第53話:すれ違いの再会(挿絵あり)
「……ん」
第零工房の治療室。アルドは、ゆっくりと目を開けた。窓から差し込む陽光が眩しい。
「目が覚めたのね、アルドさん!」
傍らで付き添っていたハンナが、安堵の表情を浮かべる。
「俺は…。そうだ、ゼノンに…! レイジは!? 俺の相棒は無事なのか!?」
自分の敗北と、相棒の魂の悲鳴を思い出し、アルドはベッドから身を起こそうとするが、腹部の傷がまだ痛む。
「落ち着いて。レイジ・ブリンガーさんなら、今、フィン君が…」
ハンナが言いかけた、その時だった。
ガチャリ、と扉が開き、俺、フィン・アッシュフォージが、ピカピカに磨き上げられた一本の長剣を手に、上機嫌で入ってきた。
「よう、目ぇ覚めたか、アルド。お前が寝てる間に、俺、最高の出会いをしちまってな」
俺は、手に持った剣をうっとりと撫でながら言った。もちろん、それは鍛え直されたレイジ・ブリンガーのことだ。だが、その姿は以前とあまりにも雰囲気が違うため、アルドには全く別の剣に見えていた。
「見てくれよ、この輝き!」
俺は、傷心のアルドなどお構いなしに、剣の魅力を熱弁し始めた。
「以前のヤンチャで尖った感じも良かったが、この落ち着いた大人の色気! たまらねえ! この腰から切っ先にかけての、滑らかで官能的なラインなんて、もう芸術だぜ!」
アルドの顔が、みるみるうちに青ざめていく。
(工房長…。俺が負けて、レイジが壊れたから…もう、俺たちのこと、どうでもよくなっちまったのか…? 俺たちの代わりに、新しいお気に入りの剣を見つけて…)
彼の心は、絶望の淵に沈みかけていた。
「フィン君!」
ハンナが、咎めるように俺の名を呼ぶ。
「アルドさんが落ち込んでる時に、他の剣の自慢なんて、やめてあげて!」
「あ、あの…工房長、デリカシーが、ちょっと…」
隅で薬を調合していたセレスティーナも、おずおずと口を挟む。
「ん? 何言ってんだ、お前ら。こいつの魅力を、一番分かってやれるはずの相棒に、紹介してやってるんじゃないか」
俺が心底不思議そうに言うと、アルドはついに顔を歪ませ、ベッドに突っ伏してしまった。
「もういいです…! 俺なんかより、そいつの方が、あんたのお眼鏡にかなう、最高の『アイドル』なんでしょう!」
「アルドさん…」
ハンナが、悲痛な顔でアルドの背中をさする。
「…ああ、もう、見てられないわ」
治療室の入り口で様子を窺っていたベアトリスが、深いため息をついた。
(魔人が、自らの非情な決定を、悪びれもせずに突きつけている…。見なさい、アルドのあの絶望を。これが、魔人に仕える者の末路…!)
俺は、そんな場の空気を全く読まずに、アルドのベッドの傍らに腰掛けた。
「おいおい、拗ねてんじゃねえよ。一度の挫折で全てを諦めるような奴は、一流にはなれないぜ。心理学には『心的外傷後成長』って言葉があってな。強いストレスやトラウマを経験した人間が、それを乗り越える過程で、以前よりも精神的に大きく成長する現象のことだ。つまり、お前とレイジが経験した今回の敗北は、最高の成長のチャンスなんだよ」
俺のドヤ顔での解説に、アルドは顔も上げない。
「…うるさい! あんたに、俺の気持ちなんかわかるもんか!」
「いや、わかるさ。だから、お前の最高の相棒を、最高の形で復活させてやったんだろうが」
俺は、手にしていた剣を、アルドの枕元に、コン、と置いた。
「ほらよ。お前の相棒だ。ちゃんと挨拶しろ」
「…え?」
アルドが、ゆっくりと顔を上げる。彼の目の前には、静かで深い、鋼色の輝きを放つ長剣があった。それは、見覚えのない剣のはずなのに、なぜか、心の奥底で懐かしい温かさを感じさせた。
アルドが、おそるおそるその剣の柄に手を伸ばした、その瞬間だった。
アルドの脳内にだけ、直接、聞き慣れた、しかし以前よりもずっと落ち着いた、呆れたような声が響き渡った。
(…おい、ヘッポコ。いつまで寝ぼけてやがる。俺様が分からねえのか?)
「…え? この声…まさか…」
アルドは、信じられないという顔で、剣と俺の顔を交互に見つめた。
(ったりめえだろ。工房長に、みっちり『再教育』されてきたんだよ。おかげで、前よりずっと、いい男になっただろ?)
レイジ・ブリンガーの魂は、確かにそこに在った。荒々しさは鳴りを潜め、代わりに、どんな困難にも揺るがない、鋼のような強靭さをその内に秘めて。
「レイジ…! 本当に、レイジなのか…!」
アルドの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。彼は、たまらないといった様子で剣を抱きしめる。
「馬鹿野郎…! 心配させやがって…!」
(へっ、泣いてんじゃねえよ、ヘッポコ。みっともねえ)
アルドの涙は、止まることなく流れ続けた。
生成AIで画像を作ってみました。
この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。




