第17話:騎士団長の尋問と勘違いの始まり
「貴様は何者だ。なぜ、ルミナス家の宝剣アスカロンを手にしている?」
馬から降りた女性騎士、ベアトリスの氷のような声が、戦いの熱気が冷めやらぬ空気に響いた。
「私はフィン・アッシュフォージ。ルミナス公爵閣下のご依頼で、この聖剣の修復を請け負った者です」
俺は努めて丁寧に答える。
「修復、だと…?」
ベアトリスの視線が、俺の持つアスカロンに突き刺さる。その輝きは、彼女が知る以前のアスカロンとは比較にならないほど、力強く、神々しい。
「これほどの輝き…ただの修理で、これほどまでに変わるものか…?貴様、この聖剣に一体何をした?」
『マスター、この女、疑り深いわね。あなたの偉大さが分からないのかしら』
アスカロンが、俺の脳内に不満げな声を響かせる。
(まあ待て、アスカロン。今は事を荒立てるな)
俺は内心で彼女をなだめつつ、ベアトリスに向き直った。
「最高の『プロデュース』を施させていただきました。彼女の魂の声を聞き、そのポテンシャルを最大限に引き出したまでです」
「ぷろでゅーす…?」
ベアトリスは、その聞き慣れない言葉に眉をひそめた。
(魂の声を聞く…?父上の報告は、誇張ではなかったというのか…?だが、だとしたら、この男は一体…)
そこへ、ハンナが俺を庇うように前に出た。
「フィン君はすごいんです!私のこの鍬だって、フィン君が魂を込めてくれたから、こんなに強くなれたんです!」
ベアトリスは、ハンナの持つ、どう見ても農具にしか見えない鍬を一瞥し、さらに混乱を深めた。
(鍬…?農具にまで、魂を…?この男の力は、聖剣のような特別な武具に限定されないというのか?一体、どこまでが真実で、どこからが虚構なのだ…?)
「フィン・アッシュフォージ。貴様の存在は、我が騎士団の管轄において、看過できぬ事象だ。父、ルミナス公爵の元へ、貴様を『参考人』として連行する。抵抗は許さん」
ベアトリスは、俺を危険人物と断定し、騎士たちに包囲させた。
「連行、ですか…。ちょうどお城へ向かうところでしたので、護衛していただけるなら助かりますが」
俺の呑気な返事に、ベアトリスは拍子抜けしたような、しかしさらに警戒を深めたような、複雑な表情を浮かべた。
(この男、全く動じていない…。己の異常性に、無自覚なのか?それとも、全て計算の上での行動なのか…?)
こうして俺たちは、白銀騎士団による厳重な護衛(という名の監視)のもと、王都へと向かうことになった。
ベアトリスの心の中には、「フィン・アッシュフォージ」という、常識では測れない謎の存在に対する、尽きることのない疑念と、ほんのわずかな好奇心の種が、確かに芽生え始めていた。




