第55話:天空のプロデューサー号、初任務とすれ違う通信(挿絵あり)
生成AIで画像を作ってみました。
この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。
「陛下より下された、国境付近のトルヴァニア山脈に帝国が秘密裏に建設している補給基地の偵察、及び無力化。それが、我らが『空中機動工房プロデューサー号』の記念すべき初任務だ!」
雲海へと上昇していく巨大な船の船橋で、俺、フィン・アッシュフォージ男爵は仁王立ちになり、高らかに宣言した。風が頬を撫で、太陽の光が磨き上げられた甲板を照らす。これぞ、新たな門出にふさわしい最高のステージだ。
「ひゃっ…! ふ、フィン君、あんまり端っこに行かないで! 揺れるから!」
俺の腕に、豊満で柔らかい感触がぎゅっと押し付けられる。振り返れば、幼馴染のハンナが青い顔で俺の腕にしがみついていた。どうやら彼女は、少し高いところが苦手らしい。しかし、この恐怖に引きつった上目遣いと、不安げに俺に体重を預けてくる無防備な姿…役得以外の何物でもない。
「大丈夫だって、ハンナ。この船は俺がプロデュースしたんだ。絶対に落ちたりしねえよ」
俺が彼女の頭をポンと叩くと、ハンナは少しだけ顔を赤らめて「う、うん…」と頷いた。その仕草がまた、庇護欲をそそる。
「よーし、みんな! 我らがプロデューサー号の、記念すべき初任務だ! 帝国の連中っていう、一番熱心なファンに、俺たちの最高のパフォーマンスを間近で見せてやろうぜ!」
俺の号令で、船橋に緊張と、いくつかの解釈のズレが走った。
「作戦目標地点に接近します! 皆、戦闘準備!」
ベアトリス団長が鋭い声を飛ばす。彼女は、この空中要塞がもたらすであろう混沌を危惧しつつも、騎士団長としての職務を全うしようと、誰よりも気を引き締めていた。
「いいか、セバスチャン! 敵の度肝を抜くような、派手な登場を演出するぞ! 船体を大きく傾けながら、渓谷を縫うように低空飛行だ! アイドルのライブは、登場シーンが一番大事なんだからな!」
俺の提案に、セバスチャンは深く頷いた。
「なるほど。船体を傾けることで太陽光を意図的に反射させ、敵の視覚を眩ます陽動。同時に、渓谷の複雑な地形を利用して対空兵器の射線を切り、こちらの正確な位置を誤認させる。実に高度な威嚇飛行戦術ですな。承知いたしました」
いや、ただ単にカッコいいからだ。戦闘機がやるブレイク旋回みたいなイメージ。
しかし、俺の真意とは別に、この作戦はベアトリスの脳内で、さらに恐ろしいものへと変換されていた。
(船体を…傾けるですって!? まさか、あの角度は…! 船体下部に隠されているという、最終決戦兵器『パンデモニウム・レイ』の発射角! 天から地上を焼き尽くすための、最終準備段階に違いないわ! あの男、偵察任務にかこつけて、帝国の基地を跡形もなく消し去るつもりなのね!)
プロデューサー号は、俺の指示通り、巨大な船体をきしませながら、渓谷へと降下していく。眼下に見える帝国の基地から、慌てて対空バリスタの矢が放たれるが、巨体を巧みに操るセバスチャンの操舵技術の前には、蚊が刺すようなものだった。
「よし、いい感じに盛り上がってきたな! セレスティーナ、BGMを投入だ! お前の音響魔法で、『歌う石』の重低音を奴らにプレゼントしてやれ! 俺たちのデビューソングだ!」
「は、はいぃっ!」
セレスティーナは、船の中心核である『歌う石』の振動を増幅させる魔法陣を起動した。ブゥゥゥゥゥン…という、腹の底に響くような低周波音が、渓谷全体に鳴り響く。
この、俺にとってはクールなBGMでしかない音が、またしても複数の解釈を生んだ。
セレスティーナ:「(『歌う石』の反重力振動波を、指向性を持たせて敵基地に照射…! これは、建造物の基礎構造を、目に見えない力で揺さぶり、内部から破壊する、超音波兵器そのものです! フィンさん、恐ろしいことを考えます…!)」
帝国の基地司令官:「(な、なんだこの不気味な音は!? 兵士たちが、原因不明の頭痛と吐き気を訴えている! これは、精神に直接作用する音響兵器に違いない! 王国め、これほどの非人道的な兵器を開発していたとは!)」
共振現象というものは、実に興味深い。特定の周波数を持つ波は、同じ固有振動数を持つ物体を激しく揺らすことができる。かの有名なタコマナローズ橋の崩壊は、橋の構造が持つ固有振動数と、風によって発生したカルマン渦の振動数が偶然一致したことで引き起こされたらしい。小さな力でも、タイミングと周波数さえ合えば、とんでもない破壊力を生む。
「よし、クライマックスだ! ハンナ! ファンへの感謝を込めて、プレゼントを投下するぞ!」
俺は、船体下部の投下用ハッチを開けさせ、山積みにされた木箱を指さした。中身は、船の食料庫で熟れすぎてしまった、大量のトマトだ。
「はーい!」
ハンナは、元気よく返事をすると、熟れたトマトを次々と眼下の帝国基地へと放り投げていった。
空から降り注ぐ、無数の赤い雫。それは、戦場にはあまりにも不釣り合いな光景だった。
帝国の兵士たちは、恐怖に絶叫した。
「うわああ! 空から、赤い酸性雨が!」
「総員、退避ーっ! この基地は放棄する! 王国は、悪魔と契約したぞーっ!」
帝国の兵士たちは、武器も物資もそのままに、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
「…あれ? もう終わり?」
俺は、あっけなく帝国兵がいなくなった渓谷を見下ろし、首を傾げた。
「なんだ、ノリの悪い客だな。アンコールに応える前に、全員帰っちまったじゃねえか」




