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神眼の鍛冶師は素材の魂(こえ)が聞こえる ~俺は素材をプロデュースする~  作者: サンキュー@よろしく


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第50話:親心と魂の鍛え方(挿絵あり)

生成AIで画像を作ってみました。

この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。

「そうだ。お前はまだ、本当の意味で『武器を鍛える』ということを知らん」


 治療室に響いた師匠グンドハルの言葉は、俺のプロデューサーとしてのプライドを、根元からへし折るには十分すぎるほどの重みを持っていた。眠るアルド、そして枕元で弱々しく光るレイジ・ブリンガーを前に、俺は返す言葉も見つからなかった。


「ついてこい、フィン」


 師匠はそれだけ言うと、俺を促して第零工房が誇る最新鋭の鍛冶場へと向かった。そこには、技術顧問であるバルバロッサも、神妙な面持ちで待っていた。どうやら、師匠から何か聞いていたらしい。


「フィンよ、お前の『魂魄の瞳』は、確かに天賦の才じゃろう。素材の魂の声を聞き、その望む形を与えられる。じゃがな」


 師匠は、工房の隅に積まれていた、選別漏れのナマクラ鉄の塊を一つ拾い上げた。


「甘やかされて育った子供が、ちょっとした逆境で心を折るのと同じじゃ。素材の魂も、ただ望むままに形を与えられるだけでは、打たれ弱いモヤシにしかならん」

(過保護は、対象の『レジリエンス』、つまり精神的な回復力や困難を乗り越える力を奪う。前世の心理学でも常識だったな…)

俺は師匠の言葉を、苦々しく噛み締めた。


「……」


「お前は、素材の『言いなり』になっておるに過ぎん。真の鍛冶師とは、素材の魂の親となり、師となるものじゃ。時には厳しく、その魂そのものを『鍛え』上げ、どんな逆境にも耐えうる『折れない心』を与えてやる。それこそが、本当の愛じゃろうが!」

(ただ甘やかすだけでも、ただ厳しくするだけでもない。愛情を注ぎつつ、明確な指針を示して導く…。心理学で言うところの『権威ある養育スタイル』ってやつか。師匠の鍛冶哲学は、子育て論にも通じるのか…)

 師匠の言葉が、槌のように俺の胸を打つ。俺のプロデュースは、タレントの個性を尊重し、その魅力を引き出すことだった。だが、それはただの甘やかしだったと、師匠は言うのだ。


「見ろ」


 師匠は、光の弱々しいレイジ・ブリンガーを俺の目の前に突きつけた。


「こいつは、お前に甘やかされた結果、たった一度の精神攻撃(アンチコメント)で心を折られた。お前のプロデュースは、ステージの上でだけ輝ける、見かけ倒しのアイドルを作り上げたに過ぎんかったということじゃ」


 ぐうの音も出ない。その通りだった。ゼノンのたった一撃で、俺たちの最強ユニットは崩壊したのだ。


「師匠…。じゃあ、どうすれば…」


「魂を鍛えるための、第一歩を教えてやる」


 師匠は、先ほどのナマクラ鉄を俺に放り投げた。


「その鉄屑で、『折れない心を持つ釘』を百本作れ。それができたら、次の段階に進んでやる」


「釘…ですか?」


 耳を疑った。剣でも鎧でもなく、ただの釘。しかも、このどうしようもないナマクラ鉄で。俺は『魂魄の瞳』でその鉄塊を視たが、魂はあまりにも弱く、声も聞こえなければ、輝きすらほとんど感じられない。(いわゆる銑鉄に近い状態か。炭素量が多すぎて脆い部分と、逆に少なすぎて柔らかい部分が混在している。不純物も多い。これを均一な鋼にするには、折り返し鍛錬で炭素量を調整し、不純物を叩き出すしかない。だが、魂が弱すぎて、どこをどう叩けばいいのか、全くフィードバックがない…!)まるで、デビューを諦め、引きこもってしまったアイドルの卵のようだ。


「そうだ、釘だ。たかが釘、されど釘。古代において、釘は一本一本が職人の手作りでな、非常に高価なものだった。昔の戦争では、軍団が駐屯地を放棄する際に、敵に利用されないよう、わざわざ釘を全て回収し、曲げて使えなくしたという記録もあるほどじゃ。それだけ、一本の釘が持つ戦略的価値は高かった。そんな、物を繋ぎ止め、支えるという地味で、しかし最も重要な役割を担う釘の魂を、お前が鍛えられるか。見せてもらおうか」


 俺は、途方に暮れた。魂の声が聞こえなければ、俺のプロデュース能力は意味をなさない。これは、師匠からの無理難題、あるいは、俺の才能を否定するための試練なのかもしれない。


 この、神聖なる師弟のやり取りを、工房の柱の陰から、一人の女性が息を殺して見守っていた。もちろん、白銀騎士団長ベアトリスである。


(始まった…! 魔人への、さらなる邪法の伝授が…!)


 彼女の耳には、師弟の会話が、全く異なる意味合いで届いていた。


(『魂の言いなりになるな』…つまり、対象の魂を尊重するのではなく、完全に自分の意思に従わせろという、より高度な洗脳術! 『親となり、師となる』…精神的な支配関係を築き、絶対的な服従を強いるための、悪魔の契約理論! なんてこと、ドワーフの老賢者と思っていたあの男も、フィンの同類だったというの!?)


 そして、彼女は師匠がフィンに渡した課題を見て、確信を深めた。


(釘を百本作れ…! 間違いないわ! あれは、呪いの儀式に使う、魂を縛り付けるための『呪詛の楔』! 古代の魔術書にも記されていた…。百の楔を、対象の支配領域に打ち込むことで、その土地の霊脈を汚し、住民の魂を永遠に縛り付けるという、大禁術『百鬼の杭打ち』! これから生み出される百の呪具で、王国の中枢を、完全に掌握するつもりなのね! あの魔人は、師匠からさらなる邪法を学び、より強力な『大魔人』へと進化しようとしている!)


 ベアトリスの壮大な誤解が、また新たな伝説の1ページを生み出そうとしていることなど、俺は知る由もない。


「…やってやりますよ」


 俺は、ナマクラ鉄を強く握りしめた。


「アルドとレイジ・ブリンガーを救うためなら、どんな地味な下積みだろうと、やってやる。見てろよ師匠。最高の釘を、百本プロデュースしてやるからな!」


 俺の新たな挑戦が、カン、という間の抜けた槌音と共に、静かに始まった。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
あれ…? もしかして師匠、異世界転生した方でした? あまりにもアイドルプロデュース理論への解釈が深く、古代ローマの知識まで…。 弟子を助ける為にどこかで必死に学んだのだろうか。 挫折からの復活イベン…
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