第15話:聖剣の目覚めと旅立ちの決意
※14話までを修正し、師匠も一緒に「迷いの森」に行く等の変更をしています。
途中での設定変更で申し訳ありません。
俺たちの迷いの森での冒険は、大成功のうちに幕を閉じた。
村への凱旋は、案外静かなものだった。ハンナの両親が、娘と、そして師匠の無事な帰還に涙して喜んでくれたくらいで、森の呪いを解いた、なんて言っても、誰も信じないだろうし、言うつもりもない。
俺は早速、鍛冶場の作業台に、瀕死の聖剣アスカロンと、『月光の雫』を並べる。
いよいよ、この物語のヒロイン(聖剣だけど)の、復活プロデュースの始まりだ。
「師匠、ハンナ。これから、俺の人生を賭けた、最高の仕事が始まる。誰にも邪魔されないよう、見張っててくれ」
「うむ、任せておけ。ワシが最高の助手を務めてやろう」
「うん、分かったわ!」
師匠とハンナが、固い表情で頷く。
俺は鍛冶場の炉に火を入れ、アスカロンの刀身を、ゆっくりと炎に翳した。
「さあ、アスカロン。聞こえるか? お前のための、最高のステージの準備は整った。あとは、お前がもう一度、立ち上がるだけだ」
俺は聖剣に語りかけながら、師匠の助けを借りて、修復作業を進めていく。
『月光の雫』をヒビに垂らし、魂を繋ぎ合わせる。
キィィィィィィィィィィン!!!!!
鍛冶場中に、今まで聞いたこともないような、高く、澄み切った金属音が響き渡った。
「な…なんという光景じゃ…」
師匠が、ゴクリと喉を鳴らす。弟子のフィンが、自分の知らない、未知の領域の『鍛冶』を行っている。その事実に、ドワーフとしての嫉妬と、師としての誇りが、彼の心の中で複雑に混じり合っていた。
俺の仕事はまだ終わらない。
最後の仕上げだ。俺は懐から、あの『呪いの破片』を取り出した。
「なっ、フィン!? その不浄なものを、ここで使う気か!?」
師匠が驚愕の声を上げる。
「危険な賭けなのは分かってます。ですが、この子を、ただの綺麗な聖剣で終わらせたくないんです。光だけじゃなく、闇も知ることで、その魂はもっと深みを増すはずだ。それが、俺の『プロデュース理論』です!」
俺は訳の分からない理屈を叫びながら、『呪いの破片』をアスカロンの柄頭に押し当てた。
「師匠! 俺を信じてください!」
「…分かったわい! お前の好きにしろ! 責任は、師であるワシが取る!」
ジュウウウッ!
聖剣と呪いの破片が接触し、黒い煙が立ち上る。
アスカロンの魂の中で、聖なる力と邪なる力が、せめぎ合い、混ざり合い、やがて、全く新しい、より高次元の力へと昇華していくのが視えた!
俺が注入した『呪いの破片』は、アスカロンの聖なる力によってその呪詛の大部分を浄化され、結果として彼女に「魂の声を外部に響かせる」という、予期せぬ能力をもたらしたようだ。
「…終わった…」
俺は完全に燃え尽き、その場にへたり込んだ。
作業台の上には、神々しいまでの輝きを放つ、新生アスカロンが横たわっている。
「…できたのか…?」
師匠がおそるおそる近づき、アスカロンを手に取ろうとした、その時だった。
『――待って』
凛とした、しかしどこか幼い少女の声が、その場にいた全員の脳内に、直接響き渡った。
「「「!?」」」
俺、師匠、ハンナ、全員が凍り付く。
『私の体に、気安く触らないで。マスター以外の男の手に、易々と身を委ねるつもりはないわ』
再び響く、ツンとした声。その声の主は、間違いなく、聖剣アスカロンだった。
「け、剣が…喋ったぞ…!?」
師匠が、腰を抜かさんばかりに驚いている。
「ワシの知っとる鍛冶の常識が、根底から覆されたわ…」
俺だって驚いている。まさか、自我を持って喋り出すなんて、聞いてない!
『ふふっ。マスターが、私の魂を再構築してくれたから。おまけに、あの黒いカケラの力で、こうして意思を伝えることもできるようになったみたい』
アスカロンが、どこか得意げに囁いてくる。
その時、鍛冶場の扉が、バン! と勢いよく開かれた。
「フィン!大丈夫か!今、何かすごい声が聞こえなかったか!?」
村長を筆頭に、心配した村人たちが駆け込んできた。彼らは修復作業中、鍛冶場から漏れる断続的な光と音に気づき、何事かと遠巻きに見守っていたのだ。
そして、神々しく輝く聖剣アスカロンを見て、息を呑む。
「おお…!なんという神々しいお姿…!フィン、お前さん、一体何を…」
村長が尋ねようとした瞬間、アスカロンが再び脳内に声を響かせた。
『我が名はアスカロン。長き眠りより目覚めし剣。我が主、フィン・アッシュフォージと共に、この地に祝福を』
彼女の声は、強い感情や意思を伴う時だけ、周囲の者に限定的に伝わるようだ。
「祝福…ですと!?」
「おお…!聖剣様が、我らに…!」
村人たちの間に、どよめきが広がる。彼らにとって、古の聖剣が喋り、祝福の言葉を述べたという事実は、理解を超えた奇跡そのものだった。
農具革命で俺に恩義を感じていた彼らの心に、尊敬の念が、じわじわと宗教的な畏怖へと変化していく。
「フィン…お前、もはやただの鍛冶師ではないな」
村長が、俺を見る目を変えた。
「我らは、お前さんを『聖剣に選ばれし者』として、村の誇りとしよう」
「聖剣に選ばれし者…」
その、ちょっと気恥ずかしいが、まあ納得できなくもない二つ名に、俺は苦笑いするしかなかった。
こうして、俺の伝説(という名の壮大な勘違い)は、村の中で、より強固なものとして根付き始めたのだった。
◇
数日後。俺とハンナは、ルミナス公爵の元へアスカロンを届けるため、王都への旅支度を整えていた。
「フィンよ。ワシはここまでじゃ」
村の入り口で、師匠が意外なことを口にした。
「師匠?一緒に行ってくれるんじゃなかったんですか?」
「ああ。だが、お前がこれほどの力を示したいま、ワシがいつまでもお前の側にいては、お前の成長の妨げになるやもしれん。それに…」
師匠は、村の子供たちや、畑仕事に精を出す村人たちを見やった。
「お前が『聖剣に選ばれし者』として名を上げれば、この村にも、よからぬ輩が目をつけんとも限らん。ワシはここに残り、この村と、お前の帰る場所を守る。師として、友として、それがワシの役目じゃ」
その言葉は、師匠なりの、弟子への最大限の信頼と愛情の表れだった。
「…分かりました。ですが、何かあったら、必ず連絡してくださいよ」
「ふん、誰に言うとるか。達者でな」
師匠はぶっきらぼうに言うと、俺の肩を力強く叩いた。
こうして、俺とハンナの二人旅が、再び始まることになった。俺は、聖剣アスカロンを背負い、師匠と村人たちに見送られながら、新たな舞台である王都へと、決意を胸に歩き出した。




