第14話:魂の救済と森の守護者
「これから、お前のデビュー以来、最大の山場…『復活ライブ』の始まりだぜ!」
俺はゴーレムの胸の上で、目の前の赤黒く脈打つコアクリスタルに向かって宣言した。
その中心には、全ての元凶である『呪いの破片』が、まるで悪性の腫瘍のように突き刺さっている。
「大丈夫だ。俺を信じろ。お前はこんな所で終わるタマじゃない」
俺は優しく語りかける。
「見てみろよ、お前のこのボディ! 苔むした石の質感が、長い歴史と風格を感じさせる。無骨でありながら、どこか愛嬌のあるフォルム! 素晴らしい! まさに唯一無二の個性だ!」
俺がゴーレムのボディを褒めちぎると、彼の魂の波動が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。
この様子を下から見守っていたリオンは、深く感動していた。
(始まった…! フィンの『魂との対話』! あれは、ただの治療行為ではない! 魂そのものを励まし、勇気づけ、自らの力で病巣を克服させようという、究極の精神療法だ! 対象の尊厳を最大限に尊重し、そのポテンシャルを信じ抜く…! これが…これが彼の言う『プロデュース』の神髄なのか…!)
俺は深呼吸すると、指先に全神経を集中させ、呪いの破片を掴み、渾身の力で引き抜きにかかった!
「うおおおおおおっ!」
凄まじい邪気が俺を襲うが、ここで怯むわけにはいかない。
「フィン君、頑張って!」
「フィン、気合を入れんか!」
ハンナと師匠の声援が、俺の背中を押してくれる。
俺の魂の叫びに、ゴーレムの魂が、ついに呼応した!
コアクリスタルの赤黒い光の中から、一筋の、清らかな青い光が立ち上る。
「今だッ!」
俺は最後の力を振り絞り、呪いの破片を、コアクリスタルから完全に引き抜いた!
スポンッ!
どこか間抜けな音と共に、俺の手の中に、黒曜石のような禍々しい破片が握られる。
直後、ゴーレムのコアクリスタルが、眩いばかりの青い光を放ち始めた。その光と共に、ゴーレムの純粋な魂から、膨大な情報が俺の脳内に流れ込んできた。
(…そうか、お前は…。この遺跡は、ただの祭壇じゃなかったんだな。『月溜まりの泉』…月の魔力を集めて、聖なる雫を生み出すための、古代の錬金プラント。そしてお前は、その管理者兼守護者だったのか…)
遺跡から噴き出していた黒い瘴気は、朝霧のように掻き消え、代わりに、心地よい風が吹き抜けた。
「…終わった…」
俺は破片を握りしめたまま、その場にへたり込んだ。
その時、俺の腕の中で、ゴーレムがゆっくりと身を起こした。その両目の赤い光は消え、穏やかな青い光が灯っている。
彼は、俺たち四人を順番に見つめると、その巨大な石の頭を、深々と下げた。
「やったのね、フィン君!」
ハンナが嬉しそうに駆け寄ってくる。
すると、ゴーレムが、その巨大な手のひらを、俺の前にそっと差し出した。その手のひらには、何かキラキラと光るものが乗っている。
「おお! これが幻の『月光の雫』か!」
師匠が、感嘆の声を上げた。
「サンキューな、相棒! 大事に使わせてもらうぜ!」
俺が雫を受け取ると、ゴーレムは満足そうに頷き、その体は再びガラガラと音を立てて崩れ、元の石材へと戻っていった。
こうして、俺たちは目的の素材を手に入れた。
森を蝕んでいた呪いの瘴気も消え、あとは村に帰るだけだ。
「フィン・アッシュフォージ。君には、感謝してもしきれない」
リオンが、俺に向かってエルフの流儀で最も丁寧な敬礼をした。
「君は、変態などではなかった。いや、あるいは、我々の理解を超えた、真の『聖人』なのかもしれない…。私はこの森に残り、呪いの名残が完全に消え去るまで、この地を見守ろう。だが、いつか必ず、この恩は返す」
「ああ、分かった。またな、リオン!」
俺は、森の守護者としての覚悟を決めたエルフに手を振り、彼の背中を見送った。
手の中に残った『呪いの破片』に目をやる。
「師匠、こいつ、どうしましょうか。こんな不吉なもん、このまま捨てておくわけにもいかないし…」
「うむ…ただの物質なら、ワシの炉で溶かしてしまうこともできるが、これに宿る呪いは、それでは消えんかもしれん。お前が管理するのが最善だろう」
俺は仕方なく、その呪いの破片を頑丈な革袋にしまい、懐の奥深くにしまった。
「さて、と。最高の素材も手に入ったことだし、帰るとするか! 待ってろよ、アスカロン! 最高の復活劇を、俺が演出してやるからな!」




