第57話:魂のカウンター(挿絵あり)
生成AIで画像を作ってみました。
この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。
「再出撃要請、ねえ。帝国の連中も、飽きないもんだな」
俺、フィン・アッシュフォージは、セバスチャンが差し出した羊皮紙をひらひらさせながら、工房長室の椅子に深くもたれかかった。再び国境付近に現れたという仮面の将軍ゼノンと、その魂なき奴隷兵団。
「工房長! 俺たちに行かせてください!」
そう志願したのは、すっかり傷も癒え、以前にも増して精悍な顔つきになったアルドだった。その腰には、静かな鋼色の輝きを放つ、相棒『レイジ・ブリンガー』が提げられている。
「ほう、すっかり元気になったじゃねえか。よし、許可する。お前たちの、記念すべき復活ライブだ。今度こそ、アンコールの声が鳴りやまないくらいの、最高のパフォーマンスを見せてこい!」
「へっ、任せといてくださいよ!」
アルドの背中を、ハンナとセレスティーナが頼もしげに見送っている。敗北という名の試練を乗り越え、俺たちのアイドルユニットは、また一つ上のステージへと駆け上がろうとしていた。
◇
戦場となった荒野には、張り詰めた空気が満ちていた。
俺は、『空中機動工房プロデューサー号』の船橋から、双眼鏡で地上の戦況を見守っている。隣には、セバスチャンと、今日も今日とて険しい表情で俺を監視するベアトリス団長の姿があった。
「工房長。敵将ゼノン、前回と同じ布陣ですな。奴隷兵を前面に押し出し、自らは後方で魂への直接攻撃を狙う構え」
「ああ、芸のない奴だ。アイドルのライブは、毎回セトリを変えるのが常識だろうが」
俺たちの軽口をよそに、地上の戦いは始まっていた。
新生アルドとレイジ・ブリンガーのコンビは、もはや以前の彼らではなかった。奴隷兵の無機質な攻撃を、アルドは最小限の動きでいなし、的確に急所だけを打ち抜いていく。
「見ろ、ベアトリス団長。あれが、俺の新しいプロデュースの成果だ」
俺は、したり顔で解説を始めた。
「敵の攻撃という名のアンチコメントを、いちいち真正面から受け止めて心を病むのは三流のやることだ。一流はな、アンチの意見すらも燃料にして、自らをさらに輝かせるのさ。これを『炎上商法』…いや、この場合は『受け流し』って言うべきか」
「う、受け流し…ですって?」
ベアトリスが息を呑む気配がした。
(始まった…! 魔人の、異端戦闘理論解説が…! 『アンチ』…つまり、敵対者の精神攻撃を受け流し、それを自らの力に変換しているというの!? なんという恐ろしく、そして効率的な戦術なの!)
「そうだ。力を力でねじ伏せるだけが戦いじゃない。相手の力を利用して、より大きな力を生み出す。合気道や柔道の基本だな。物理学的に言えば、運動量のベクトルを変化させることで、相手のエネルギーを無力化、あるいは自身の攻撃に転用する技術だ。まあ、要するに、心も体も『しなやか』になれってことだ」
俺の知ったかぶりな解説を、ベアトリスは必死に羊皮紙に書き留めていた。
(ベクトル…運動量…またしても未知の魔導物理学理論! 敵の魔力の流れを読み解き、それを自軍の攻撃に上乗せする増幅術式! これが、あの札付きのワルだったアルドを、ここまで変貌させたというの!?)
ついに、後方で観戦していたゼノンが動いた。その仮面の奥の魔眼が、再びレイジ・ブリンガーの魂を捉える。
「来たな、厄介な粘着アンチが」
俺の呟きと同時に、アルドの動きが一瞬だけ鈍る。だが、今回は倒れない。
「うおっと…! 来やがったな、この精神攻撃野郎!」
(大丈夫だ、ヘッポコ! こいつの攻撃パターンは、もう覚えた!)
レイジ・ブリンガーの魂は、ゼノンの邪悪な波動を、まるで渦を巻く水面のように受け流し、その内部に憎悪のエネルギーを溜め込んでいく。
「すごい…! アルドさん、耐えてます!」
ハンナの応援の声が、船橋まで届いてきそうだ。彼女の豊満な胸が、心配と期待で大きく上下しているのが、双眼鏡越しにもよく分かる。うん、絶対に目を向けてしまうのが男の性というものだ。
「どうだ、ゼノン! これが、挫折を乗り越えたアイドルの輝きだ! 心理学で言うところの『心的外傷後成長』ってやつさ! 逆境は乗り越えればな、アイドルを強く、そして美しくするんだよ!」
俺は、メガホンを片手に、天に向かって叫んだ。
「へっ、工房長がなんか叫んでるぜ! よく分かんねえが、要は『気合いでぶっ飛ばせ』ってことだろ! 行くぜ、相棒! 俺たちの新曲、『ソウル・カウンター』だ!」
アルドが叫ぶと、レイジ・ブリンガーの刀身が、ゼノンの精神攻撃によって溜め込まれた負のエネルギーを解放し、禍々しい紫黒のオーラを纏い始めた。
アルドは、そのオーラを剣先に集中させ、一直線にゼノンへと叩きつけた!
「なっ!?」
ゼノンは、自らが放ったはずの憎悪の力が、牙を剥いて自分に襲い掛かってきたことに、初めて動揺を見せた。彼は咄嗟に黒い剣でそれを受け止めるが、凄まじい衝撃に数歩後退させられる。仮面に、初めて微かなヒビが入った。
「やった!」
「へっ、どうだ!」
勝利を確信した、その瞬間だった。
ゼノンは、何のためらいもなく、自分の前にいた奴隷兵を掴み上げ、アルドの次なる追撃の盾にした。剣は、魂なき兵士の体を容易く貫くが、その勢いは完全に殺されてしまう。
ゼノンは、その隙にマントを翻し、後方へと跳躍した。
「ちっ、ファンを盾にするとは、最低のプロデューサーだな!」
俺は、思わず吐き捨てた。
「今日のところは、この程度で勘弁してやろう、フィン・アッシュフォージ。だが、次はないと思え」
ゼノンの捨て台詞が、戦場に響き渡る。彼は、残りの奴隷兵団と共に、再び闇の中へと姿を消した。
「くそっ、逃げられたか!」
アルドが悔しそうに歯噛みする。
俺は、通信機に向かって静かに告げた。
「…見事な再デビューライブだったぜ、アルド。最高に、ロックだった」
その言葉を、ベアトリスはこう記録した。
「――魔人フィン、敵将ゼノンの精神攻撃戦術を完全に看破。PTGなる未知の反撃術を用い、敵将に深手を負わせることに成功。ゼノンは、自軍の兵士を犠牲にすることで、辛くも撤退。魔人フィンの戦術理解能力は、もはや予知の領域に達していると断定せざるを得ない――」




