第10話:森の王と勘違いの戦闘指揮
「問答無用! この森の守り手として、貴様たちを浄化させてもらう!」
エルフのレンジャー、リオンが放った矢が、鋭い風切り音と共に俺の頬を掠めた。ひぃっ! 危ねぇ!
「フィン君、危ない!」
ハンナが俺の前に仁王立ちになり、鍬『畑の女王』を構える。
「ほう、やる気か、若造!」
師匠グンドハルも、背負っていた巨大な戦斧を手に取り、大地に突き立てる。
「乙女よ、君までその男に与するのか! 目を覚ませ!」
リオンの勘違いは、もはや成層圏を突破する勢いだ。
「ち、違います! フィン君は、私の最高のプロデューサーです!」
ハンナ! その言い方は火に油だって!
「なっ…! 洗脳はそこまで…! やむを得ん!」
リオンの狙いが、ハンナへと切り替わった。
ヒュッ!
正確無比な矢が、ハンナの肩口へと迫る!
「はあっ!」
ハンナは叫びと共に、鍬で地面の土くれを跳ね上げ、矢を弾き飛ばす。
「なっ!?」
リオンが驚愕する隙に、師匠が動いた。
「ちょこまかと、鬱陶しいわ!」
師匠が戦斧を地面に叩きつけると、ゴゴゴゴッ!と大地が揺れ、リオンの足元が大きく隆起した。
「うわっ!?」
体勢を崩したリオンに、ハンナが肉薄する。
キンッ!
リオンのショートソードと、ハンナの鍬が火花を散らす。
「この動き…! 一切の無駄がない!?」
リオンは驚愕しながらも、エルフならではの俊敏さで攻撃を捌いていく。
(この乙女とドワーフ、二人ともただ者ではない! まさか、あの男…! これほどの腕利きを完全に支配しているというのか!? なんという恐るべき人心掌握術だ!)
そんな、高度な勘違い合戦が繰り広げられていた、その時だった。
グルルルルルルルル…………
森の奥から、地の底から響くような、不気味な唸り声が響き渡った。
ガサガサガサッ! と木々をなぎ倒し、姿を現したのは、体長5メートルはあろうかという巨大な魔獣――キマイラだ。
「なっ…! 森の怒りが、具現化したというのか!?」
リオンが絶望的な声を上げる。
だが、俺の反応は違った。俺の『魂魄の瞳』には、キマイラの魂の構造がはっきりと視えていたのだ。その魂は、凄まじいパワーを秘めているが、弱点も見える。
(なるほど…厄介だが、付け入る隙はありそうだ…!)
俺が冷静に分析する間もなく、キマイラは口から灼熱の炎を吐き出しながら、俺たちに突進してきた!
「させるか!」
師匠がキマイラの前に立ちはだかる。
「うおおおおお!」
師匠の戦斧が、キマイラの硬い皮膚に叩きつけられるが、ガキン!と鈍い音を立てて弾かれた。
「ちいっ、硬いのう!」
その時、俺の『魂魄の瞳』は、キマイラの魂の構造に、ある一点の『歪み』を発見していた。
「師匠! ハンナ!」
俺は叫んだ。
「あのデカブツの、蛇の尻尾の付け根! ケツのちょい上あたり! そこに魂の弱点がある! そこが奴のウィークポイントであり、最高のチャームポイントだ!」
「なっ…! け、ケツの…チャームポイント!?」
リオンは信じられないという顔で俺を振り返る。
だが、師匠とハンナは違った。
「ほう、ケツとな! 分かりやすい!」
「分かったわ、フィン君! 私の最高のパフォーマンス、見せてあげる!」
「師匠はキマイラの注意を正面から引きつけてください! ハンナは側面に回り込んで、奴の体勢を崩す! リオンは上から矢で援護だ!」
俺の指揮が飛ぶ。
「な、なぜワシがお前の指図を…まあいい! 面白そうじゃ!」
「分かったわ!」
「くっ…! だが、今は従うしか…!」
師匠が正面でキマイラと打ち合い、その隙にハンナがキマイラの足元を鍬で払い、体勢を崩させる。リオンの矢が、キマイラの注意を上へと向けさせる。
完璧な連携だ!
そして、キマイラの尻ががら空きになった、その一瞬。
「今だ、ハンナ! 芋掘りの要領だ! 深く、えぐるように!」
「うぁぁぁぁぁ!」
ハンナは雄叫びと共に、鍬『畑の女王』を、キマイラのチャームポイント――もとい、ウィークポイント――に、全力で叩き込んだ!
ズンッ!
鈍い衝撃音。
キマイラの巨体が、ビクンッ! と大きく跳ね上がり、甲高い悲鳴を上げて地面に倒れ伏した。
「……え?」
リオンが呆然と静止する。
「馬鹿な…村娘とドワーフ、そして私が…この男の指揮で、森の王を…?」
そして彼の視線は、したり顔で頷いている俺に向けられた。
「お前の指示、か…? あの変態的な指示が…なぜ…?」
俺はリオンの困惑など気にも留めず、ハンナと師匠に駆け寄った。
「やったな、二人とも! 完璧な連携だったぞ! これで、俺たちの実力も分かってくれただろ?」
俺がエルフのイケメンにニヤリと笑いかけると、彼はただ、口をパクパクさせながら、俺たちを交互に見つめるだけだった。
「…一体、お前たちは、何者なんだ…?」




