第11話:奇妙な野営と勘違いの深化
しばらく毎日更新予定。
森の王たるキマイラが、俺たちの連携によって沈黙した。
その信じがたい光景を前に、エルフのレンジャー、リオンは完全に思考を停止させていた。
「…一体、お前たちは、何者なんだ…?」
絞り出すようなリオンの問いに、俺はしたり顔で胸を張った。
「俺はフィン・アッシュフォージ。しがない見習い鍛冶師兼、プロデューサーさ。こっちは俺がプロデュースする最高のタレント、ハンナと、うちの事務所の重鎮、グンドハル師匠だ」
「ぷろでゅーす…? じゅう、ちん…?」
リオンの脳内では、未知の単語が不穏な意味へと変換されていく。
「話は後じゃ。日が暮れる。まずは野営の準備をするぞ」
師匠の一言で、俺たちは手際よく準備を始めた。
焚き火を囲み、俺が調理したキマイラの肉を頬張る。
「う、美味い…!」
リオンは、葛藤の末に口にした肉の美味さに、さらに混乱を深めていた。変態で、邪悪な術師で、恐るべき指揮官で、その上、料理がめちゃくちゃ上手い。彼のキャラクター評価は、もはやカオスを極めていた。
◇
夕食後。俺はハンナと師匠を呼び寄せた。
「さて、戦闘で装備に負担がかかったはずだ。夜のうちに『調整』しておく」
(始まった…! あの男の、夜の儀式が…!)
リオンが焚き火の向こうから、鋭い視線で俺たちを監視している。
「いいかハンナ、まず胸部だ。キマイラの一撃を受けた衝撃で、プレートがわずかに歪んでいる。これではお前の自慢の『バスト』の動きを阻害し、パワーロスに繋がる」
「ひゃっ!? ば、ばすと…!?」
俺はハンナの胸元の鎧を微調整する。その様子を、師匠がジト目で見ている。
「次に師匠の戦斧だ。あのキマイラの皮膚、相当硬かったですね。刃に、目に見えないレベルのマイクロクラックが入っている。このままじゃ、最高のパフォーマンスは発揮できませんよ」
「なに? ワシの龍殺しに、傷が入っただと?」
師匠が驚いて斧を見る。俺は特殊な砥石を取り出し、師匠の斧を研ぎ始めた。
「ただ研ぐだけじゃない。魂に語りかけ、その疲れを癒してやるんです。斧だって、戦えば疲れるんですよ」
俺の言葉に、師匠は「ふん、お前さんの言うことは、分からんようで、分かる気もするわい」と、まんざらでもない様子だ。
この一連の行為を、リオンがどんな顔で見ていたか。
(な、なななな、何をしているんだ、あの男は!?)
乙女の胸の鎧をいやらしく調整したかと思えば、今度はドワーフの屈強な武器まで手入れしている。
(まさか…! あの男の『調整』は、若い乙女だけでなく、老いたドワーフにまで及ぶというのか!? なんという守備範囲の広さ…! そして、あのドワーフ、嫌がるどころか、どこか気持ちよさそうな顔をしている…!)
リオンの潔癖なエルフの常識が、ガラガラと音を立てて崩壊していく。
(そうだ…落ち着け、リオン・シルヴァリーフ…)
彼は自分に言い聞かせた。
(この男は、邪悪で、下劣で、救いようのない変態だ。だが、その力は本物…。森を蝕む『汚染』の原因を突き止めるには、彼のその得体の知れない力が必要になるかもしれない…)
(そうだ…これは、森を救うための、苦渋の決断なのだ…! 私が、この一行を監視し、必ずやあの哀れな乙女とドワーフを、あの変態の魔の手から救い出してみせる!)
リオンは、悲壮な決意を固めた。その顔は、まるで殉教者のようだった。
「調整完了だ。これでまた明日も最高のパフォーマンスが期待できるぞ」
俺たちの健全なやり取りが、リオンの決意をさらに固いものにしたとは知らずに。
「…おい、人間」
リオンが、意を決したように俺に声をかけた。
「私も、お前たちに同行させてもらう。この森の案内役が必要だろう」
「え、本当か!? 助かるぜ!」
こうして、勘違いに次ぐ勘違いの果てに、奇妙な四人パーティが結成された。




