第19話:王都の洗礼と新たな舞台
王都リューネリア。
そこは、俺が育った村とは何もかもが違う、活気と喧騒に満ちた場所だった。
「すげえ…! 見ろよハンナ! あの時計塔! てっぺんの装飾、複雑な歯車が絡み合った、バロック様式とスチームパンクの融合みたいな最高のデザインだぜ!」
「ばろっく…? すちーむぱんく…? フィン君、また難しい言葉を使ってるわね。でも、なんだかすごい飾り付けなのは分かる! あっちのお店には、見たこともない綺麗な布がいっぱいあるわ!」
初めての大都会に、俺とハンナは完全に浮かされていた。だが、そんな俺たちの背後には、絶対零度の視線を放つ白銀の騎士団長、ベアトリス・フォン・ルミナス嬢が控えている。彼女は、父であるルミナス公爵から俺たちの案内役を命じられていたが、その真の目的は、俺の監視に他ならない。
「フィン・アッシュフォージ。貴様、あまりキョロキョロするな。その邪悪な瞳で、無垢な市民の中から次の獲物でも品定めしているのか?」
「はあ? 俺はただ、この素晴らしい街の建築美に感動してるだけですよ。見てくださいよ、あの水道橋! 古代ローマの技術も真っ青の見事なアーチ構造だ!」
俺が前世の知識を交えて熱弁すると、ベアトリスの眉がピクリと動いた。
(まただ…! この男、建造物すらも分解するかのような目で分析している…! やはり、この男にとっては、人間も建物も、全てが等しく『素材』としか認識できぬ魔人!)
彼女の心中の俺の評価は、今日もブレることがない。
「そうだ、ベアトリス団長!」
俺は名案を思いつき、彼女に向き直った。
「せっかく王都に来たんです。鍛冶師ギルドとやらに、挨拶に行ってもよろしいでしょうか? プロデューサーとして、業界の最新トレンドの把握と、有力者とのパイプ作りは基本中の基本ですからね!」
俺の提案に、ベアトリスの氷の瞳が、ギラリと狡猾な光を放った。
「…ほう、鍛冶師ギルド、か。ちょうどいい。私も、貴様をそこへ連れて行こうと思っていたところだ」
(来たか…! 自ら化けの皮を剥がされに来るとはな! 鍛冶師ギルドには、古より伝わる『真贋の金床』がある。そこに置けば、邪な力が込められた武具は、その呪いを暴かれるという。待っていろ、今日こそ貴様の罪を白日の下に晒してくれる!)
彼女の目論見など知る由もない俺は、公式の舞台を用意してくれるという彼女の「親切」に、素直に感謝した。
「おお! 俺のプロデュース能力を、公式に披露する舞台をセッティングしてくれると! それはありがたい! 最高のパフォーマンスをお見せしますよ!」
全く噛み合っていない会話の末、俺たちの目的は奇跡的に一致した。こうして俺たちは、王都の職人たちが集う一大拠点、鍛冶師ギルドへと向かうことになったのだった。




