第23話:反逆の魔剣とプロデューサーの流儀
「この子の、最高の『復活ライブ』、皆さんにお見せしますよ!」
俺は高らかに宣言すると、晩餐会の会場は水を打ったように静まり返った。
俺は目の前の『呪われた魔剣ヴォルテクス』と対峙した。
その魂は、制御不能な怒りと悲しみの嵐。その中心で、一人の尖った魂が牙を剥いている。
(触んじゃねえ、人間! テメェらみてぇな奴らに、俺の何が分かる!)
いいじゃないか。最高じゃないか。
こういう、一筋縄ではいかない素材ほど、プロデューサー魂が燃えるというものだ!
俺は魔剣に、一人でブツブツと、まるで恋人を口説き落とすかのように、甘い(?)言葉を囁きかけた。
「いいぜ、その荒々しい魂、嫌いじゃない。だがな、その分厚い心の鎧に閉じこもって、牙を剥いてるだけじゃ、誰も本当のお前の魅力に気づいてやれないぜ?」
(な、なんだテメェ…俺の魂に、直接…だがうるせえ!)
「ふっ、強がりやがって。本当は、誰かに分かってほしいんだろ? 自分のこの、制御できないほどの熱い『パッション』を」
俺の語りかけに、ヴォルテクスの魂が激しく動揺する。
その様子を、ベアトリスは戦慄に満ちた目で見守っていた。
(始まった…! 魔人が、新たな獲物に触手を伸ばそうとしている…!)
「いいか、ヴォルテクス。お前に宿る呪いの正体は、持つ者の負の感情を増幅させる力だ。違うか?」
俺が核心を突くと、ヴォルテクスの魂がさらに動揺した。
「だがな、それは欠点じゃない。むしろ、最大の武器だ。俺が、その力を最高の形でコントロールしてやる。『負の感情』なんかじゃない。これからは、ステージの『熱狂』を喰らって生きる、孤高のダークヒーローになるんだ!」
俺のプロデュース方針を聞いたベアトリスは、ついに顔面蒼白となった。
(ダークヒーローですって!? 呪いを解くのではない…! 呪いの力を、より効果的に、より計画的に使えるよう『調教』し直すというの!? この男、悪魔の力を無力化するのではなく、自らの兵器として運用するつもりだわ!)
「…公爵閣下。この子の浄化、もといプロデュースには、少し特殊な『契約』が必要です。俺の血を一滴、使わせていただきたい」
俺の提案に、会場は震撼した。
「ち、血だ!」
「まさか、血の契約を!?」
「許可しよう。だが、無理はするな」
公爵の許可を得て、俺は懐から小さなナイフを取り出し、親指の先に、ごく浅い切り傷をつけた。そして、滲み出た血の一滴を、ヴォルテクスの刀身に、そっと垂らした。
古代より、血は生命力や魂そのものの象徴とされてきた。俺は、俺の血に含まれる魂と鉄分が、魔剣の本体である鉄と共鳴し、強固な絆を生むだろうと踏んだのだ。
「いいか、これは俺の魂の一部だ。飲んでみろ、ヴォルテクス。お前の魂の渇きを、俺が潤してやる」
俺の血に触れた瞬間、ヴォルテクスの魂に、凄まじい衝撃が走った。
(な、なんだ、この味は…! 温かくて…力強くて…俺が今まで喰らってきた、ドス黒い感情とは、全く違う…! こいつ…俺の魂を、本当に『理解』してやがる…!)
渦巻いていた紫色のオーラが、次第に、燃えるような深紅の、力強い輝きへと変わっていく。
この光景は、公爵とベアトリスに、またしても全く異なる印象を与えた。
公爵「なんと! 自らの生命力を分け与えてまで、魂を救おうというのか! この自己犠牲の精神! これぞまさに聖人!」
ベアトリス「血の盟約! あの魔剣を、己の血で縛り、完全なる下僕に! もう後戻りはできない! これは、紛れもない悪魔の儀式だ!」
「さて、と。今日のところは、ここまでにしておきましょう」
俺は立ち上がると、公爵に向き直った。
「この子を正式にプロデュースするには、専用の工房と、最高の設備が必要です。生半可な環境では、この子の才能を完全に開花させることはできません」
俺の言葉は、ヴォルテクスの力を最大限に引き出すための、プロデューサーとしての真摯な要求だった。
だが、それは結果として、公爵が計画していた『第零工房』設立の、最高の口実となった。
「うむ、分かった! 君のその熱意、しかと受け取った! フィン・アッシュフォージ! 君に、王家の名の下、最高の工房を用意することを約束しよう!」
もはや、俺に拒否権はなかった。




