第45話:ゼノンの『奴隷兵団』(挿絵あり)
生成AIで画像を作ってみました。
この話数から自動で作っただけなので、本文や他の画像との矛盾はご容赦ください。
王国との国境地帯に、不気味な静寂が戻ってから数週間。
アレスによる『P』の地上絵事件以来、鳴りを潜めていた帝国軍が、再び動きを見せた。
だが、その軍勢は、これまでとは明らかに異質だった。
一糸乱れぬ行軍。だが、そこに戦意高揚の雄叫びはなく、ただ、鎧の擦れる音と、無数の足音だけが、大地に響いている。まるで、巨大な一体の生き物が、静かに這い寄ってくるかのような、異様な光景だった。
第零工房の遠見の水晶に、その不気味な軍団の姿が映し出される。
「…なんだ、こいつら。生きてるのか?」
アルドが、訝しげに呟いた。
水晶に映る帝国兵たちの動きには、人間らしい揺らぎや、感情の起伏が一切感じられない。ただ、命令に従って動く、自動人形のようだった。
「工房長。分析結果が出ました」
セレスティーナが、震える声で報告する。
「彼らからは…生命反応が、ほとんど感じられません。でも、アンデッドでもない…。まるで、魂だけを、綺麗に抜き取られた、空っぽの器のようです…」
俺は『魂魄の瞳』を凝らして見た。
「…軍団の中心に、ひときわデカくて邪悪な魂の気配を持つ奴がいるな。仮面をつけた、いかにもって感じの奴だ。あいつが親玉か。おい、誰かあの仮面の男について知らないか?」
俺が問いかけると、ベアトリスがハッとした顔で答えた。
「…知っているわ。帝国軍の中でも、その存在が噂されるだけの謎の将軍…『仮面のゼノン』こと、ゼノン・ヴォルグよ。まさか、彼がこれほどの大軍を率いて、自ら前線に出てくるとは…!」
「ゼノン・ヴォルグ、ね。覚えたぜ」
俺は頷くと、再び水晶の中の軍勢に目を向けた。
「…タチの悪いプロデューサーがいたもんだな。あいつ、兵士たちの魂を無理やり乗っ取って、自分だけの『奴隷兵団』を作り上げやがった」
俺の言葉に、工房の司令室が凍り付いた。
「魂を…乗っ取るですって!?」
ベアトリスが、信じられないという顔で叫ぶ。
(そんなことが、本当に可能なの!? …いや、待ちなさい。あの男、フィン・アッシュフォージも、武具やゴーレムの魂を意のままに操っている。帝国にも、彼と同質の、しかしより邪悪な力を持つ者が現れたというの!? 魔人と魔将の、代理戦争…!? この国は、一体どうなってしまうの!)
セバスチャンは、冷静な表情を崩さずに、しかしその瞳の奥には、鋭い警戒の色を宿していた。
「…なるほど。痛みも恐怖も感じない、ただ命令にのみ従う兵団。ある意味では、理想的な兵士と言えましょう。ですが、それは人の心を、魂の尊厳を完全に踏みにじる、外道の戦術」
「その通りだ」
俺は、セバスチャンの言葉に頷いた。
「恐怖を感じない兵士ってのは、確かに厄介だ。生物にとって恐怖ってのは、危険を回避するための、重要なアラート機能だからな。それが無いってことは、ブレーキの壊れたダンプカーみたいなもんだ。止まるまで、ただひたすら真っ直ぐ突っ込んでくる」
「だが」
と、俺は続けた。
「それは同時に、最大の弱点でもある。応用が利かない。想定外の事態に対応できない。そして何より…」
俺は、水晶に映る、魂のない兵士たちを、プロデューサーとしての、憐れみの目で見つめた。
「…パフォーマンスに、心が無い。そんなステージ、観客の胸を打つわけがないだろうが」
俺の、いつものズレた発言に、ベアトリスが「今はそういう話ではないでしょう!」とツッコミを入れるが、もう遅い。
遠見の水晶が、さらにゼノンの姿を拡大する。
すると、仮面の将軍は、まるでこちらの視線に気づいたかのように、ゆっくりと、こちらに顔を向けた。
仮面のスリットの奥で、二つの赤い光が、ギラリと輝く。
『魂魄の魔眼』が、俺たちの魂を、確かに捉えていた。
『フィン・アッシュフォージ…』
ゼノンの、冷たく、感情のない声が、魔術的な干渉によって、司令室の全員の脳内に、直接響き渡った。
『貴様の奏でる不協和音は、ここまで届いているぞ。魂との共存だと? 偽善者め。全ての魂は、一つの絶対的な意思の下に統合されてこそ、真の調和を得るのだ』
『貴様のその歪んだ『愛』とやらが、我が絶対的な『支配』の前に、いかに無力か。その身をもって、教えてやろう』
一方的な宣戦布告。
その圧倒的な威圧感に、アルドやハンナはゴクリと喉を鳴らし、セレスティーナは小さな悲鳴を上げた。
俺だけが、不敵な笑みを浮かべていた。
「…上等じゃねえか」
俺は、水晶の中の仮面の男を、まっすぐに見据え返した。
「お前のその三流のプロデュース理論、この俺が、根底から叩き潰してやる。最高のアイドルユニットの力でな!」
ついに、二人の『プロデューサー』が、互いの存在を明確に認識した。
王国の運命を賭けた、魂の哲学のぶつかり合い。その火蓋が、今、静かに切られようとしていた。




