなに素晴らしいステージセットを用意しても、どんなに完璧なフォーメーションを組んでも、一番大事なものが欠けていては意味がない」
俺は、腰に提げた聖剣アスカロンの柄を、愛おしそうに撫でた。
「センターで輝く、『絶対的エース』の存在だ。彼女のコンディションこそが、このライブの成否を分ける」
『ふふん、当然よマスター! この私がいれば、帝国の連中なんて、ただの観客に過ぎないんだから!』
アスカロンの、得意げな声が脳内に響く。
「ははっ、頼もしいな、お前は」
俺が、アスカロンの言葉に微笑みかけると、その独り言のような光景が、またしても周囲に誤解を与えた。
将軍たち:「(不敵な笑み…! 工房長ご自身が、その『絶対的エース』として、最後の局面で戦場に降臨なさるという、強い意志の表明だ!)」
ベアトリス:「(違う! あの男が言うエースとは、あの聖剣のこと! 彼は、我々王国全軍を、たった一本の聖剣を輝かせるための、使い捨てのバックダンサーとしか考えていないのだわ!)」
「まあ、つまり、俺とこのアスカロンがいれば、大抵のことはなんとかなるってことだ。細かいことは、現場の判断に任せる! 以上!」
俺が会議を締めくくると、なぜか将軍たちの士気は最高潮に達していた。
「うおおお! フィン工房長、万歳!」
「工房長のプロデュース、しかと心に刻みましたぞ!」
俺は、そう、何も具体的な作戦を指示していない。それなのに、会議は、王国軍の圧倒的な勝利を予感させる、熱狂的な雰囲気のうちに幕を閉じた。
俺の胃痛は、もはや限界だった。




