第20話:ギルドの試練と魂の証明
「何ぃ!? あの聖剣を修復した奴が、ウチのギルドに来るだと!?」
鍛冶師ギルド長、バルバロッサ・グランは、ルミナス家からの使者の言葉に、不機機嫌そうに唸った。
彼は伝統と格式を何よりも重んじる、昔気質の職人だ。鉄は汗水垂らして、何十年もかけてその声を聞けるようになるもの。それが彼の揺るがぬ信条だった。
「『魂をプロデュース』だ? ふざけるのも大概にせい! ポッと出の小僧が、まやかしの技で得た名声など、このワシがその鼻っ柱ごと打ち砕いてくれる!」
彼の目には、俺は「邪道な術で鉄の理を歪める、許されざる錬金術師」と映っていた。
◇
ギルドの巨大な扉をくぐると、カン!カン!というリズミカルな槌音と、肌を焼くほどの熱気が俺たちを出迎えた。
「フィン・アッシュフォージ殿、ご足労いただき、感謝申し上げる」
俺たちを出迎えたのは、見るからに頑固そうなギルド長、バルバロッサだった。
「ふん。お主のその『神業』とやら、このワシの目の前で見せてもらおうか」
彼はそう言うと、部下に合図して、荷車一台分の鉄屑を持ってこさせた。
「これで、何か打ってみせよ。まやかしが通用せぬ、純粋な鉄の前で、お主の化けの皮が剥がれるのが楽しみだわ」
バルバロッサが、勝利を確信したように言い放つ。
(そうだ! このギルド長、分かっている! 邪法の介在できぬ純粋な素材を前にすれば、魔人の力も無力化できるはずだ!)
ベアトリスも、期待に満ちた目で俺を見ている。
だが、俺の反応は、彼らの予想の斜め上を行っていた。
鉄屑の山を『魂魄の瞳』で見た俺は、歓喜に打ち震えた。そこは、デビューを夢見るも、誰にも見つけてもらえずに埋もれている、不遇のアイドルたちのオーディション会場そのものだったからだ!
「…素晴らしい。なんて素晴らしい原石たちなんだ…!」
俺は涙ぐみながら、一番みすぼらしい鉄塊を拾い上げた。
「大丈夫だ、お前はブサイクなんかじゃない。俺が、お前の最高のボディ(からだ)を、作ってやるからな…!」
俺の変態的な独り言に、ギルドの職人たちはドン引きし、バルバロッサは「やはり、頭がおかしい奴じゃったか…」と呆れ、ベアトリスは「始まった…魔人の『調教』儀式が…!」と戦慄している。
キィン! キィン! キィン!
再び、鍛冶場に高く澄んだ槌音が響き渡る。
俺の動きには、一切の迷いがない。それはもはや、作業ではなく、魂とのセッション。鉄のアイドルと、俺というプロデューサーが織りなす、情熱的なダンスだった。
やがて、水から引き上げられたのは、クズ鉄から作ったとは到底思えない、美しい刃文を宿した一振りの短剣だった。
「……馬鹿な」
バルバロッサが、絶句した。
彼の長年の経験と知識を、目の前の光景が根底から覆していく。
「どうです、ギルド長。この子のデビュー、大成功でしょう?」
バルバロッサのプライドは、粉々に砕け散った。
ベアトリスは、天を仰いだ。
(ダメだ…! どんな素材を与えても、この魔人は、己の邪法で魂を捻じ曲げ、意のままに従わせてしまう!)
「ま、まやかしだ…! そのようなもの、断じて本物の『鍛冶』ではない!」
ついに我慢の限界に達したバルバロッサが、自らの最高傑作『龍哭』を持ち出し、俺に挑戦してきた。
「そのまやかしの短剣が、ワシの魂を込めた『龍哭』の一撃に耐えられるものか、試させてもらおうではないか!」
その提案は、俺にとって渡りに船だった。
「望むところです! うちの子のデビューイベントには、ちょうどいい前座ですね!」
ギルドの職人たちが固唾を飲んで見守る中、バルバロッサが『龍哭』を振りかぶる。
ゴォンッ!!!!
鈍く、重い衝撃音。
短剣は傷一つなく、逆に『龍哭』の刃には、無数のヒビが入っていた!
「ば、馬鹿な…」
バルバロッサが、へなへなとその場に膝から崩れ落ちた。
ベアトリスもまた、戦慄に体を震わせていた。
(聖なる魂を宿した斧が…邪悪な魔剣に…喰われた…!?)
「どうです? これが、俺がプロデュースしたトップアイドルの実力ですよ!」
俺の勝利宣言は、バルバロッサの砕け散ったプライドと、ベアトリスの新たなる恐怖の上に、高らかに響き渡った。




