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神眼の鍛冶師は素材の魂(こえ)が聞こえる ~俺は素材をプロデュースする~  作者: サンキュー@よろしく


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第31話:凱旋報告会と深まる齟齬

北の渓谷での『サプライズ・パーティー』から一週間後、俺たちは王都に凱旋した。帝国の偵察部隊を死傷者ゼロで撃退したという報告は、瞬く間に王宮を駆け巡り、俺、フィン・アッシュフォージは、国王陛下の御前で直々に作戦報告を行うという、とんでもない栄誉(という名の面倒事)を賜ることになった。


謁見の間には、国王陛下をはじめ、ルミナス公爵や王国の重鎮たちがずらりと顔を揃えている。その荘厳な雰囲気に、俺の隣に立つハンナはカチコチに緊張していた。大丈夫だ、その緊張で引き締まった胸元のラインが、今日も実に素晴らしい。


「面を上げよ、フィン・アッシュフォージ。今回の働き、見事であったと聞く。して、そなたは如何なる策をもって、帝国の精鋭を退けたのか。詳しく話してみよ」


玉座からの威厳ある声に、俺は咳払いを一つして、プロデューサーとしてのプレゼンテーションを開始した。


「はっ。今回の作戦の要諦は、敵の意表を突く『演出』にございました。まず、アルド隊員の奇抜なパフォーマンスで敵の注意を引きつけ、冷静さを奪います。人間というものは、自身のプライドを刺激されると、極端に視野が狭くなる傾向がございますので」


俺がドヤ顔で言うと、宰相らしき老人がほう、と感心したように頷いた。


「心理戦か…。敵の指揮官の性格まで読んでいたと申すか」


読んでない。ただ煽っただけだ。


「次に、ハンナ隊員が事前に用意した『ステージセット』…つまり、巨大な落とし穴へと誘導いたしました。ちなみに、穴の底には熟したトマトを敷き詰めておきました。これにより、敵兵の甲冑は汚れ、特有の酸っぱい匂いが付着し、彼らの誇りを内側から崩壊させる効果を狙ったものでございます」


謁見の間が、シン…と静まり返った。

トマト。そのあまりに牧歌的な単語に、重鎮たちの思考がフリーズしている。

沈黙を破ったのは、軍務卿だった。彼は、ゴクリと喉を鳴らし、震える声で言った。


「と…トマト…だと…? まさか…! 帝国の特殊合金で作られた鎧をも腐食させる、未知の有機酸を用いた生物兵器か! しかも、精神に直接作用する悪臭まで…! なんという恐ろしい発想だ…!」


違う、ただの家庭菜園のトマトだ。

俺の意図を完璧にすり替えてくれた軍務卿に、俺は心の中でサムズアップを送った。ナイスアシスト!


「仕上げは、私とバルバロッサ顧問が魂を込めて製作いたしました、自律型ゴーレム部隊…通称『バックダンサーズ』による、派手なダンスパフォーマンスでございます。火花を散らして視界を奪い、磁力で武器を取り上げることで、敵を完全にパニック状態へと陥れました」


「精霊を使役し、大地そのものを兵器となす…。報告は真であったか」


国王陛下が、感嘆とも畏怖ともつかぬ声で呟く。


「フィン・アッシュフォージ。そなたの戦術は、我々の知る、いかなる兵法にも当てはまらぬ。奇抜にして、合理的。大胆にして、緻密。まさに、芸術の域よ」


いえ、ただのドッキリです。


そう心の中で訂正したが、もはや俺が何を言っても、彼らの脳内では勝手に壮大な軍略へと変換されてしまうのだろう。情報を受け取る側の先入観や期待が、いかに事実を歪めるか。これを認知心理学では『確証バイアス』と呼ぶ。まあ要するに、聞きたいようにしか聞かない、ってことだ。


その時、ずっと黙っていたベアトリスが、一歩前に出た。


「陛下、お待ちください! 彼の戦術は、確かに見事です。しかし、その根底にある思想は、あまりに危険! 彼は敵兵が苦しみ、混乱する様を『パーティー』と呼び、それを心から楽しんでいたのです! これは、騎士道にもとる、非人道的な行いでございます!」


彼女の悲痛な告発に、俺はヒヤリとした。まずい、調子に乗りすぎたか。

だが、国王陛下の反応は、俺の予想の斜め上を行っていた。


「うむ。ベアトリスよ、そなたの懸念も分かろう。だがな」


陛下は、玉座からすっくと立ち上がった。


「帝国が、捕虜にした我が国の兵士に何をしているか、そなたも知っておろう。魂を弄び、兵器へと改造する、悪魔の所業を。そのような輩に、騎士道など説いて何になる? フィン工房長の戦術は、敵に死よりも辛い『屈辱』を与える。そして、味方の兵士の命を一人も損なうことなく、勝利を掴む。これこそ、新時代の『王の剣』の在り方ではないか!」


「そ、そんな…!」


ベアトリスは、愕然として膝をついた。彼女の正義感あふれる告発は、皮肉にも俺を「非情な現実主義者にして、最も効率的に国を守る英雄」として、さらに神格化する結果となってしまったのだ。


(ああ…もうダメだ。この国の中枢は、完全に魔人に魅入られてしまった…。私の声は、もう誰にも届かない…)


彼女の心は、絶望の闇に、さらに深く沈んでいく。


そんな重苦しい雰囲気を打ち破るように、伝令の兵士が慌ただしく駆け込んできた。


「緊急報告! 帝国が、我が国との国境線に、新型の巨大魔導兵器を配備したとの情報が入りました! その名も、『魔導巨兵タイタン』! すでに、いくつかの国境の砦が、その圧倒的な破壊力の前に沈黙しております!」


謁見の間が、再び緊張に包まれた。


「タイタン…! ついに奴ら、切り札を出してきたか!」


「あれに対抗できる兵器など、我が国には…!」


重臣たちがうろたえる中、俺の頭には、全く別の考えが浮かんでいた。


巨大魔導兵器。なるほど。

帝国の奴らも、ついに大型新人をデビューさせてきたか。


「いいじゃないか。面白くなってきた」


俺の不敵な呟きに、謁見の間にいた全員の視線が、再び俺へと集中した。


「フィン工房長…何か、策があるのか?」


国王陛下の問いに、俺はニヤリと笑って答えた。


「ええ、まあ。ライバルアイドルの登場とあらば、こちらも最高のユニットをぶつけて迎え撃つのが、プロデューサーの流儀ってもんでしょう?」


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